今回の実例は、Twitterから。
第一線で活躍するパレスチナのジャーナリスト、シリーン・アブ・アクレさんが、ジェニン難民キャンプを取材中に、イスラエル軍によって理不尽にも撃ち殺されてから、この18日で100日を迎えた。
It has been 100 days since Israeli forces killed veteran Al Jazeera journalist Shireen Abu Akleh in the occupied West Bank.
— #ShireenAbuAkleh (@ShireenAbuAkleh) 2022年8月18日
Despite numerous investigations, no one has been held to account. Today, the world pays tribute to her memory. #JusticeForShireen pic.twitter.com/z7SlF3uM9s
As Today marks 100 days since Al Jazeera journalist Shireen Abu Akleh was killed by Israeli forces while on assignment, Al Jazeera channel demands justice for Shireen and accountability for her killers. #JusticeForShireen pic.twitter.com/WcHuqIotGN
— PALESTINE ONLINE 🇵🇸 (@OnlinePalEng) 2022年8月18日
“100 days have passed since my aunt Shireen Abu Akleh was killed here by an Israeli soldier. 100 days without accountability and justice. We will not relent in our efforts to get #JusticeforShireen “ pic.twitter.com/w0ybFIfwTL
— Lareen Abu Akleh (@aa_lareen) 2022年8月18日
シリーンさんのご家族・ご親族や友人・同僚の人々がそのことをツイートしはじめる少し前というタイミングで、シリーンさんの殺害のニュースに負けず劣らず衝撃的なニュースが流れてきていた。といっても人が殺されたのではない。残念なことに、パレスチナではイスラエルによって人が殺されるのはほぼ毎日のことで、それは私の見る世界ではろくにニュースになることもないし、私自身にも、深い衝撃を与えはしない。そういうことが伝えられるたびに、私に与えられるのは、「またか」という嘆息といら立ち、「いつまで続くのか」という怒りと憤りばかりである。衝撃ではない。英語ではこういうのを "not surprising" とか "not surprised" といった言い方で表すのだが、それは別の話。
何があったのかというと、パレスチナ人の人権のために活動しているNGO複数の事務所が踏み込まれ、書類などが持ち去られ、ドアが封じられたのだ。それも、オフィスに人がいない時間帯に。
🚨🚨Breaking: This morning, Israeli Occupation Forces (IOF) raided Al-Haq’s office in Ramallah, confiscated items and shut down the main entrance with an iron plate leaving behind a military order declaring the organization unlawful 1/2 pic.twitter.com/Y8yqRdU4Db
— Al-Haq الحق (@alhaq_org) 2022年8月18日
Israeli forces raided our office and welded our front door shut this morning, nearly a year after outlawing our work and calling us terrorists for protecting & defending Palestinian children's rights. This work isn't getting easier—but we aren't going anywhere. #StandWithThe6 pic.twitter.com/iAZK2DteZz
— Defense for Children (@DCIPalestine) 2022年8月18日
NGOが急襲されただけではない。イングランド国教会の海外部門であるAnglican/Episcopal Churchの教会も急襲され、ドアが破壊されて解錠された。
Israeli forces raided the premises of St. Andrew’s Anglican/Episcopal Church in Ramallah at 3am. Soldiers wrecked Church’s entrance, smashing the door’s glass and pulling down the door’s lock. Attacks on places of worship and the devastation of church property violates intl law. pic.twitter.com/BjhQv8HsPd
— Daoud Kuttab داود كُتّاب (@daoudkuttab) 2022年8月18日
イスラエルがどれほど常軌を逸したことを平気でやってくるか、この例だけでもおわかりいただけるだろう。理由はあとから何とでもつけられるし、実際に彼ら・彼女らはそうする。
