このエントリは、今年4月にアップしたものの再掲である。英語は「学校で習う科目」である以前に「日常で使われている言語」であり、必ずしも「教科書通り」ではない。この事例は、そういう実際の英語としてかなりわかりやすい事例だと思う。英語を「科目」としてとらえることに退屈を感じている中学生や高校生の方には、こういう実例を知って興味を膨らませていってもらいたいと思う。
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今回の実例は、アイルランド鉄道(アイルランド国鉄)のTwitterから。トピックは動物が先行詞になっている場合の関係代名詞で、2月に当ブログで取り上げたベルファスト動物園でのチンパンジー大脱走で見たこととかぶる。実に、アイルランドは事実上「わくわく動物ランド」である。
“Hamish”, who commuted on the 08:46 Sallins - Heuston this morning, is currently being looked after at home by a staff member, but we are still looking for his owner. Sallins / Naas area, do you know someone who owns a dog like this? pic.twitter.com/aqAu5JO35e
— Iarnród Éireann (@IrishRail) April 3, 2019
アイルランド鉄道が、飼い主を伴わずひとりで電車に乗ってきた犬を駅で保護した。首輪にも何の手がかりもなく、マイクロチップも埋め込んでいないので、「ヘイミッシュ (Hamish)」という仮の名前をつけて、Twitterなどで飼い主を探している――というのが、このツイート(連続ツイートのひとつ)の文脈である。
したがって、文頭の "Hamish" はこの犬の(仮の)名前なのだが、それを先行詞とする関係代名詞として、《人》について用いるwhoが使われている。犬は《動物》なので、関係代名詞はwhichやthatを使うのが原則だが、ここでは人間扱いだ。
以前見たベルファスト動物園でのチンパンジー大脱走の事例では、報道機関がチンパンジーという動物について、whichを用いずにwhoを用いていた。ニュートラルな立場にある報道機関が動物を人間扱いしていたのは、脱走したチンパンジーが道具を使うという極めて人間的なこととされる行為をしていたからだろう。
裏返せば、飼育員など、このチンパンジーたちと直接「個」として接する機会がある人々にとっては、チンパンジーたちは常にwhichではなくwhoで語られるような存在であると考えることができる。
アイルランド鉄道が保護した犬にwhichではなくwhoを用いているのも、同様の背景と考えられる。さらにいえば、その犬は「ヘイミッシュ」という(人間の)名前をもらっている。人が誰か・何かに固有の名前を与えるということは、その相手・対象に固有の「人格」を認めているということで、ここでは「犬のヘイミッシュ(仮)」にwhoが用いられていたら、違和感が生じることになるだろう。
そしてこの関係代名詞は、《非制限用法》で用いられている。非制限用法は、補足的に情報を付け加える場合に用いられ、「ヘイミッシュは、今朝8時46分のサリンズ発ヒューストン行きの列車に乗ってきたのですが、現在職員が自宅で面倒を見ています」という文意になる。
なお、この犬の保護から飼い主の特定に至る経緯は、下記にまとめてある。一匹の小さな犬のために人々がどれほどの関心を寄せているか、アイルランドで動物たちがいかに大切にされているか(馬やロバのための保護施設がある)といったこともわかると思う。関心がある方は見てみていただきたい。英語にはざっくりとした対訳つき(完全な翻訳ではないが)。

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