Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

挿入、間接疑問文、時制の一致をあえてしない場合(アンネ・フランクの同級生)【再掲】

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このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。日本語での表現と英語での表現の違いに注目してお読みいただければと思う。

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今回も、前回と同じく、アンネ・フランクの日記の増補改訂・新訳版が英国で出版されることを受けての記事から。

アンネ・フランクについての説明は不要と思われるが、前回少し書いておいたので、「名前だけは知っている」という方はそちらをご参照のほど。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

前回は、記事の冒頭で、『アンネの日記』でユダヤ人学校の同級生として一言だけ言及されているアルバート・ゴメス・デ・メスクィタさんは、今もご存命であるということが書かれている箇所を見た。

今回見るのは、その少し先の部分。世界で最も有名な本の一冊である『アンネの日記』(60の言語に翻訳され、3000万部が売れている)に(一瞬だけとはいえ)出てくる人物であるアルバート・ゴメス・デ・メスクィタさんに、この記事の筆者(オランダ出身のオックスフォード大学英語教授で、アンネ・フランクと同じようにオランダで潜伏生活を送っていたユダヤ人についての著書でコスタ賞を受賞した文筆家でもある)が話を聞いているくだりである。

 

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2019年5月25日、the Guardian

挿入部分がとても長く画面に収まりきらないのでキャプチャ画像が中途半端になっているが、下記のようなパラグラフである。ここで「―(ダッシュ)」に挟んで《挿入》してあるところは、筆者のいわば「自分語り」的な部分で(自分とアルバートさんとの縁を語っている)、とりあえずはざっくりと飛ばしてしまってよい。下記では薄いグレーの文字で示しておく。

I asked Albert – who is the former husband of Lien de Jong (the subject of my book The Cut Out Girl, which describes how Lien was sent to stay with my grandparents, and her trauma as one of the Netherlands “hidden children”) – what he thought when he first read it and how he feels about it now. “My first reaction,” he told me, “was that I could have written that story myself, but then later I realised that what made it special lay not in the events that she experienced (after all, I had undergone the same things myself) but in her personal growth.” Albert’s family went into hiding at the same moment and in the same manner. They too were discovered, but, unlike the Franks, the De Mesquitas had a miraculous escape.

このパラグラフの最初の文: 

I asked Albert ... what he thought when he first read it and how he feels about it now.

これは、お手本のような《間接疑問文》だ。文法項目としては中学で学習する項目である。注目したいのは、その間接疑問文がandで接続されて2つ並んでいる点。つまり: 

  I asked Albert

    what he thought when he first read it

       and

    how he feels about it now

という構造になっていること。

 

前半の "what he thought when he first read it" は、《時》を表す接続詞whenの節が入っていて、「最初に読んだときに、どう思ったか」という意味。

なお、日本語では感想を尋ねるときには「どう(どのように)思う?」と言うが、英語では動詞がthinkであるときは、こういうときは(「どのように」の直訳である)howではなくwhatを用いる、というのも、各種試験で頻出の基本事項である*1

  What do you think of the movie? 

  (その映画のことを、どう思いますか)

一方で、動詞がfeelの場合はhowを用いる。

  How do you feel about the movie? 

  (その映画について、どう感じますか)

 

この部分は、"I asked Albert what he thought when he first read it" と、普通に《時制の一致》をしているが、2つある間接疑問文のもうひとつ、andのあとの部分では、"(I asked Albert) how he feels about it now" と、《時制の一致》をしていない*2。これは、アルバート氏がご存命で、70年以上前に同級生だった女子が潜伏生活のなかで書いたものについて現在どう思っているかを尋ねていることから、現在形で書いていると判断される。

 

このように、あえて《時制の一致》をしていないケースに遭遇することは、報道記事などを読んでいる場合には、かなり稀である。報道記事では、たとえ話者の発言内容が現在のことを言っていても、例外なく時制を一致させる。例えば米国で銃乱射事件が起きたときに、記者が銃規制推進論者のコメントを取ったとしよう。その人は「個人間売買も一般的であり、銃販売の際の確認は不十分なのが実情だ」と述べていて、それは記事が書かれた時点だけでなく記事が読まれているとき、つまり読者にとっての現在も変わらぬ事実であるとしても、報道記事では(引用符を使った直接の発言の引用でない限り)時制の一致は必ず行われる。例えば、When asked about the effectivity of the current gun control, he said that it was very common ... という形だ。

学校で習う《時制の一致の例外》の規則性を厳密に当てはめると、「個人間売買が一般的である」というのは、話者の発言した時点に限ったことではなく今もそうなのだから、ここは he said that it is very common ... と現在形で示されるのが普通、という理屈になるが、実際には、he said that it was very common ... となるのが普通なのだ。

この類の《時制の一致》(というか《時制の一致の例外》にしない場合)について、江川泰一郎は "What did you say your name was?" といった例文を用い、「惰性の一致」という表現で解説している(『英文法解説』、p. 466)。私などは日本の学校で英文法を習ってきただけなので、「その人がその名前であることは現在も変わっていないのだから現在形のままにすべき、つまり《時制の一致の例外》だ」と思っていたのだが、実際のいわゆる「生きた英語」ではそのようにならず、(文法というより)惰性で、「主節が過去形なので従属節も過去形」というようになる、というわけだ。 

英文法解説

英文法解説

 

自分で英語で文を書くようになってけっこう細かく気を使う項目のひとつが、この《時制の一致》と《時制の一致の例外》 なのだが、英語を母語とする人は特に何も考えていないらしい。日本語の助詞の「は」と「が」の使い分けのようなもので、理屈ではなく感覚で決まっているともいう。

なお、今回見ている記事の筆者はオランダ人で、10代後半で英国に暮らすようになるまではノルウェー、ドバイ、インドネシアに暮らしてきたとのことだから、おそらく英語は母語か、ほぼ母語だろう(最初にしゃべった言葉はオランダ語かもしれないが)。したがって、今回の実例にある時制の一致をあえてしていない部分については、非常に「自然な英語」と考えて差し支えないだろう。

 

さて、今回はこの先の部分(アルバート氏の返答の部分)も扱う予定だったが、書いてみたら案外長くなってしまったのでいったんここまで。続きは次回扱うことにしよう。

 

ちなみに日本語版の『アンネの日記』は、下記の「増補改訂版」が最新である。今回英国で新たに編まれたのは、その後さらに発見されたりした部分を補った増補版である。そちらもまたおいおい、日本語訳で紹介されるだろう。

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

 

 

Anne Frank: The Collected Works

Anne Frank: The Collected Works

 

 

 

 

*1:この点、日本語では「~について、どう思うか」と言うが、意味内容としては「~について、何を思うか」である、ということを押さえておけば、理屈としても納得しやすいだろう。

*2:nowは《時制の一致》をさせるとat that timeとなるのが原則。つまり、教科書的に書けば、今回見ている箇所は、I asked Albert how he felt about it at that time となるだろう。