この理解しがたい蛮行について、+972magがまとめているので、今回はそのスレッドを読んでみよう。
BREAKING: In a brazen move this morning, the Israeli army raided the offices of the six Palestinian NGOs declared "terrorist organizations" by Defense Minister Benny Gantz last year. Soldiers confiscated files and equipment, posted military orders, and welded the doors shut. pic.twitter.com/1ZNwCv0R3T
— +972 Magazine (@972mag) 2022年8月18日
"the six Palestinian NGOs declared ’terrorist organizations’" は《分詞の後置修飾》を含む表現で、"declared" は過去分詞。
内容的に、これがどういうことかというのは、下記記事などを参照されたい。2021年10月のことである。
つまり、この日「速報」として伝えられたのは、この日の朝(日本語で普通に「朝」と呼ぶ時間帯ではなく早朝であることがあとで明かされるが、英語ではmorningといえば「午前」の時間帯なので、日本語でいう「未明」を含む)、昨年10月にガンツ防衛相によって証拠もなく「テロ組織」と位置付けられた6つのパレスチナのNGOにイスラエル軍が踏み込み、書類や機材を押収していき、軍の命令を掲示して入り口のドアを溶接して封鎖してしまった、ということである。
これ自体、とんでもないことである。NGOへのこういう弾圧というと、2010年代以降のロシアを思い出さざるを得ないが、人権という点では、実にイスラエルとロシアはよく似たことをやっている。どちらも、その国の政府が言うことをそのまま信じることは到底できない。
スレッドの次のツイート:
The operation was carried out just hours after Israel's West Bank military commander dismissed the NGOs' formal appeals to cancel the designations.
— +972 Magazine (@972mag) 2022年8月18日
This marks a severe turn in Israel's persecution of Palestinian civil society, pursued with more gall and impunity than ever. pic.twitter.com/BCRzlXFPrS
いわく、「テロ組織」の汚名を着せられたNGOが、それを取り消すよう正式に異議申し立てを行ったのだが、イスラエルでヨルダン川西岸地区を担当する軍司令官がそれを却下した。
そういうものを軍が却下しているというこの現実。
そしてその却下から数時間後に、イスラエル軍は人権NGOの事務所に踏み込んだのだ。
そのことについて、972マガジンは
This marks a severe turn in Israel's persecution of Palestinian civil society, pursued with more gall and impunity than ever.
と評価している。この動詞のmarkの使い方は覚えておくとよいだろう。翻訳者でもなければ、かならずしも日本語に訳せなくてもいい。
This song marked the beginning of a new era of soul music.
(この曲は、ソウル・ミュージックの新たな時代の始まりをmarkした)
文意は「この件は、パレスチナの市民社会に対するイスラエルの迫害が一段階進んだことを意味している。それは、今までにないほどに多くのgallとimpunityを持って追求されている」といった感じ(英語のままにしてある単語は、各自辞書でご確認いただきたいが、大学受験では必ずしも知っていなくてもよいのではないかと思われる単語である。以下、同)。
その次のツイート:
Since outlawing the NGOs, Israel has tried and failed to convince foreign governments — some of which fund the groups — that the orders are justified. Nine European govts rejected the designations last month, saying Israel gave no substantial evidence.https://t.co/qS2Rzqfqa3
— +972 Magazine (@972mag) 2022年8月18日
《since + 名詞》の構文で、名詞ではなく動名詞が用いられている。
全体としては、《トピック文とサポート文》の構造になっており、第1文で述べたことを第2文が具体的に示している。
文意は「これらのNGOを非合法化して以降、イスラエルは諸外国政府――そのいくつかはこれらのNGOに資金を提供している――に、イスラエルの出した命令は正当なものであると納得させようとして、失敗してきた」が第1文。「先月、欧州9か国の政府が、イスラエルは何ら実質的な証拠を示していないとして、(これらのNGOについての「テロ組織」という)位置づけを拒絶した」が第2文。
その次のツイート:
