このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、Twitterから。
いわゆる「新型コロナウイルス」の影響で、イングランドのサッカー・プレミアリーグ*1は、4月3日まですべての試合を一時中止している。だがこれは、日本で大規模なコンサートが中止・延期されているように観客の間での感染拡大を未然に防ぐための先手先手での措置ではない。もしそうだったら、3月第2週に開催されていた競馬の障害物レースの祭典「チェルトナム・フェスティバル」も中止・延期されていただろう(チェルトナム・フェスでは、会場のあちこちに消毒用のハンドジェルが設置されていたとはいえ、観客席はすし詰め状態で、しかも英国はマスクをする習慣がないから、非常に多くの人々がかなり長時間にわたっていわゆる「濃厚接触」の状態のままでレースを見ているという状態になった。屋外ではあったが)。
リーグの一時停止が判断される前に、アーセナルのミケル・アルテタ監督の感染が判明して、アーセナルのトップチームが丸ごと自己隔離に入るということがあったのだ。この日、プレミアリーグの中で感染または感染のおそれが発覚したのはアルテタだけではなかったのだが、最もインパクトが強かったのがアルテタの感染だった。
BBC Sport - Mikel Arteta: Arsenal manager tests positive for coronavirus https://t.co/xkZmdyoPh7 きゃーーー 😱
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年3月12日
アルテタは火曜日(10日)にチーム全体の練習をした翌日、水曜日(11日)に具合が悪くなり、検査を受けて、木曜日(12日)の夜に陽性の結果が判明したという。
そして幸い、2日後の14日(土)には「もう回復してきた」と本人がツイートしていた。今回の実例はそのツイートから。
Thanks for your words and support.Feeling better already.We’re all facing a huge & unprecedented challenge.Everyone’s health is all that matters right now.Protect each other by following the guidelines & we’ll come through this together.Well done PL for making the right decisions pic.twitter.com/0rnwHmQWha
— Mikel Arteta (@m8arteta) 2020年3月13日
本題に入る前に形式的なことから。英語では、ピリオドやコンマなど句読点や記号の直後は、原則として、スペースを入れるというルールがある。コンマを打ったらスペース、ピリオドを打ったらスペース、コロンやセミコロンを使ったらスペース……というのは、英語でタイピングする人は習慣化されている。
しかしアルテタのこのツイートではその「ピリオドの直後のスペース」が全然ない。これは文字数がTwitterの投稿上限いっぱいいっぱいになってしまっていたためと思われる。アルテタの普段のツイートはスペースはしっかり入っているし、このツイートの文字数は実際に確認してみると上限いっぱい(残り文字数0文字)だからだ。
なのでこの、やたらと詰まった感じの文面は「誤り」ではなく「意図的に変にしている」ということになるが、いずれにせよタイピングのお手本とすべきものではない。よって以下、引用部分では、本来入れるべきスペースは入れておく。
ツイートの第1文:
Thanks for your words and support.
"Thanks" は Thank you と置き換えてよいので、この文は "Thank you for your words and support" としてもよい。ただし丁寧さというかかしこまった感じという点で両者のニュアンスは異なる。Thanksは親しい間柄での「ありがとう」やある程度距離のある間柄での普通の「ありがとうございます」程度で、Thank youは「感謝申し上げます」くらいに改まった感じがする。
いずれにせよここで確認しておきたいのは、「~に対して感謝する」ということを言うときは、《前置詞》のforを用いるということだ。
Thanks for coming.
(来てくれてありがとう)
Thank you for your time.
(お時間を割いていただき、ありがとうございました)
そのあと少し飛ばして(解説すべきポイントがないので)、続いて第4文:
Everyone’s health is all that matters right now.
この文の意味が、一読して取れただろうか。
主語は "Everyone's health" で、動詞は "is" なので「みんなの健康が~である」が文の骨格だが、この「~」の部分が "all that matters right now" だ。
最後の "right now" は「現在」の意味の副詞なのでとりあえず外しておいてよいが、そうすると、"Everyone’s health is all that matters" となる。
この "all that matters" は、意味が取れるだろうか。なぜそういう意味になるのか、他人に説明できるくらいしっかり理解しているだろうか。
この "all" は「すべてのもの」の意味の代名詞だ(「すべての~」という形容詞ではない)。続く "that" は《関係代名詞》の主格で、"matters" は動詞(これの主語が3人称単数のthatなので、3単現のsがついている)で「大切である」という自動詞の用法。なので "all that matters" は直訳すると「大切であるものすべて」となる。
つまりこの文は「みんなの健康が大切であるものすべてです」という意味になる。これをもっと自然な日本語にすると、「大切なのは、みんなの健康だけです」だ。
この《~ is all that matters》は熟語として覚えておくとよい。また、主語と補語が逆になった《all that matters is ~》の形もある。
Love is all that matters.
(愛だけがだいじなのだ)
All that matters is love.
(大事なのは愛だけなのだ)
その次の文:
Protect each other by following the guidelines & we’ll come through this together.
そしてその次の文:
Well done PL for making the right decisions
太字にした部分は、どちらも《前置詞+動名詞》の形であることに注目しておこう。
そして上の文は、文字数を抑制するためにandが記号であらわされているが、《命令文+and ~》の形だ。つまり、「ガイドラインに従うことでお互いを守ろう。そうすれば私たちは一緒にこれを乗り越えるだろう」と直訳される。
2番目の文は「正しい決定をしたことについて、PL(プレミアリーグ)はよくやった」と直訳される。より自然な日本語にすれば、「正しい決定をして、プレミアリーグはよくやった、と言いたい」となるだろうか。
アルテタのこのツイートには、感染がわかったことでリーグの一時停止の前にいち早く試合の延期が決定されていたマンチェスター・シティのアカウントが絵文字だけでリプライを寄せている。(ちなみにアルテタは、アーセナルの監督になるまで、シティでアシスタント・コーチを務めていた。)
💙
— Manchester City (@ManCity) 2020年3月13日
だが、こういうとき、絵文字ではなく言葉で気持ちを伝えるとすれば、"Get well soon" と言うのが定番だ。
Get well soon, boss.
— Terje (@ArsenalTerje) March 13, 2020
Get well soon, boss pic.twitter.com/AxTll6eN8G
— Simpsons Arsenal (@SimpsonsArsenal) March 13, 2020
ほか、"Quick[Speedy] recovery" という表現もある。
Great news boss speedy recovery 🙏❤
— ArsenalWay (@ArsenalWay) March 13, 2020
Good news boss
— 🔴⚪️Gooner Kev⚪️🔴 (@kevdavis736) March 13, 2020
Wishing you a speedy recovery #WeAreTheArsenal
Get well soon, Boss!
参考書:
*1:「1部リーグ」にあたるプレミアだけでなく「2部リーグ」にあたるチャンピオンシップなども同様に停止している。