このエントリは、2019年6月にアップしたものの再掲である。英語の文を、書いてあることを書いてある通りに読むには、いわゆる「受験英語」が大切だ、ということがよくわかる例だと思う。
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今回の実例は、先週から極度に暴力的な様相を呈してきたスーダン情勢を伝える記事から。
スーダンではこの4月、それまでありえないと思われていたことが実現した。政治腐敗の一掃と大統領退陣を要求する民衆のデモ・座り込みの末、何十年という単位で専横的な統治を行なってきたバシル大統領が権力の座を追われた。大統領を退陣に追い込んだのは軍部で、その後は暫定的と銘打ったうえで軍政が敷かれているが、元々のデモ隊が求めていたのはそんなことではなく市民による政治(民主主義)であり、大統領退陣・拘束後も首都ハルツームでのデモというか市民たちの座り込みは続いていた。
スーダンでクーデター、軍がバシル大統領を拘束 2年間の移行政権運営後、選挙実施と発表
— ニューズウィーク日本版 (@Newsweek_JAPAN) April 12, 2019
バシル政権に反対していたデモ隊は同氏の退陣に歓喜の声を上げたが、軍を率いる国防相の発表を受け、政治の主導権を市民に明け渡すよう軍指導部に求めるため、抗議活動を継続している。https://t.co/xjvOjvQ4xg
その座り込みは、英語圏ではそこそこ報じられてきたのだが、2011年初頭のチュニジアを彷彿とさせるような「インテリや専門職の人々が主導するデモ」で、ワイシャツにネクタイといった服装の中年男性たち(専門職の人々)が、Tシャツ姿の若者と一緒になっていて、Twitterなどに流されてくる現地からの映像などでは、非常に穏やかで平和的な、一種の「祝祭」のようなムードだった。大統領を退陣に追い込んだデモでは女性たちが大きな役割を果たしており、退陣後も女性たちの参加は続いていた。さまざまな人々がハルツームの軍司令部前に座り込み、「政治をわれらに」と要求していた。
その光景は、2011年のいわゆる「アラブの春」を思わせる光景であり、「アラブの春」のあと結局は前より苛烈な専横政治のもとに置かれているエジプト(スーダンの隣国)の民主化活動家などは「わたしたちの二の舞にならないように」という思いを英語でTwitterに綴りながら情勢を注視していた。
座り込みの現場は歌に満たされ、人々は踊っていた。それは「平和的な大衆行動」そのものだった。
しかし、中国での天安門事件から30年を迎える6月4日になると、その様相はすっかり変わった。軍司令部前の座り込みが、強制排除されたのだ。非武装の市民たちに対し実弾が発砲され、何十人という単位で人が殺された。病院は包囲され、搬送されてきた負傷者を満足に治療できる状態ではなくなっているとTwitterで悲鳴のようなツイートがいくつも流れてきた。
その後、スーダンはインターネット遮断という「専横政治あるある」の状況になっているのだが、6月4日以降は軍の中でもちょっと別系統といえる勢力が、ニュースの中心になっている。RSFと呼ばれる the Rapid Support Forces だ。かつて、ダルフール紛争のときは「ジャンジャウィード」と呼ばれていた集団で、その残虐さは2005年に意識のあった人なら聞いて知っているだろう。
「ジャンジャウィードが戻ってきた」と、BBCのベテラン記者、ファーガル・キーンは書いている。今回見るのはその記事だ。
キャプチャ画像内の3つ目のパラグラフ:
Unlike the regular army these militiamen rarely responded to greetings or if they did it was with a non-committal nod, no hint of a smile.
Unlike ~は「~とは違って」の意味の前置詞。対義語はlike ~(「~のように」)である。
Unlike our previous model, it has two blades. *1
(弊社の前のモデルとは異なり、2枚刃になっています)
この文に含まれているif節は、《条件》を表すif節で、ここでは文全体の時制が過去なのでif節の動詞も過去形になっている。
またこの "if they did" のdidは《代動詞》で、前出の動詞を受けている。ここでは "these militiamen rarely responded to greetings or if they did" という関係で、「これらの民兵たちは挨拶に応じることは稀で、仮にそうした(挨拶に応じた)場合は」という意味になっている。一般の軍人がデモ隊に笑顔で応じていた一方で、このRSFは「挨拶にはほとんど応じず、応じた場合もにこりともせずにただうなずくだけだった」という状況だ。
そのあと、2つ置いたあとのパラグラフ:
In 2005 I saw them beat and terrorise civilians in a camp for the displaced and I interviewed the survivors of torture and rape.
この部分は《感覚動詞*2+ O +動詞の原形》の形になっている。「Oが~するのを…する」という決まった形の構文だ。ここで用いられている原形は、原形不定詞である(これをto不定詞にしないように注意)。
I saw her come out of the supermarket.
(私は彼女がスーパーマーケットから出てくるのを見た)
You'll hear him sing the song every morning.
(彼が毎朝その歌を歌うのを、あなたは耳にすることになるだろう)
そのあとにある "the displaced" は、《the +形容詞》で「形容詞な人々」の意味を表す構文が入っている。
She worked for the poor.
(彼女は貧しい人々のために働いた)
displace ~は「~を立ち退かせる」の意味で、これが過去分詞になって形容詞化したdisplacedは「家を追われた」の意味。
実例の文は「2005年、私は彼らが、家を追われた人々のためのキャンプで、民間人を殴打し恐怖で支配するのを見たし、拷問やレイプを経験させられた人々にインタビューをした」という意味になる。
現在のRSFこと旧ジャンジャウィードが暴虐の限りを尽くしたダルフール紛争は、今ではほとんど語られることもなく、中途半端に古い(まだ「歴史」になっていない程度には新しい)出来事なので、知らないという人もいらっしゃるかもしれない。映画やマンガの題材になっているので、関心がある方は見てみてほしい。
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