The Defense Ministry also recently sent veiled threats to some of the lawyers representing the NGOs, hinting that their work could be perceived as a violation of Israel’s anti-terror laws, and therefore could be severely punished as security offenses.https://t.co/dVnxhvBV2f
— +972 Magazine (@972mag) 2022年8月18日
"veiled threat(s)" という表現は、こっち方面の文章を読むようになるとよく遭遇すると思うが、直訳すれば「ベールをかけた脅迫」で、つまり「直接的ではない(遠回しな)脅迫」のこと。これの応用的な表現に、"thinly-veiled threat(s)" というのがある。「薄いベールをかけた」ということは「ほとんど隠そうとしていない」ということで、「ほぼあからさまな脅迫」という意味になる。
"hinting" は《現在分詞》で《分詞構文》。
文意は「また(イスラエルの)国防省は、最近、これらのNGOの代理人となっている弁護士の一部に、あなた方の仕事はイスラエルの対テロ法違反と位置付けられうるので、治安上の違法行為として厳罰が下る可能性があるとほのめかし、遠回しな脅迫を送った」。
ちなみにイスラエルは「中東唯一の民主主義国」と鼻高々に自慢してきた国である。「民主主義」であるがゆえに、米国からも欧州各国からも支持と支援を取り付けてきた。
だが、現実はどうか?
スレッドの次のツイート:
These dangerous developments must ring alarm bells. The fact that today's military incursions happened despite growing opposition shows that Israel not only doesn't care about making baseless claims, as +972 and Local Call have exposed for months — it has no fear of consequences.
— +972 Magazine (@972mag) 2022年8月18日
第1文の助動詞 "must" は、「~でなければならない」なのか「~するはずだ」なのか、判断しがたい。どちらでもあるのだろう。「これらの危険な事態の展開は、警報を鳴らすものでなければならない〔鳴らすに違いない〕」。どちらで解釈しても文意は成立する。
第2文:
The fact that today's military incursions happened despite growing opposition shows that Israel not only doesn't care about making baseless claims, as +972 and Local Call have exposed for months — it has no fear of consequences.
主語が長くて少々構造が取りにくい文である。
文の主語と述語は青字で示したのだが、主語に《同格》の接続詞 "that" が導く節がついているので、主語が長くなっているのである。
主語の部分は「今日の軍による(事務所への)侵入が、ますます高まりつつある反対にもかかわらず、起きたという事実」。
そしてそれが「示している」という動詞に続いて、その目的語のthat節が来ているのだが、このthat節内に下線で示した"not only" があるので、読む側は《not only A but (also) B》の構文を予期するだろう。
しかし、先を見ても、"but (also)" がないのである。
これは、新聞記事などでなく個人のブログのような場やTwitterなど、また個人の発言でよくみられる形で、"not only" だけで接続詞句みたいになってしまっている形である。
接続詞句というのは、例えば次の now that のようなもの。
Now that the exam is over, I can sleep as much as I like.
(もう試験が終了したから、思う存分寝てもいいよね)
『ジーニアス英和辞典』(第5版)では、この "not only" の用法(butの省略)を「略式」として解説している(p. 1441)。
この文では、下記で薄いグレーで示した部分が《挿入》の形になっているのだが、その挿入の後の部分に、本来あるはずのbut(朱字)が見えるはずである。
Israel not only doesn't care about making baseless claims, as +972 and Local Call have exposed for months — but it has no fear of consequences.
この部分の文意は「イスラエルは、+972マガジンやローカルコール誌が何か月も前から明らかにしているように、根拠などない主張をすることは意に介していないだけでなく、その結果を恐れもしていない」。
スレッドの最後は、+972マガジンはイスラエル政府からの弾圧を受けるNGOとの連帯を示し、国際社会にイスラエルを止める行動を呼びかける文面となっている。
+972 continues standing in solidarity with the six NGOs, and demands immediate international action to stop Israel's escalating assault on Palestinian civil society.
— +972 Magazine (@972mag) 2022年8月18日
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