今回の実例は、ガーディアンの日曜版であるオブザーヴァーに掲載された、週末の長文記事から。
「ウィンドラッシュ」と聞いてピンとくる人は日本語圏では少ないだろう。第二次世界大戦後に英国の覇権が過去のものとなり、大英帝国が英連邦になったときに、英国の支配下にあったカリブ海諸国やアジア諸国からブリテン島に大勢の「移民」が渡った。「移民」といっても大英帝国の国民(より正確には、英国の場合は臣民)なのだから、国内の移動・移住だ。だが有色人種の彼らは「移民」と呼ばれた。「ウィンドラッシュ Windrish」はその「移民」たちを大勢載せた船の名前だ。
ウィンドラッシュ号でブリテン島に渡った人々は英国市民として、戦後成立した「ゆりかごから墓場までの福祉国家・英国」の下支えをしてきた。そして彼らが老いたときにいきなり、英国政府は「敵対的環境 hostile environment」などという恐ろしい言葉を政策として打ち出した。そのときの首相はデイヴィッド・キャメロン、移民政策のトップである内務大臣はテリーザ・メイだ。
テリーザ・メイに対しては日本語圏では妙な同情論がとても強いのだが、彼女が英国で支持者以外からは冷ややかに見られているのは、内務大臣のときに彼女が何をしたかによる。
それを前提として、今回の記事:
筆者はウィンドラッシュ・スキャンダルについてドキュメンタリーを製作した。文中のJudyはそのドキュメンタリーで体験を語った、中心的な人物である。彼女は筆者のオフィスに、出来上がったドキュメンタリーの最終チェックのために訪れた。そして涙を流した。筆者も涙を禁じ得なかった――ということが、記事の冒頭に書かれている。そして:
I cried last month not only because Judy cried, but because I was enormously relieved that our film meant something to her.
太字にしたのは、 《not only A, but (also) B》の形である(alsoはあってもなくてもよいが、実際に見る例ではないことが多い)。意味は「AだけではなくBも」。
I bought not only a loaf of bread but also a pack of rice.
(パンだけではなく、ごはんも買った)
下線で示した部分は、《感情を表す形容詞+that + S + V》の形になっている。このthat節はその感情の原因・理由を表す。「~して…した(ほっとした、落胆した、悲しく思った、など)」の意味。
I was happy that my friend succeeded in the exam.
(友人が試験で成功したので、うれしかった)
実例として見た文は「先月私が泣いたのは、ジュディーが泣いたからだけではなく、私たちのドキュメンタリー映画が彼女にとって何かを意味したということで非常に安堵したからだった」という意味だ。