このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。「読み」としては、難しいことを考えずに素直に英語をたどっていくだけで、新しい世界を見せてもらえるタイプの文章である。つまり、読んで楽しい文だ。
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今回の実例は、類人猿の行動の研究からわかったことについて説明する、とても読みやすい記事から。
以前「人間独自の能力」と言われてきたものが、近年、研究の結果、必ずしもそうとは言えないとわかってきたという例がいくつかある。今回見るBBC記事も、そのような最新の研究についてのものだ。学術論文のスタイルではなく一般人にわかる形式で解説・説明することが目的の記事である。
記事はこちら:
見出しでは「チンパンジー」と限定されているが、実験はチンパンジーとボノボを対象に行われたものだそうだ。
実験では、これまでの研究の結果、類人猿が興味を示すことがわかっている映像を用いて、「ある映像を他の個体と一緒に見る」という体験をさせて(してもらって)いる。記事の前半は、実験がどのように行われたかを淡々と説明する部分が多い(これは学術論文でもよく見られるスタイル)。
実例として見るのは、そのあとの部分から。
キャプチャ画像の一番上のパラグラフも、写真を挟んで次のパラグラフも、-ing形で始まっている。
この-ing形は、それぞれ、動名詞だろうか、現在分詞だろうか。それを見極めてみよう。
この見極めができないと、正確な読解は不可能だから、これは非常に重要である。
まず最初のパラグラフ。-ing形は2つある(太字):
Using data from 45 apes, mostly chimpanzees and some bonobos, the researchers studied changes in behaviour after they had watched a video of a family of chimps playing with a young chimp.
やや長い文だが、スラッシュやカッコを入れて構造を見てみよう。
Using data from 45 apes(, mostly chimpanzees and some bonobos,) / the researchers studied changes in behaviour / after they had watched a video of a family of chimps (playing with a young chimp).
最初にカッコに入れた ", mostly chimpanzees and some bonobos," の部分は、コンマで挟んだ《挿入》で、直前の "45 apes" と《同格》の関係にある。「45頭の類人猿、そのほとんどはチンパンジーで、数頭のボノボも含まれていたが」という意味。
その次のスラッシュの直後の "the researchers" が文の主語で、"studied" が文の動詞だ。
つまり、"Using ... bonobos" の部分は、文の構造に入っていない。意味的に考えても、「研究者たちは、~を研究した」+「…を用いて」ということが確認できよう。この "Using" は現在分詞で、"Using ... bonobos" の部分は《分詞構文》だ。
"the researchers studied changes in behaviour" の change in ~は「~の変化」だが、ofではなくinが用いられることに注意が必要となる。change of ~だと「~が変わること、~が交替すること」の意味だが、change in ~だと「~における変化・変動」の意味になる……と日本語で説明していてもとてもわかりづらいだろう。change of ruling partyは「与党の交替(政権交代)」で、change in the partyだと「党における変化」(要職者の人事とか、方針の変更とか)、という例を覚えておくと、あとあと役立つだろう。
発展的には、この点について、英語学習掲示板のやり取りも参考になるかもしれない。
そのあと、"after" の前で、この文はまた大きく区切ることができる。このafterは接続詞で、そのあとは《時》を表す副詞節だ。
after they had watched a video of a family of chimps (playing with a young chimp).
ここで "had watched" と過去完了が用いられているのは、主節の "studied" (過去)の1つ前の時制(大過去)だから。研究が行われる前に、実験で観察対象となったチンパンジーやボノボがビデオを見ていた、ということである。
ここでカッコに入れた部分の最初にある "playing" は現在分詞で、直前の "a family of chimps" を修飾する句を導いている(後置修飾)。「若いチンパンジーと遊んでいるチンパンジーの家族」という意味だ。
では、キャプチャ画像で写真を挟んだ次のパラグラフ:
Watching the film together made them much more likely to bond afterwards (- such as staying close together, touching or interacting with each other).
この文は、ダッシュ(-) のあとは《補足情報》。単なる付け足しなので、文構造を取るうえでは無視しておいて構わない。
この文頭の "watching" は、さっき見た文と同じく、分詞構文の先頭になっている現在分詞だろうか。
そうだとすれば、このあとに文の主語と述語動詞になるものがなければならない。しかしこの文にはそれが見当たらない。
そこで、逆に《動名詞》ではないかと見当をつけてみると、この文は動名詞を主語としているということが見えてくる。つまり:
[S]Watching the film together [V]made [O]them [C]much more likely to bond afterwards
このような《make + O + C》の構造(いわゆる「第5文型」で「OをCにする」の意味)になっている。主語である "Watching the film together" は「一緒に映画を見ること」で、それが「彼らを、いっそう~にした」という文だ。
Cになっている部分にある "likely to do ~" は、多くの場合 "be likely to do ~" とbe動詞とセット出てくるのだが、「~しそうな」の意味。それに比較級のmoreがついているので、「いっそう~しそうな」、「より~しそうな」となる。
よって文意は、「一緒に映画を見れば、彼らは、そのあとで絆を深めやすくなる」ということになる(直訳は非常にやりづらいので勘弁)。
このように、「一緒に映画やTV番組を見る」という体験を通じて、一緒に見た相手とのつながりが強まるというのは、これまでは人間ならではのことだと考えられてきた。それが今回のチンパンジーとボノボの実験で、どうやらそうとは限らないようだということがわかったということである。
スマホ時代、人間は一つの場所に集まっていても、それぞれ違うものを見ていて、「同じ映像を見る」という体験を共有していないということが増えている。このBBC記事では、その話もしながら、「何かを共有するということ」についてちょっと考察している。「共有する」とは、「自分だけで終わらせず、人にも伝える」ということだ。カンカン照りの日に「今日は暑いっすねー」「ほんと暑いっすね」と、特に何か意味のあることを言うでもなく言葉を交わすのも、「このカフェのドリンクが美味しい」などといったことを、別に宣伝の意図などなくSNSに投稿するのも、「ねーねー、聞いて聞いて」と誰かに何かを話すのも、その「共有」の例だ。
そして人間の場合、その「共有」のために言葉を使っている。
では類人猿ではどうなのだろう。
今後の研究の進展が楽しみな話だ。
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