Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

時制の一致をめぐる、ちょっと珍しい例(新型コロナウイルスの影響で、007映画の新作が公開延期に)

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今回の実例はTwitterから、ちょっと珍しいものを。

学校で習う英語の文法で、日本語母語話者にとってちょっとめんどくさいのが《時制の一致》だ。間接話法にしたときに、従属節の動詞の時制を主節の動詞に合わせるという例のあれだ。

  Tom said, "I'm hungry." ←この現在形が……

  → Tom said that he was hungry. ←saidに合わせて過去形になる

 

  Tom said, "I'll buy a new phone." ←《未来》を表す助動詞willの場合……

  → Tom said that he would buy a new phone. ←過去形のwouldになる

 

  Tom said, "I went there by myself." ←過去形の場合は……

  Tom said that he had gone there by himself. ←過去完了になる

 

こうやって何でもかんでも、「主節が過去形なら、従属節も過去形」とやっておけばいいのなら、機械的で楽である。実際、そのように機械的に「主節が過去形だからthat節も過去形」というようになっていることが多い。この《時制の一致》が《惰性の一致》(江川泰一郎)と呼ばれる*1ゆえんである。

一方で、この《時制の一致》には例外がある。「例外」があるとは、「時制の一致をしない場合」があるということだ。めんどくさい。

この「例外」には、(1) 不変の真理・一般的事実を表す場合(「地球は丸い」とか「冬は寒い」とか「犬は知らない人を見ると吠える」とか「猫は人間を下僕だと思っている」とか)、(2) 歴史上の事実を表す場合(例えば「徳川家康は1603年に江戸幕府を開いた」という過去形の文を目的語のthat節にするときは、主節の動詞が過去形でも過去完了にせず過去形のままでよい)、(3) 仮定法の場合(主節の動詞が過去形でも、仮定法過去を仮定法過去完了にしたりせず、仮定法過去のままでよい)、そして (4) 現在も変わらない内容を表す場合……がある。

この (4) が「はて、何のこっちゃ」となりやすい。「現在も変わらない内容」とは、主節が過去形でもthat節の内容が過去になっていない、ということ。ますます何のことかわからないかもしれないが、例文で見ておこう。

  I didn't know Karen is dating with Mike. 

  (カレンがマイクとつきあってるとは、知らなかった)

現に今も、カレンとマイクはつきあっていることが前提の言い方だが、「さっき聞いたんだけど、カレンってマイクとつきあってるんだってね、わたし、知らなかったよ」みたいな感じ。

ただしこの場合、時制を一致させることもある。なぜなら《時制の一致》は《惰性の一致》だからだ。

  I didn't know Karen was dating with Mike. 

としても、言ってることは基本的に同じなのだ。ただしここで過去形にすると、「その時、カレンとマイクが付き合ってるっていうことを、その時、私は知らなかった」と言っているような感じになる。何年か経ってから振り返っているときの言い方だ。

……ほらね、ややこしい。

 

日本で英語を外国語として習った人は、この《時制の一致》を生真面目に気にすることが多いが、実際にはこの (4) に該当するようなケースは、よほど不自然でなければネイティヴ英語話者から直されることもない。

この違いについて、江川泰一郎は『英文法解説』において「話者の視点の置き方で決まる」と解説している (p. 468)。この解説がこの名著の白眉であるが、詳しくは本を買ってそこでお読みいただきたい。この本はとにかく、英語を身に着けようとする日本語母語話者なら持っておきたい一冊だから、持ってない人は買うべきである。 

英文法解説

英文法解説

 

というわけで今回の実例。エンタメ産業の主要な一角を占める新作映画の製作陣と配給会社が、新型コロナウイルスの世界的感染拡大がしばらく収束しそうにもないと見て、大きな判断をしたという告知だ。

 

