今回の実例は、英国のボリス・ジョンソン首相の発言から。
長々と前置きを書いている余裕がないのだが、日本語圏では新型コロナウイルス感染拡大に対する対策として、 #自粛と補償はセット であるということが、社会的に、全然認識されていない。むしろそういうことを言うのは「左翼」だというヒステリアに支配されているように見える。
しかし事実としては、「規制緩和」「民活導入」至上主義的な新自由主義、「小さな政府」というイデオロギー*1の発祥の地(のひとつ)で、2010年代はほぼずっと苛烈な新自由主義政策(「緊縮財政」と呼ばれる)をとってきたイギリス(英国)で、 #自粛と補償はセット であるということが、何よりも先に示されている。なお、今のイギリス政府が「左翼」だなどと強弁する者がいたら、それは悪質なデマゴーグである。
英国政府は、パブやレストランなどの営業の「自粛」を求めたが、このとき、通常店舗での飲食提供の許可とは別に取得しなければならない食事の配達やテイクアウェイ(店舗外での飲食)営業の許可を特例としてなくてもよいとするという「規制緩和」策と同時に発表され、その「テイクアウェイ営業の特別許可」以上にメディアで注目を集めたのが、 #自粛と補償はセット であるという明確な方針だった。十分に操業できず資金的に逼迫することが想定される企業で、人件費削減のために従業員を解雇すること(政府から見れば失業率を上昇させること)を避け、同時に通勤する人を減らし、「自粛」策が掛け声だけに終わらないようにするために、英国政府はいきなり、「給与の8割補償」を約束したのである。
その記事がこちら(2020年3月20日付):
この方針は、"an unprecedented step for the British government" と説明されているが、つまり第二次大戦時も、その前の世界恐慌のときも、その前の第一次大戦時もこういうことは行われていないという意味である。20世紀の英国は保守党と労働党の二大政党の間での政権交代が頻繁に起こる二大政党制であったが、社会民主主義(あるいは民主社会主義)政党である労働党が政権をとったときにも、このような政策はとられていないということだ。
実例として見るのは、記事の中ほどの部分から:
“We will do everything in our power to help. Supporting you directly in a way that government has never done before, in addition to the package we have already set out for business,” Johnson said.
第一文:
We will do everything in our power to help.
太字にした部分は《to不定詞の副詞的用法》で《目的》を表す。「助けるために、私たちは私たちの力(権限)にあることすべてを行っていく」と直訳できる。
この第一文の抽象論の具体的な内容を、次の文で述べるという(英語では当たり前の)論理構造になっている。ジョンソンは、演説の類があまり上手い人ではないが(いわゆる「オレーター orator」ではない)いつまでも抽象論を並べていては英語にならないのだ。
第二文:
Supporting you directly in a way that government has never done before, in addition to the package we have already set out for business
下線で示した《in a way that ...》は「…するようなやり方(方法)で」。
そのあと、青字にしたところは《現在完了》で、これは《経験》の意味。
ここまでまとめて「政府がこれまでにしたことがないようなやり方で、あなた方を支援すること」。
ここまで、前文と合わせて、「(みなさんを)助けるために、私たちは私たちの力(権限)にあることすべてを行っていく。政府がこれまでにしたことがないようなやり方で、みなさんを支援することだ」といった意味になる。
そのあと、朱で示した《in addition to ~》は「~に加え」。「商業(実業)に向けて、私たち(政府)が既に示したパッケージ(ひとまとめの政策)に加えて」。この部分の "have already set" も《現在完了》だが、こちらは《完了》の意味である。set out ~は「~を提示する、~を開示する」といった意味。「outの方向にsetする」というイメージを持って覚えてしまおう(こういう句動詞は、なかなか自分で書くときには出てこないのだが、こういうのが使えるようになると「英語らしい英文」になる)。
以上、ボキャブラリーはやや微妙かもしれないが、文法としては「中学英語」の要素しかない。
よくある「英語指南本」で「中学英語でばっちり」とか言われているのは、こういうことを言っている。
そして、誰かが発言しているのを理解するときはそれでいいかもしれないが、自分でこういう英語を書こう(言おう)と思ったら、もうちょっと何かが必要だろう。最近の「英語学習ハウツー本」や「実用英語本」は、「中学英語でOK」という言説が普及していることを前提として、そういうことを強調しているものも多い。おそらく長引きそうな休みの期間、そういった本を読んでみるのもいいかもしれない。
参考書:
在日39年、7000人の日本人を教えてわかったこと 日本人の英語勉強法 なぜ日本人はこんなにも英語ができないのか? (中経出版)
- 作者:ジェームス・M・バーダマン
- 発売日: 2013/10/31
- メディア: Kindle版
補足:
「法律に基づいて」は記憶に無いのですが、蔵相が20日に発表した特別措置は被雇用者の給与の8割を国が負担する助成金で、でもそれだけではフリーランスや非正規(オンコール)労働者に対して不公平と批判されて、26日に自営業者の売り上げ8割補償を追加発表したという流れだったと思います。
— 優 n o D 🏴 (@yunod) 2020年3月29日