今回の実例は、かなり「オタク向け」だと思う。
《人》を先行詞とする場合の《関係代名詞》について、「主格ならwhoで目的格ならwhoかwhomを用いる。thatを使ってもよい」と教わった人が日本では大半だろうし、それを前提として、「でも、今どき、whomなんて使わないですよ」という「今どき」論が出されることはよくあることで、さらにその「今どき」論に対して「でも、英国ではwhomを使うのが普通ですね」という「でも英国では」論が出されることもまたよくあることである。
というか、「今どきのネイティヴはwhomなんて使わない」というざっくりとした乱暴な断定と、「だが英国では使う」という指摘は、漫才のボケとツッコミのようにセットになっている。
しかし、その英国でもwhomよりもwhoが用いられることが多い。
それも、その辺のだれかがそうしているのではなく、BBCが率先してやっている。
そういう実例。
Johnny Depp has won his defamation case against ex-wife Amber Heard, who he sued over claims of domestic abusehttps://t.co/CVttyeVT3o
— BBC Breaking News (@BBCBreaking) 2022年6月1日
"Amber Heard, who he sued..." のwhoは、従来のイメージだと、英国の報道機関(それもBBC)ならwhomを使っていそうなところだ。"he" が主語で、"sued" が動詞で、"who" は目的格だからだ。しかも先行詞が固有名詞だから、非制限用法。
ところが、ここまでwhomっぽい場面でも、BBCはwhoを使っているのである。
ウェルカム・トゥ・2022年。
だからといって、「whomなど今どき全く使われない」というわけではないので、その点はご注意いただきたい。動詞の目的語ならともかく、前置詞の目的語になるときは基本的にwhomだし。
今日は短いけど、これだけ。そのうちに、BBC Newsのスタイルガイドなども参照して、もう少し分量のある形で書けたらなあと思ってはいます。
なお、この件、Twitterでちょこっと書いたら意外と反応があったので、こちらにも書いておくことにしました。
#英語 #実例
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年6月1日
そうなんですよ、BBCがwhomを使わなくなってるんですよ。 https://t.co/vooeOPs5sD
英国での関係代名詞に変化がみられるという例は、こちらのエントリもご参照のほど。
hoarding-examples.hatenablog.jp
引用:
"the PM, the Chancellor and the PM’s wife all attended illegal parties, that breached Covid laws written by the PM" の、太字にした ", that" は《関係代名詞の非制限用法》だが、本来whichを用いるべきところでthatを用いているというイレギュラーな例である。「グラマー・ナチ」とか「文法警察」と呼ばれる人は眉を顰めるだろうし、受験でこれをやってしまうとおそらく減点されるだろうが、このように、thatを関係代名詞の非制限用法で用いる実例は、ニュース英語でもときどき見かける。
※1500字