Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

so ~ that ...構文, 進行形の受動態, to不定詞の副詞的用法, andの作る構造(ノーベル平和賞を受賞したフィリピンのジャーナリスト)

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今回の実例は、今年のノーベル平和賞受賞者の告知文から。

ノーベル賞は、あえて説明する必要があることではないかもしれないが、ダイナマイトの発明者として知られる19世紀スウェーデンの発明家、アルフレッド・ノーベルの遺言によって1901年に設立されたもので、「物理学賞」「化学賞」「医学・生理学賞」「文学賞」「平和賞」の5部門からなる。1968年にはこれらに加え、スウェーデン国立銀行が設立300周年記念としてノーベル財団に働きかけて「経済学賞」が新設されており、現在は5部門+1部門の計6部門となっているが、最後の「経済学賞」は微妙な位置づけでもある。

オリジナルの5部門のうち、4部門はスウェーデンの機関によって選考され、スウェーデン政府によって授与されるが、「平和賞」だけはノルウェーが選考・授与する。これは、創設当時の両国間の関係に起因するものである。

今年のノーベル平和賞は、自国政府に対して忖度しないどころか非常に批判的な報道を行ってきたフィリピンとロシアのジャーナリストが受賞した。どちらも身の危険を冒して、政府側による事実の隠蔽に抵抗してきた人であり、最大限の敬意にあたいする。

今回の英文法の実例は、この受賞を告知するノーベル財団のプレスリリースから。記事はこちら: 

www.nobelprize.org

実例として見るのは、このページの中ほどにある "Announcement" のセクションから。

2人の受賞者のうち、まずはフィリピンのマリア・レッサさんについての記述の部分。文法的には特にとびぬけて難しい要素はないので、英文をざっと読んだだけで意味が取れるかどうかを確認するための素材としてとてもよいと思う。 

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https://www.nobelprize.org/prizes/peace/2021/press-release/

文法的に解説するのは、このパラグラフの最後から2番目の文: 

The number of deaths is so high that the campaign resembles a war waged against the country’s own population.

ドゥテルテ政権による「反ドラッグ・キャンペーン」においては、麻薬・違法ドラッグに関わった人がその場で射殺されており、その死者数は数千人に上るなど、到底法治国家とは思えない状態になっている。

この文はそれを具体的に述べている部分の文で、太字にした部分は《so ~ that ...》の構文である。直訳すれば、「死者数が大変に多く、このキャンペーンは自国民に対する戦争のように見えるほどである」。時制が現在形であることにも留意されたい。

フィリピンといえばドゥテルテ政権(2016~)しか知らない若い世代の人は、こういうのが当たり前という感覚になっているかもしれないが、マルコス独裁政権を倒した1980年代の「ピープルパワー革命」(日本でもとても大きく報道された)とその後の「民主化*1の経緯を知っている人々にとっては、ドゥテルテのような人物が投票で大統領になってしまったこと自体がショッキングだった。

ニュースになったときだけ関心を示すような私たち外国人にとってそうだったのだから、現地フィリピンの人々、特に「民主化」を担った人々には、ひどいショックだっただろう。そして実際、ドゥテルテ政権は無茶苦茶なことをやり、それがBBCなど国際メディアでも報道されたが、ドゥテルテは動じなかった。彼が動じたのは、マリア・レッサさんが立ち上げたニュースサイト「ラップラー (Rappler)」のような国内の動きに対してだ。そして、動じた強権的大統領は弾圧・圧殺に動いた。

レッサ記者とラップラーは、少なくとも7000人が裁判を経ずに治安当局の手で殺害された「麻薬戦争」など、ドゥテルテ大統領に関する調査報道を展開。大統領から「レッサは詐欺師だ」「つぶす」とどう喝され続けた。  

司直の手にも掛かった。サイバー名誉毀損(きそん)、外国資本によるメディア所有、税法違反。計11の容疑を掛けられ、逮捕や留置も経験したが、権力を追及する姿勢は揺るがなかった。2018年に米タイム誌の「今年の人」に選ばれた。  

20年6月、名誉毀損罪で最大6年の禁錮刑(控訴中)を言い渡された後、レッサ記者は会見で宣言した。「(判決は)私たちにとって打撃だが、表現の自由を脅かすあらゆる攻撃に立ち向かうことはやめない」。

www.jiji.com

 

この次の文: 

Ms Ressa and Rappler have also documented how social media is being used to spread fake news, harass opponents and manipulate public discourse.

下線で示した部分は《疑問詞節》で、「いかにして~か」という名詞節であり、"documented" の目的語である。

この疑問詞節内、太字で示した "is being used" は《進行形の受動態》で、「現在まさに使われている」という意味。

その直後の "to spread" は《副詞的用法》のto不定詞で「~するために」。

青字で示した "and" は、直後が "manipulate" という動詞の原形になっているので、その前の動詞の原形を探すことで構造が正確にとらえられる。

どうだろう、わかっただろうか。

その通り、 "to spread..., harass... and manipulate..." という構造になっている。

この部分の意味は、「いかにして、ソーシャルメディアが、フェイクニュースを広め、反対者に嫌がらせをし、人々の間での言説を操作するために、用いられているか」となる。

ノーベル財団は「ソーシャルメディア」と一般名詞で語っているが、フィリピンの場合、具体的にはFacebookで、そのことを指摘する投稿は、Twitter上の英語圏にあふれている。

 

フィリピンはジャーナリストがジャーナリストであるがゆえに殺されることが多い国のひとつである。ユネスコのサイトにデータがある

en.unesco.org

 


ところでノーベル賞といえば、その発端に関して長く語られてきた逸話がある。それについての事実を確認した下記の記事も興味深い。

フェイクニュースなんて、『フェイクニュース』という言葉が使われるようになる前からあったもので、今に始まった問題ではない」としたり顔で言うのもけっこうだが、それだけで終わらせても何にも結び付かないなということを改めて思わされる。

 

※3800字

 

 

 

*1:民主化」というと今の人々には「アメリカが後ろ盾」と思うかもしれないが、フィリピンの場合、アメリカは長いことずっと、革命で倒された独裁政権を支援してきた側であり、革命の側にはいなかった。

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