今回の実例は、米大手メディアに掲載された論説・意見記事から。
新聞など報道機関のサイトに掲載される記事には何種類かある。
まず主要なのが昔からあるような普通の報道記事で、「いつどこで誰が何を」式の事実の報告と、背景分析・解説などが記載されている。
次いで、ここ10年ほどの間にすっかり定着したSNSと連動するような形での「ライヴ・ブログ」の形式の記事。これは何か大きなことが起きたときに、ひとまとまりの文章を書く前に、情報が入ってくる都度、短い文であれ何であれ、流していくという形で、リアルタイム(に近い)報道が可能になる。これがよく使われるのが選挙の開票速報だとか、政府などが何か大きな発表をするとき、国際関係での会議や条約の調印式のようなものなど、また、リアルタイムで広く伝える必要がある(と報道機関が考える)大災害や大事件、大規模デモ、スポーツの大きな試合などで、TwitterなどSNSに流れる現場からの映像や言葉などを(その報道機関の記者が検証したうえで)そのままエンベッドしていることも多い。
それら「報道」はその報道機関に所属するジャーナリストたちが文章を書くのだが、それとは別に、外部の人(中には「コラムニスト」として契約している人もいる)も含め、ある程度広い範囲に書き手のいる「論説 Opinion」の記事もある。
「報道」は《事実》を扱い、「論説」は《意見》や《主張》を扱う、という前提を、読者も共有しておく必要がある。
「論説」は、その報道機関に属さない外部の人(多くの場合、何かの専門家)が、その専門分野の解説などを交えながら書くものをOp-ed(「オプエド」と読む)とし、その報道機関に属する人が(事実の分析に基づいて)書くものをEditorialとして区別することが多い。この2種類に加えて、特定の書き手が自分の文章の味を出しながら読者を笑わせたり感心させたり、あるいは煽動したりする目的で書くColumnもある。
というのが前置きで、今回見るのは米国のメディア、USA Todayに掲載されたOpinion記事である。記事はこちら:
見出しとリード文の次、記事本文の前に、"Arne Duncan and Rey Saldaña" という筆者名が記載されており、その後に "Opinion contributors" と添えられているが、これはUSA Todayという媒体に属していない外部の人の記事であることを意味する。こういう場合、寄稿者がどのような人であるかは、ページ末尾に書かれているのが通例で、この記事の場合は次のようにある。
Arne Duncan is managing partner at Chicago CRED, a nonprofit that connects young men to jobs and opportunity, and the author of “How Schools Work.” He served as U.S. secretary of education and Chicago Public Schools CEO. Rey Saldaña is president and CEO of Communities In Schools, the national organization that ensures all students are on a path to success. As a student, he was supported by Communities In Schools – San Antonio. Later, he served four terms as a San Antonio city council member,
……と、要するに2人とも教育、というより学校教育の専門家といってよい立場の人だ。ちなみにアーン・ダンカン氏については日本語版ウィキペディアにも項目が立っている。
実例として見るのは記事の書き出しの部分:
まずリード文(記事本文の前に、その記事の論点を端的にまとめた文)から。
It’s time to re-imagine public education not just to face the pandemic, but to eliminate racial and economic inequities we’ve long known about
《not only A but also B》のalsoが省略されていて、なおかつonlyの代わりに同じ意味のjustが用いられて、《not just A but B》の形になっている。意味はもちろん「AだけでなくBも」である。
この構文ではAとBは等価なものが来る。Aが名詞ならBも名詞、Aが動名詞句ならBも動名詞句だ。ここではAもBも《to不定詞》になっている。これは《目的》を表す副詞的用法だ。
一方、下線で示した "to re-imagine" は、先行の "time" という名詞を修飾する形容詞的用法のto不定詞である。
ここまでで、センスグループごとに文意をとると、「公教育を想像し直すべきときである/パンデミックに向かい合うためだけでなく/人種的・経済的不平等を抹消するためにも」となる。
最後、青字で示した部分はいわゆる《接触節》で、直前に目的格の関係代名詞が省略されている(こういう構造が苦労せずに読み取れるようになるかどうかが読解力を左右する)。それを補うと:
... racial and economic inequities that[which] we’ve long known about
「私たちがずっと前から認識していた、人種的・経済的不平等」という意味である。
次。記事本文の書き出し:
As an unprecedented academic year grinds to an end, with schools shuttered and millions of children learning remotely in every state, education leaders face the daunting task of preparing for a fall reopening with no end to the pandemic in sight.
やや長い文だが、一読してどれが主語でどれが述語動詞か、わかっただろうか。
この文、スラッシュなどを入れると次のようになる。
[ As an unprecedented academic year grinds to an end, / with schools shuttered and millions of children learning remotely in every state ], education leaders face the daunting task [ of preparing / for a fall reopening / with no end to the pandemic in sight ].
文の一番重要な部分は、"education leaders face the daunting task" である。"education leaders" が S, "face" が V で、"the daunting task" は O だ。
dauntingという単語は大学入試の必須単語では全然ないが、実際の英文ではかなりよく出てくるので、余力があれば覚えておくと都合がよい。dauntという動詞(「~の気持ちをくじく」)の現在分詞で、この部分は「教育界のリーダーたちは、考えただけでげんなりするような大仕事に直面している」という意味になる。
では、カッコでくくった部分を見ていこう。まずは前半。
[ As an unprecedented academic year grinds to an end, / with schools shuttered and millions of children learning remotely in every state ], ...
太字で示した "as" は、そのあとに続いているのが単なる名詞ではなくS+Vの文構造だから《接続詞のas》だ。これは《同時性》を表している。"grind to an end" はちょっと難しい表現だが「終わる」ということさえ読み取れればよい。スラッシュの前までは「これまでに例のなかったような年度が終わりを迎えるなか」の意味だ。
スラッシュの後ろの部分で下線で示したのは、《付帯状況のwith + 過去分詞》と、《付帯状況のwith + 現在分詞》。andによる接続のため、後者はwith自体は見えなくなっているが、「schoolsがshutterされ、millions of childrenがlearn remotelyしている状況で」という意味をざっくり把握できればよい。下線部和訳で出題されたら、これを丁寧に日本語にしていくことになる。
そろそろ上限の4000字になってしまうので端折っていくが、最後の部分:
... the daunting task [ of preparing / for a fall reopening / with no end to the pandemic in sight ].
この下線部の "with" も《付帯状況のwith》だが、"with no end in sight" で「終わりが見えない状態で」という一種の熟語と考えて、覚えてしまうとよい。「パンデミックの終わりが見えない状態で、秋に再開するための準備をするという、げんなりするような大仕事」の意味だ。
4100字になってしまったので今回はここまで。
参考書: