まず、台風19号で被害をこうむられた方々にお見舞い申し上げます。あまりに巨大な台風で、滞在時間も長く、翌日の台風一過の青空のもとでもまだまだ被害が次々と伝えられていて、自分の近隣には被害はなかったのですが、自然の猛威に震撼としています。「自然の猛威」というより、「地球温暖化の猛威」と言うべきかもしれませんが。
さて、というところで今日の実例。
ラグビーのワールドカップは、台風19号(Typhoon Hagibis)の直撃のため、12日(土)に横浜で行われる予定だったイングランド対フランスの試合と、豊田で予定されていたニュージーランド対イタリアの試合の中止を11日には決定、台風が去った後の13日(日)の試合も、実施するかどうかは台風被害の様子を見てから判断すると発表していました。
これにすさまじい反発を示したのがスコットランド(のラグビー協会。スコットランド自体が反発したわけではありません)。13日、グループステージ……って言わないんだっけ、ラグビーは……プールステージ最終戦となる日本との試合が流れたら、確実にトーナメント進出ができなくなるので、試合ができなくなることはスコットランドにとっては非常に深刻な問題。一方で、12日に試合中止となったイタリアは勝てばまだ上に行けたかもしれず不満があったそうですが、イングランド、フランス、ニュージーランドは既にトーナメント進出が決まっていて、スコットランドのような反発は出ませんでした。そもそも理由が台風だし。
そして「英国のメディア」は、実質、「イングランドのメディア」で、普段からスコットランドの扱いは、まあ、何というか、その……。テニスのアンディ・マレーも常に勝てる系のプレイヤーになるまでは「試合に勝てばBritishとしてほめられ、負ければScottishとして相手にもされない」という目にあわされ、「あれはいやだった」とインタビューで語っていたことがあるのですが*1、イングランドのメディアは、元から、スコットランド人の不品行が大好物です。「あいつらにはことの道理がわからない」という謎の上から目線でスコットランドを見下すのは、いわば「イングランドしぐさ」です。そして、イングランドは非常に声が大きい。
だからスコットランドのあれは非常に目立った。
私はラグビーは知らないし、今回のワールドカップも特に見てないのですが(テレビがないし……ただしアイルランドはいろいろあるのでTwitterでサポーターのフォローくらいまではしてます)、日々チェックしている英国のメディアでは、スコットランドの反発がスポーツ面のトップニュースの扱いになってはいました(一般ニュースとは別枠で)。
今回、実例として見るのは、そういうときに出ていた英ガーディアンの記事。ただし、見出しの段階から、「スコットランドの言うことにも一理くらいある」というトーンです。そしてそれ自体は、私も「そうですよねー」と思わずにはいられません。
台風シーズンに行う大会で、予定の試合会場が使えなくなった場合の代替の会場が、わずか14マイル(23キロくらい)しか離れていないというのは、確かに、意味わかんないと思います。同じ台風でほぼ同時にやられることはわかりきってる。今回の台風19号はあまりに巨大すぎて基準にならないのですが、横浜が台風にやられて使えなくなった場合の代替会場とするなら、例えば大阪とか新潟くらい離れてないと意味をなさない。
「訴えてやる」云々のスコットランド・ラグビー協会の反発自体は「お前、それ、言う?」っていう感じの内容だとは思いますが、「14マイルしか離れてないんじゃ代替にならないだろ。大会主催者はなぜそんな案を通せるんだ」というのは、まあ、ごもっともだと思います。
ともあれ、本題へ。
キャプチャ画像の上の方:
Had Oita, or Sapporo – 700 miles north of Yokohama – been designated as alternatives in the first place cancelled matches could have been avoided.
まず最初に、"–"(ダッシュ)で挟まれている部分は《挿入》なので、文構造を取るときは下記のように外して考えます。
Had Oita, or Sapporo – 700 miles north of Yokohama – been designated as alternatives in the first place cancelled matches could have been avoided.
英語の文がいきなりhadで始まるということは、普通の文ではありません。このように動詞が先頭に来ているのは(動詞の原形が先頭に来る命令文を除いては)《倒置》の文です。
《倒置》とは、前にも説明してあるので詳しくは「カテゴリー」から過去記事を見ていただきたいのですが、通常 《S + V》の語順になっているものが、《V + S》の語順になっていることを言います。動詞そのものが主語の前に出ることもないわけではないですが、ほとんどの場合は助動詞が用いられます。
I seldom used the car.
→ Seldom did I use the car.
(その車はめったに使っていなかった)
今回の実例では、《仮定法過去完了》でifが省略されて、代わりに《倒置》が用いられるという構文が使われています。つまり:
If Oita, or Sapporo had been designated as alternatives in the first place cancelled matches could have been avoided.
→ Had Oita, or Sapporo been designated as alternatives in the first place cancelled matches could have been avoided.
If節(というか条件節)はin the first placeまでで、この直後にコンマを補って考えると文構造がはっきり見えるでしょう。
→ Had Oita, or Sapporo been designated as alternatives in the first place, cancelled matches could have been avoided.
文意は「最初に大分もしくは札幌が代替地にされていたならば、試合の中止などということは避けられていただろう」。
(それはそれで、移動の問題があるんですけどね。横浜から大阪、ひょっとしたら広島くらいなら、突然変更になってもまあ何とかなるにせよ。)
次の文:
“We always knew there would be risks but it’s rare for there to be a typhoon of this size at this stage of the year,” said Gilpin on Thursday.
ここは《it's ~ for ... to do --》の構文ですが、to不定詞の意味上の主語(つまり名詞)であるはずのforの後が、thereという副詞になってます。
あまり頻繁に見る形ではないかもしれませんが、これは《there is/are ~》の構文と《it's ~ for ... to do --》が合体した形。
It's unusual for there to be enough water in the fall for canoeing.*2
(← There is enough water in the fall for canoeing.)
(秋に、カヌーをするのに十分な量の水があることは珍しいです)
It's common for there to be items in the home that will need to be removed.*3
(← Threre are items in the house that will need to be removed.)
(搬出される必要のあるものが家の中にあるというのはよくあることです)
なお、キャプチャ画像の最後のセクションにある "if the match is called off" や "even if it has to be behind closed doors" は、ifが使われていますが仮定法ではなく、直説法です(《条件》を表す副詞節)。これも解説できるとよかったかもしれませんが、あいにく時間切れです。
スコットランドが変なキレ方をしたこの一件がおもしろおかしく伝えられたのか、「悪者のスコットランドをやっつける正義の味方、日本代表」みたいな単純な世界観が子供たちの間にも見られるようです。子供も「ネタ」としてわかってやっているのかもしれませんが、スコットランドのラグビー協会のことを「スコットランド」と捉えてしまうことも、「悪と正義」の物語を勝手に作ってしまうことも、あまりよいことではありません。本稿がそういった単純な世界観(があるとすれば、それ)を揺るがす方向で少しでも役に立てたらと思います。
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