このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。少し息の長い文でも、落ち着いて構造を取ることを学習していただければと思う。
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今回も、前々回、および前回と同じく、アンネ・フランクの日記の増補改訂・新訳版が英国で出版されることを受けての記事から。
今回は、前回見たパラグラフの後半部分を見ていこう。
記事はこちら:
今回見るのは下記の部分。アンネ・フランクと同級生だったアルバート・ゴメス・デ・メスクィタさんが、記事の筆者の質問に答えている箇所である:
“My first reaction,” he told me, “was that I could have written that story myself
この部分、太字にした箇所は《助動詞+完了形》つまり《助動詞+have + 過去分詞》で、主節の時制(ここではwas)より1つ前の時のことを表している。「(アンネの日記という本を読んでの)私の最初の反応は、この話を私自身も書けていたかもしれないというものでした」と直訳できる。つまり第二次大戦下のオランダで潜伏生活を送っていたユダヤ人少女の書いた日記が超話題作となっているが、そういう体験記なら自分にも書けたかもしれない、とアルバート氏は言っているわけだ。
この文章では、この同じパラグラフのあとのほうで、「アルバートの家族も同じタイミングで同じように潜伏生活に入った」と述べられており、アルバート氏のこの「自分にも書けていたかもしれない」という感想は、根拠のあるものだということがわかる。
続いて:
..., but then later I realised that what made it special lay not in the events that she experienced (after all, I had undergone the same things myself) but in her personal growth.”
この箇所はやや長たらしく感じられると思うが、《not A but B》の構文(「AではなくB」)に気づけば、構造を取るのは難しくない。
"what made it special" の "it" は「アンネの書いたもの」のことで、「アンネの書いたものを特別にしているもの」。
《lie (過去形でlay) in ~》は「(特筆すべき事柄など)は~にある」という意味を表すときの定番表現。これを知らないとthere is ~の構文を使ってみたりして四苦八苦することになるので、ぜひ、自分でも使えるようにしっかり覚えておきたい。
ここでは "lay not in A but in B" の形になっており、「Aにではなく、Bにあった」。つまり「アンネの日記が特別な本になっているのは、彼女が経験した出来事ゆえではなく、彼女の人間としての成長ゆえである」という意味だ。
アンネたちフランク一家と同じように潜伏生活を強いられたユダヤ人は、大勢いる。その中でアンネ・フランクというひとりの少女が、まさに世界中に名を知られる存在となっているのは、彼女の書いた日記が「誰かの身の上に起きた過酷な出来事」を綴っているだけでなく、そのような日々の中で「10代前半のひとりの女の子がどう成長・変化していったか」という普遍的な物語を見事に示しているからである。
同時にこの日記は、アンネのような「ごく普通の女の子」(人並外れて活発で、文章を書くのが上手い子ではあったかもしれないが、彼女は「ごく普通の女の子」だ)が、ナチス・ドイツの政策により、容赦なく命を奪われていったということを語るものでもある。
『アンネの日記』は英語で新版が出れば、また新たな読者を獲得するだろう。それにより、彼女は永遠に生き続けるわけだが、同時に、彼女のように人々の心を震わせる日記を書かなかった・書けなかった大勢の潜伏生活者がいたことも、思い起こさねばならない。
『アンネの日記』については「書いたのは別人」といった陰謀論が後を絶たない。だが、「あのような体験をしたのは、アンネだけではない」という重要な事実を踏まえていれば、「仮にあの日記を書いたのがアンネでなかったとして、だから何?」としか反応できないだろう。そのような「知」を共有することは、当たり前のことであり、同時に必要なことである。
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