主語がやたらと長いので読みづらいかもしれないが、構造は単純だ。スラッシュを入れるなどして解析してみよう。

MGM, Universal and Bond producers(, Michael G. Wilson and Barbara Broccoli,) announced today [ that / after careful consideration and thorough evaluation of the global theatrical marketplace, / the release of NO TIME TO DIE will be postponed until November 2020. ]

文全体の主語は "MGM, Universal and Bond producers" で、これは固有名詞さえ知っていれば「MGM社、ユニヴァーサル社およびボンド映画のプロデューサーたち」と楽に読めるだろう。

その後の、カッコに入れて薄いグレーで示した部分は、ピリオドに挟んで《同格》が《挿入》されているところで、"Bond producers" の個人名を挙げているだけだから、情報を得ることだけが目的なら、読み飛ばして構わない。

文全体の述語動詞は、この挿入部分の直後にある "announced" で、その目的語がその後のthat節だ。

that節内は、"after careful consideration and thorough evaluation of the global theatrical marketplace," という副詞句が前に来ていて、主語は下線で示した "the release of NO TIME TO DIE", これの述語動詞が太字で示した "will be postponed" である。(ちなみにNO TIME TO DIEは映画のタイトル。)

つまり、主節の動詞が "announced" と過去形なのに、従属節内の動詞が(willの過去形であるwould ではなく) "will be postponed" となっている。

これは文法ミスではなく、話者(この場合はツイートを書いた人)の視点というか気持ちがどこにあるかでこうなっている。映画は4月上旬に全世界で相次いで公開される予定になっていたが、これが11月まで延期されるということを、3月上旬に告知しているわけだ。

ここで、「告知した」ということは(たとえツイート時点から1秒前であっても)《過去の事実》なので過去形で "announced" を使っているのだが、その告知の内容、つまり映画の公開延期は、話者の中ではリアルタイムの現在から見たこの先の予定(未来)のことなので、"will" が用いられているわけだ。

もうひとつ、ここで時制の一致をさせていないのは、ここでwouldを使ってしまうと《仮定法》のように見え、「延期される」と断言している感じではなく「延期されるかもしれない」と含みを持たせているようにも受け取られかねない、ということもあるのではないかと思う。

 

一方、映画製作陣・配給会社からちょっと距離のある報道機関では、この件を伝えるにあたり、普通に《時制の一致》をしている。

 

というわけで、今回は英語オタクが珍品コレクションを見てにやにやしているみたいな内容になってしまったが、英語にはこういうこともあるということを知っておくのは、損にはならないだろう。というかこういう実例を知っておけば、少なくとも、最初のボンド映画公式アカウントのツイートに対して「時制の一致をしていない!間違っている!」と騒ぐなどの醜態をさらすことは、この先もないだろう*2

 

こういった英語の幅というか何というかそういうものについて、もうちょっと知っておきたいという方には、江川『英文法解説』のほかに、読み物として、行方昭夫(なめかたあきお)先生の『英会話不要論』もおすすめ。紙の本も入手しやすいし、Amazon Kindleもあるけど、Honto(ジュンク堂大日本印刷)では3月8日まで期間限定でポイント10倍のセール対象になっていてお得。763円の本で347ポイント戻ってくる(1ポイント=1円で使える)。 スマホタブレット、PCでアプリを使って読める。行方先生は英語そのものを解説した著作も多くあり、それは紙の本に鉛筆やマーカーで書き込みをしながら読むのがよいと思うが、この本は日本語で読むための読み物として書かれているから、紙の本に書き込みながらというスタイルでなくても内容を把握できると思う。

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2020年3月5日、twitter/ @007

 

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*1:これは江川先生一流の言葉遊びで、正確さを期すならば「惰性による一致」と言ったほうがよいだろう。

*2:実際にあるのですよ、日本人で自分は英語ができると自負している人がネイティヴの英語にいちゃもんをつけるということが……それも「どっちでもいいんですよ」というような細かいところで。それこそatかinか、viaをどう読むか、とかね。英語を道具としてではなく言葉として真剣に勉強している人は、硬直的な態度はあまり取らないものなんですが。