Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「買いだめ」「かさばる」などの英語表現あれこれ(トイレットペーパー買い占め騒動)

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今回の実例は、日本と同じような現象が起きているオーストラリアについての報道記事から。

ただし今回はいつもとは趣向を変えて、「それって英語でどう表せばいいの?(英語でどう言うの?)」ということを学ぶ、という方向で。

新型コロナウイルスの感染者が増加する中、日本で2月末から3月初めの約1週間の間、その実態もないのに、「トイレットペーパーがなくなる」という不安・恐怖にかられた人々が「見たら買う」という行動に出て、店頭からトイレットペーパーがスッキリ消えるということが起きていた。

手を清潔にするためのハンドジェル(英語ではhand sanitiser[sanitizer]という)やウェットティッシュ(英語ではwet wipes, baby wipesという)、手を洗うための石鹸・液体石鹸などなら店頭から消えるのはわかるが、新型ウイルスとトイレットペーパーはかすってもいない。

でも、人々がばかすか買い込むので、店頭から消えてしまう。そういう現象は日本でだけ起きたわけではない。

BBCがオーストラリアで起きたこの現象についての記事を出した。今回見るのはそれだ。記事はこちら: 

www.bbc.com

この件について、解説的なことは下記のページ(NAVERまとめ)に書いてあるので、そちらをご参照いただきたい。

matome.naver.jp

本稿では、純粋に、英語の表現を見ていくことにする。

まず、「~を買いだめする」は、記事見出しにあるように、stockpile ~という。stockは日本語でもカタカナで「ストック」と言う通り(例: 「シャンプーのストックがないから買ってこなきゃ」 「歯磨き粉のストックが切れた」)、「予備」「買い置き」「備蓄品」の意味。pileは他動詞で「~を山積みにする」、名詞で「(何かを積んでできる)山」の意味で、stockpile ~は、そのまま訳せば「~の備蓄品を山積みにする」の意味。名詞なら「備蓄の山」だ。

これは語義を英英辞典で見ておくとよいだろう。下記にCollins CobuildのURLを貼っておくので各自確認されたい。

https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/stockpile

 

記事本文はかなり分量があるが、ここで見るのは少し下の方から、次の部分。まずざっと見て、意味の分からない語句、意味を確認したい語句を手元のノートやメモ帳に書き出してみよう(固有名詞はスルーしてよい): 

f:id:nofrills:20200306040923p:plain

2020年3月4日, BBC News

単純な単語レベルではもっとたくさんの語がピックアップされているかもしれないが、だいたいすべての人によって、以下の太字のような語句が書き出されているのではないかと思う。

Consumer psychology experts say the behaviour is "obviously irrational", and a clear example of herd mentality whipped up by social media and news coverage.

The pictures of bare aisles haven't helped.

"What you've got to remember is that when 50 packs of toilet paper rolls disappear off shelves, you really notice it because they take up so much room," says Prof Debra Grace from Griffith University.

"It's much more noticeable than say 50 cans of baked beans or hand sanitiser disappearing."

[写真]

Barren shelves in a Sydney supermarket

 "herd" は「牛などの動物の群れ」のことで、"herd mentality" は「群集心理」だ。

その直後の "whipped up" のwhipは「ホイップクリーム」の「ホイップ」で、whip upは「泡立てる、掻き立てる(かきたてる)」といった意味を紐づけておくとよい*1

"herd mentality whipped up by social media and news coverage" は、「ソーシャルメディアやニュースでの扱いによって、掻き立てられた群集心理」という意味。

 

"bare" は「裸の」という形容詞で、bare footは「裸足」、bare handsは「素手」の意味になるが、ここではaisles(スーパーマーケットなどで商品が並んでいる通路)がbareだと述べているので「空の」という意味になる。

これは、引用部分の一番下にある写真キャプションの "barren shelves" とほぼ同義。barrenは「荒涼とした、不毛な」といった意味で、この単語でGoogleイメージ検索をすると例えば次のような画像が出てくる(barrenという単語を覚えるためのイメージ画像としてとてもよいものだ)。

 Barren mountains

 "barren shelves" は「豊かな中身が何もない棚」「空の棚」だ。

 

さて、今回見ている部分ではもうひとつ、注目してほしい表現がある。

この中に「かさばる」を英語で表している箇所がある。どこかわかったらそれを書きぬいてほしい。

 

できただろうか。

 

そう、下記の太字の部分だ。

"What you've got to remember is that when 50 packs of toilet paper rolls disappear off shelves, you really notice it because they take up so much room," says Prof Debra Grace from Griffith University.

 この最後の "room" は「部屋」ではなく「余地、場所」の意味で(不可算名詞であることに注目。「部屋」ならば可算名詞だからaがつくかroomsと複数形になる)、「そんなにも(非常に)たくさんの場所をふさぐ(とる)」と直訳される。

日本語の「かさばる」とはつまり「多くの場所をとる」という意味なので、「かさばる」がそのまま英語にできなければ、いったん「多くの場所をとる」と言い換えて(これを「英作文に必要な《和文和訳》」という)、「多くの場所」= much room[space], 「~をとる」= take up ~と英語にしていけばよい。

大学入試で和文英訳が課される場合、この《和文和訳》がいかにできるかが鍵となることが多い。普段からなるべく練習しておきたい。

 

ちなみに「かさばる」をWeblioの和英辞典にかけると、bulkyと表示されるが、これは形容詞なのでbe bulkyという形にしないと英語にならない。Toilet paper rolls bulky. では英文にならず、Toilet paper rolls are bulky. としなければならない。オンライン辞書の検索結果を見てそういったことが判断できるかどうかは、単語力ではなく文法力があるかどうかだ。単語だけ覚えても英語は書けるようにならないというのは、そういうことである。

 

私が受験生のころ、「アレクサンダー大王は東方に遠征した」を英語にせよ、という課題を出されたことがある。「東方に」は即座にeastward, to the eastで表せるが、「遠征した」なんて単語は知らない。そこで行われたのが《和文和訳》だ。これはどんなにつたなくてもいい。最終的に英語にすることが目的なので、その過程の日本語の質は問わないのだ。「遠征した」は、言い換えれば「遠くまで行って征服した」だ。そう考えて、went far into the east and conquered the land と表した。そのように言い換えて、言いたいことが表せるかどうかが、入試での和文英訳で問われる能力である。もちろんその前に、課題の日本語の文が正確に読解できるかどうかが重要なのだが……。

受験を控えてみるみなさんには、そのことを意識してなるべく多くの表現に接していてほしいと思う。

もちろん必要最低限知っていないと話にならないという単語・熟語はあるが、和文英訳で問われる能力は単語力ではない。言おうとすることを、的確な表現で表せるかどうかだ。それは「書く英語」の力でもあり、「話す英語」の力でもある。

 

参考書:  

和文英訳の修業

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京大入試に学ぶ 和文英訳の技術(テクニック)

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  • 作者:小倉 弘
  • 発売日: 2016/03/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

*1:ここではこう説明しておくが、whipという英語はなかなか奥深いので、辞書でその項をじっくり読んでみてほしい。

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