Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

長い文の構造を正確に読む, 現在分詞の後置修飾, 関係代名詞の非制限用法のイレギュラーなケース(「バイデンの息子」のネタ元は偽情報会社)

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今回の実例は、報道機関による大きな報道の際のTwitter連続投稿(スレッド)から。

10月に入って以降、Twitterでの私の視野も、体感で半分以上が米大統領選に関する発言で埋め尽くされているのだが、その中に先日少し取り上げたジョー・バイデンの息子、ハンター・バイデンに関する、誰がどう見ても客観的に出所が怪しい話についての発言もちょこちょこと入っている。中にはあれを真に受けている日本の言論人*1の発言が、批判的にリツイートされてくるものもあるし、ごくまれに、真に受けている言論人の見解を真に受けているらしい人の発言がそのままで流れてくるのだが(実に危なっかしいが、特に知り合いというわけでもないし、別に進言したりはしない)、あれはウォールストリート・ジャーナルという立派な新聞が食いつかなかったネタを、ニューヨーク・ポストというゴシップ紙が拾ったのであり、一昔前の日本のネット言論人なら「スルー力が試される」という表現を使っていただろう。

私もスルー力を発揮していて、そのネタが流れてきてもほとんど見てもいないし、そうである以上はその内容については何も言えないのだが、先ほど、英語の文面の形式上、非常によい例(例文)が、このトピックに関して、NBCのアカウントから流れてきていたので、今回はそれを実例としてとりあげたい。文法解説というより、一緒に読んでいく感じで。

NBCのツイートは8件の連続ツイート(連ツイ、スレッド)だ。英語では、最初に言いたいこと(報道の場合、報告する中身)をコンパクトにまとめ、そのあとでそれについて具体的に述べていく、という「トピック・センテンスの後にサポート・センテンス」の構造が一般的なのだが(そのように書かれていない文章は「読みにくい」と受け取られる)、Twitterのスレッドでも、特に報道機関が大型報道について連投する場合にはそのスタイルが用いられる。というわけで、まず、情報がぎゅっと凝縮されて詰まっているスレッド先頭のツイート。

かなり息の長い文だが、文の構造(どれが主語でどれが述語動詞か )は取れただろうか。いわゆる「返り読み」をせずに意味が取れるだろうか。

 

息の長い文は、まず、副詞句や副詞節で文が書き始められているかどうかが文の構造を把握するカギとなる(「副詞句」は、よくある《前置詞+名詞》の形だけでなく、分詞構文も含む)。この文の書き出しは、"A 64-page document" なので、どうやら副詞句・副詞節ではない、と当たりをつけて読む*2

文の書き出しが、副詞句・副詞節ではなくて、名詞・名詞句である場合は、おそらくそれが主語だ。

なのでその主語に対する述語動詞を見つければ、文が正確に読めるわけだ。

だが、このだらだら長い文、どれが述語動詞だろう。それを考えるために、まずは何となく動詞っぽいようなものを太字で示してみよう。

A 64-page document asserting an elaborate conspiracy theory involving Joe Biden's son and business in China, that was later disseminated by close associates of President Trump, appears to be the work of a fake "intelligence firm."

まず、2つ連続で出てくるのが-ing形だが、-ing形はbe動詞を伴って進行形になっていない限りは文の述語動詞となることはない。なので、文の構造をとることを考えるときには、これらは外してしまおう。

ちなみに最初の "asserting" は《現在分詞》で《後置修飾》(assert ~は「~を主張する」の意味)、次の "involving" も同様で、これらはそれぞれ "A 64-page document" と "conspiracy theory" を修飾する形容詞句だ。この部分をスラッシュを入れてみると: 

A 64-page document / asserting an elaborate conspiracy theory ( involving Joe Biden's son and business in China )

青の太字が青の細字を、緑の太字が緑の細字を修飾する形になっている。意味は「ジョー・バイデンの息子と中国でのビジネスに関する手の込んだ陰謀論を主張する64ページの文書」。

さて、その次だが、ここでコンマとコンマで挟まれた《挿入》が入っていることに気づけば、文の構造は取りやすくなる。《挿入》は文を長くするが、文構造を考えるうえではいったん外してしまってよいところだ。

そしてこの《挿入》の節だが、すでに見た部分を薄いグレーで示し、《挿入》のマーカーであるコンマ2つを赤で大きく示すと: 

A 64-page document asserting an elaborate conspiracy theory involving Joe Biden's son and business in China, that was later disseminated by close associates of President Trump, appears to be the work of a fake "intelligence firm."

これ、普通に考えれば《関係代名詞の非制限用法(継続用法)》の節だから、thatで始まっているのはおかしいのだが、実例を見ていく以上、こういうイレギュラーなものに遭遇することはままある。日本語の報道記事の変換ミスみたいなものだと思っておいてほしい。

なお、今回これを書きながら、手元にある複数の文法書で確認したけれど、関係代名詞のthatの非制限用法を認めるという記載はどこにもなかった。ネット上の情報源でも同様で、例えば英ブリティッシュ・カウンシルの英語学習サイトでは次のように記載されている。

We also use relative clauses to give more information about a person, thing or situation:

  Lord Thompson, who is 76, has just retired.

  ... 

With this kind of relative clause, we use commas (,) to separate it from the rest of the sentence.

[Be careful!]
In this kind of relative clause, we cannot use that:

  Lord Thompson, who is 76, has just retired.
  (NOT Lord Thompson, that is 76, has just retired.)

learnenglish.britishcouncil.org

というわけでこのthatはwhichの書き間違いと判断して、それを置き換えてツイート本文を見ると: 

A 64-page document asserting an elaborate conspiracy theory involving Joe Biden's son and business in China, which was later disseminated by close associates of President Trump, appears to be the work of a fake "intelligence firm."

この《挿入》の節も、文頭の "A 64-page document" を説明していて文の構造には関係なく、この長い文の動詞はその挿入節の後にある "appears" だということがわかる。より意味的なことを言えば、"appears to be" (「~であるように見える」、つまり「~なようだ」)が述語だ。

大学受験の勉強をしていたとき、この手の長い文に悪戦苦闘することが多かったのだが、ある程度の量をこなしたら、「複数行にわたるくらい主語が長いときは、たいがいはSVCの文型で、be動詞やbe動詞のバリエーション(can be, seem to beなど)が後ろにある」ということがわかってきて、以降は読むのがぐっと楽になったのだが、今回の実例もそのような形の文である。 

というわけで、このツイートの意味は、「ジョー・バイデンの息子と中国でのビジネスに関する手の込んだ陰謀論を主張する64ページの文書は、後にトランプ大統領に近い人々によってばらまかれたが、偽物の『情報会社』の作ったものであるようだ」となる。

NBC Newsは、このことについての具体的な説明を、この後に続く7件のツイートで述べている。全部を1ページで読みやすく表示したページがこれ: 

threadreaderapp.com

この件、日本語圏の惨状がアレなので、あとで日本語化しておきますかね……。

⇒追記: 日本語化しました。下記参照。

threadreaderapp.com

 

f:id:nofrills:20201104124202p:plain

https://twitter.com/NBCNews/status/1321953046109315074

 

※4200字。今回は繰り返しが多かったのでそれを差し引けば4000字以内。

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

 

 

 

 

*1:「知識人」と言えるかどうかは疑問。

*2:そのように当たりをつけて読んでいって意味が取れない場合は、分詞の意味上の主語を残した分詞構文である可能性を検討することになるが、それはそれほどよく見る形ではない。

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