今回の実例は、Twitterがまとめているニュース系フィードのページから。
3月21日、何が何でも開催を強行するらしい東京オリンピック・パラリンピック大会に、日本国外からの観客は入れないという決定が、正式に表明された。それは当然、即座に「国際ニュース」として英語でも伝えられ、それなりに注目の的になって、Twitterが ../events/ のURLでやっている「ニュースのまとめ」に掲載された。
この画面、Twitterの方針がいろいろ変わっているので、タイミングによっては、Twitterユーザー個々の言語設定によって表示されているものが英語ニュースだったり日本語ニュースだったりするかもしれないが、Twitterを英語で使っている私の環境では下記のキャプチャのようになっていた。
この文面、短いが、けっこういろいろと学べるものがある。
この件では日本語圏の報道も「海外観客」「海外からの観客」という言い方をしているが、五輪という文脈がない場合の日本語圏での日常の表現では「外国人(観光客)」だ。そして、食堂などで親切心から、「外国人の皆様へ。英語メニューあります」ということを英語で表示するときに、この「外国人」を直訳して"foreigner" という表現を使ってしまい、気を悪くされる、といったケースもある。Foreignerという単語は、日本で英語を習っていれば非常に早い段階で覚える単語なので、日本では誰もが知っているから、英語が使えない人でも何となく使えてしまうのだろう。だが、この単語はあまりよい響きの単語ではない。全くの親切心からやっていることでお客さんの気分を害してしまうのは不幸なことで、避けた方がよいのだが、ではどう表現すればよいかというと、ここにあるような「海外からの~」の表現を使えばよいのである。
上記ページの見出しには:
Spectators from overseas
とある。これが「海外からの観客」の意味だ。これを応用すれば、"customers from overseas" という言い方ができるということに気づくだろう。この表現はまったくもって穏当な表現で、日本語でいえば「海外からお越しのお客様」くらいのニュアンスで使える。
ただ、「英語メニューあります」という表示には、「海外からお越しのお客様へ」という断り書き自体が不要で、単に "English menu(s)*1 available." とか "We have English English menu(s)." と表示しておけばよい(余談だが、この「メニューあります」を "There is ~" で表すのは奇異である。和文英訳としては「まあ、そういうふうにするっちゃーするんだけどもー」と苦笑せざるを得ないが、翻訳としては苦笑の余地もなく、完全に誤訳となる)。
さて、Twitterのこのページの見出しにある "Spectators from overseas"は、続くリード文みたいなのの部分で、次のように言い換えられている。
International spectators
この "international" を「国際的」ととらえるのはあまりよくなくて、これは「国外からの、外国の」の意味である。「外国人留学生」を international student(s) と言うが、この "international" はそれと同じだ。これも覚えておくと使える表現だが、"international ~" よりも "~ from overseas" の方がカジュアルに使える。
次。この文には "due to ~" が2度出てくる。それぞれ違う用法で、意味も当然違う。
International spectators will not be permitted at the delayed 2020 Tokyo Olympics and Paralympics due to concerns over COVID-19, organizers said. The Games are due to begin on 23 July
最初の "due to ~" (朱字)は前置詞句で、《原因・理由》を表し、「~のために」「~により」の意味。because of ~とほぼ同義である。
The baseball game was called off due to heavy rain.
(その野球の試合は、大雨のため、中止となった)
Impact of Social Isolation Due to COVID-19 on Health in Older People ※論文のタイトル*2
(高齢者層におけるコロナによる社会的孤立の健康への影響について)
だから、"due to concerns over COVID-19" は「コロナに関する懸念により」の意味となる。
2番目の "due to ..." (青字)は、下線で示したが《be due to do ...》の一部で、これは「…することになっている」「…する予定である」の意味。確定している予定を述べるときに使う表現である。
Our baseball game is due to start at ten in the morning.
(私たちの野球の試合は、午前10時に始まることになっています)
1番目と2番目のdue to ~はどう見分ければよいのだろうか。
「be動詞に続いているかどうか」と考えたかもしれないが、それだけでは区別できない。ここではたまたま、be動詞に続いているのは2番目の《be due to do ...》だけだが、1番目の《due to ~》もbe動詞に続くことがある。例えば次のように。
The delay was due to the heavy snow.
(遅れたのは大雪が原因だった)
だから、be動詞に続いているかどうかは区別の手がかりにはならない。
ここで見るべきは、toの後である。
1番目の《due to ~》のtoは前置詞なので、直後には名詞が来る。
一方で、2番目の《be due to do ...》のtoは《to不定詞》の一部なので、直後には動詞の原形が来る。
つまり、"be due to + 名詞" だったら「~が原因である」という意味で、"be due to + 動詞の原形" だったら「~することになっている」という意味になる。
ここでは、「コロナを巡る懸念により、延期されている東京五輪・パラリンピックでは国外からの観客は許可されないことになったと組織者たち〔組織委員会〕は述べた。五輪は7月23日に始まることになっている」という意味になる。
さて、最後の部分:
..., with the Paralympics following a month later from 24 August.
当ブログではおなじみの《付帯状況のwithと現在分詞》 の構文である。この文全体で、「五輪は7月23日に始まり、続いてパラリンピックが1か月後の8月24日に開始されることになっている」という意味となる。
※3090字
*1:menuは場合により単数形のことも複数形のこともある。