今回の実例は、報道機関のTwitterフィードから。
クリスマス前に、ケネス・ブラナー監督の新作映画『ベルファスト』について取り上げた。日本でも来る3月に劇場公開予定だが、英国ではちょうど今、映画館にかかっていて、この映画で視点人物である子供の父親を演じている俳優ジェイミー・ドーナンのインタビューが、ここしばらくよくメディアに掲載されている。
ドーナンは、また、この1月からスタートした英BBC/米HBO/豪Stanの連続ドラマ、The Touristにも主演しており、出演作が目白押しだからよけいにメディア露出が目立つのだろう。とにかく、年末からやたらとこの人の顔をTwitterで見かける。
というわけで、今回実例として見るのは、デイリー・テレグラフのフィードから。語彙や内容はともかく、構文としては、大学受験でもそのまま使えそうなわかりやすい文だ。
It's probably going to take a while for Jamie Dornan to shake off his association with Christian Grey, the billionaire entrepreneur with aberrant sexual tastes
— Telegraph TV & Radio (@TeleTVRadio) 2022年1月2日
ジェイミー・ドーナンは英国の多くの俳優と違って演劇学校から舞台劇……というような経路をたどっておらず、元々はミュージシャンで、バンド解散後はカルバン・クラインのようなブランドのモデルをしていた人なのだが、その彼を俳優としてのスターダムに押し上げたのが、このツイートで言及されている「クリスチャン・グレイ」役だった。
これは、2010年代前半にバカ売れした、女性作家が書いた女性向けの官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』を、米資本で2015年に映画化したときにドーナンが演じた役である。というか、当初キャスティングされていた別な俳優が降板してしまったので、代わりに当時はほぼ無名だったドーナンがこの役を演じたのだが、それがドーナン自身のルックスとぴったり合う役だったためにあまりに鮮烈な印象を残してしまい、ジェイミー・ドーナンと言えばクリスチャン・グレイ、ということになってしまった。本人としては、あの役は自分と共通するところは何もないと言っているのだが(まったく共通点のない人物になることが俳優の仕事だし)、ヒットした映画やドラマで一度ついてしまったイメージを塗り替えることは、誰にとっても容易ではない。
……という話をしているのが、今回見ているこのツイートだ。
It's probably going to take a while for Jamie Dornan to shake off his association with Christian Grey, the billionaire entrepreneur with aberrant sexual tastes
「…するには《時間》がかかる」の《it takes ~ to do ...》の構文に、《to不定詞の意味上の主語》が入っている。
さらに、この "takes" の部分に《be going to do ~》が入って、 "It's going to take ..." になってて、しかもそこに "probably" も加わっているから、見た目的にやけに長くなっている。
だが落ち着いて見れば構造は単純で、しっかり勉強してきた人なら、「~が…するには、たぶん少し長くかかるだろう」という日本語文を見たときにこのくらいの英文はすらすらと書ける(構成できる)だろう。
"a while" は「少しの時間」「少し長くの時間」の意味で、具体的にどのくらいの長さの時間かは言わないけれど、一朝一夕でできるものではない、くらいの意味を表すときによく用いられる表現。
"shake off ~" は「~を払い落とす」「~を振り落とす」で、テイラー・スウィフトのヒット曲でこの動詞句を覚えた人もけっこういるだろう。
下線で示した部分は、先行の "Christian Grey" を補足して説明している部分で(《同格》)、「クリスチャン・グレイ、つまり、aberrantな性的好みを持った大金持ちの起業家」という意味。aberrantという単語は、大学受験ではまず出てこないだろうが、「常軌を逸した」の意味。
ドーナンが、その役柄と結び付けられることを振り払うには(その役柄のイメージを脱却するには)、まだしばらくかかるかもしれない、というのがこのツイート全文の意味である。
この構文を使って、今手元で自分の言いたいことを言う練習をしておくと、受験本番で役に立つかもしれない。例えば:
It's probably going to take a couple of days for me to finish the book.
(私がその本を読み終わるには、2、3日かかるんじゃないかと)
It's probably going to take a few weeks for your brother to recover from COVID.
(お兄さんがコロナから回復するには、数週間かかりそうです)
……というように、文の骨格(太字の部分)を使いまわすようにして、いろいろ文を作ってみると、よい練習になるだろう。
なお、takeを使った「《時間》がかかる」の構文では、このようにto不定詞の意味上の主語をforを使って表さなくても、take自体でSVOOの文型にして表すという方法もある。テレグラフのツイートの文でそれをやると、妙に読みづらい不格好な文になってしまうのだが、もっとシンプルな文ならこの第4文型の文で表すのが早いかもしれない。
It's probably going to take you an hour or so to get to the summit.
(山頂まで、あなたの足で、1時間かそこらかかるでしょうね)
※2500字