Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

前置詞のgiven, やや長い文, 形式主語の構文, 進行形の受動態, 完了分詞構文, however, など(ディエゴ・マラドーナの歩み)

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今回の実例は報道記事から。

著名人が亡くなったとき、英語の新聞報道は、大別して3段階で記事が出ることが多い。まずはその著名人が亡くなったということを伝える報道記事が出て、続いて故人の業績や人物像、評価などを綴ったオビチュアリーが出る*1。ものすごく著名な人の場合、そのあとに、各界の反応をまとめた記事や現地からの報告の記事が出る(新聞が紙ではなくネットになって時間的なしばりがゆるくなった今では、オビチュアリーと反応などのまとめ記事には時間差がないことが多いが)。

オビチュアリーは「読み物」的な記事なのでじっくり読ませるタイプの文が多いが、最初の報道記事は亡くなったことを伝えるのが目的なので淡々としている。日本の新聞に掲載される訃報記事の中で特に詳しいものとだいたい似たような感じだ(が、文章量も情報量も、英語での記事のほうがずっと多い)。そこでは、故人の生涯についての説明があっても、あまりドラマチックに書くことはせず、時系列に沿って百科事典的に事実を述べていくスタイルになることが一般的だ。そこで用いられる事実説明の記述は、著名人の場合、あらかじめストックされていることが多い。「著名人の□□氏が、〇月〇日、〇〇で、〇〇のため死去した。〇〇歳だった。□□氏は△△で知られ……」という記述の「〇〇」のところだけあとから埋め、必要ならば適宜加筆を行えば、そのまま記事として出せるものがある、というイメージでよいだろう。

今回の実例は、そのような最初の報道記事から……と言いたいところだが、新聞が紙ではなくネットになってからは、その「最初の報道記事」の文面が固定されないことも多くなっている。まず速報的にストックの文を出して、その後、その新聞の記者が本腰を入れて書いた報道記事と差し替える、ということが、ときどきある。今回もそうなので、私がキャプチャをとった記事のURLをあとから参照しても、実例として見ている英文がない、ということになってしまった。これではソースURLのない怪文書みたいになってしまうではないか。困った困った。

だが落胆するのはまだ早い。同じ文面が別の国の別のメディア(提携メディア)の記事にも見られるので、そちらを見ていただければ英語記事としての真正さはどなたにもご確認いただけるだろう。

というわけで実例。こちら: 

 

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https://www.theguardian.com/football/2020/nov/25/diego-maradona-dies-one-of-greatest-footballers-of-all-time-argentina-world-cup-1986

上述したように、ガーディアンのこのURLにある記事は完全に書き換えられてしまっているけれども、これと同じ記述がアイリッシュ・タイムズの記事にある(記事末尾にGuardianというクレジットの記載もある)。前後の確認などはそちらでしていただくのがよいだろう。こちら: 

www.irishtimes.com

 

英文を読んでいこう。キャプチャ画像の最初のパラグラフから。

Given his rapid development and consistently commanding displays, it was no surprise Maradona was soon being courted by Europe’s biggest clubs and in 1982, having featured at his first World Cup, in Spain, he joined Barcelona for a then world record fee of £5 million.

かなり息の長い文だが、構造をとるのはさほど難しくない。

まず文頭の "Given" は、もちろんgiveの過去分詞だが、そのgivenという語自体が《前置詞》の機能を持つようになったもの。「~(という事実)を与えられれば」が原義で、つまり言い換えれば「~(という事実)を考えれば」。また、この前置詞の句はどこまで続くのかということを考えながら文頭から文をたどっていくと、"displays," のコンマに気づくと思うが、実際にこの前置詞句はここで切れていて、そのあとの "it was ..." が文の本体的な部分だ。

この "it was ..." のitは、いきなり出てきていることからもさくっと判断できると思うが、《形式主語》である。具体的には、《it is no surprise that ...》の構文で、接続詞のthatが省略されている形だ。わかりやすく示すと: 

( Given his rapid development and consistently commanding displays, ) it was no surprise (that) Maradona was soon being courted by Europe’s biggest clubs and in 1982, having featured at his first World Cup, in Spain, he joined Barcelona for a then world record fee of £5 million.

さらに、下線で示した "was ... being courted" は《過去進行形の受動態》で、ここではこの過去進行形は "soon" があることからわかる通り、《(過去における)進行中の動作》を表しているのではなく《(過去の時点での)近未来》を表している。「ほどなく~することになった」だ。これが受動態なので、「ほどなく~されることになった」。courtは他動詞で「~を招きいれる」という意味があるので、ここは「マラドーナがほどなく、欧州の最もビッグなクラブに招かれることになったことは、何ら驚きではない」の意味。

その次、青字で示したandは文と文をつなぐ等位接続詞で、その後ろの文の本体的な部分は、青字で示した "he joined ..." である。では "and" から "he joined" までの間にあるのは何かというと、《副詞句》だ。この副詞句で使われているのが《完了分詞構文》 ("having featured ...")。主節の1つ前の時を表す分詞構文だ。つまりここは直訳すれば「そして、1982年にスペインでのワールドカップに初めて参加した際に大きな役割を果たしていて、彼は当時世界最高額だった500万ポンドでバルセロナに加入した」。

 

アルゼンチンから来た若き天才プレイヤーは、ワールドカップで活躍し、欧州随一のビッグ・クラブと契約して、順風満帆の滑り出しを見せた、というわけだ。

ところが。

この「ところが」があるのが、この次のセクションである。

He struggled to show his best form for the Catalans, however, partly because of the broken ankle he suffered in September 1983 following a tackle from the “Butcher of Bilbao”, Andoni Goicoechea. 

太字で示した "however" は《接続副詞》 で、このように文の途中(ここでは主節と副詞句の切れ目)にコンマで挟んで挿入して使われることが多い。

"the Catalans" は同じ単語の繰り返しを避けるための言い換えで、Barcelonaのこと。こういう言い換えは、英語力とは別の一般常識がないと読み解けないことが多い。だから英語力そのものを測定したい試験ではこういう言い換えはあまり出てこない(出てくるとしても、その文の中だけで判断できるものだろう)。というわけで試験対策としてはあまり気を配っておく必要はないが、英語で書かれたもの、特に報道記事を読みたい場合は、こういう言い換えに慣れておく必要がある。

"however," のあと、"partly because of ~" は「部分的には~が原因・理由で」、つまり「~を原因・理由のひとつとして」。

そのあと、"the broken ankle" と "he suffered" の間には《関係代名詞》のthat(かwhich)が省略されている(《接触節》)。「1983年9月に受傷した足首の骨折が原因のひとつとなって」。

そのあと、"following a tackle ..." のfollowingは現在分詞だが、さっきみたgivenと同じで単独で前置詞として機能するようになったもので、「~に続いて、~のあとで」の意味。「『ビルバオのブッチャー』ことAndoni Goicoecheaのタックルのあとで」。

つまり、バルセロナに加入したディエゴ・マラドーナは、試合中にタックルされて足首を骨折し、しばらく戦線離脱を余儀なくされたわけだ。

そのあとは、記事に書かれているように、けがから回復した翌1984年にはイタリアのナポリに移籍した。ここで彼はまさに伝説的プレイヤーとなり(訃報があったあとに伝えられてきたナポリの街の様子は、すごかった)、そして2年後の1986年、ワールドカップのメキシコ大会で、押しも押されもせぬスーパースターとなった。

……というように、マラドーナの歩みが淡々と綴られている記事である。マラドーナに興味があれば、英文を読むということの練習台を探している人にはまさにうってつけだし、そうでなくても長文多読の素材文として(少々難易度は高いかもしれないが)おすすめだ。偉大なフットボーラーを偲びながら、読んでみてほしい。

 

※4020字

 

なお、英文記事のキャプチャはガーディアンで、閲覧履歴にある(下記の下から3番目)のだが、ブログを書こうとして確認したときには文面が差し変わっていた。

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参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

 

*1:ただし必ずそうというわけではない。オビチュアリーが出ないこともあるし、社交界の名士のような人の場合は報道がなくてオビチュアリーだけのこともある。

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