年が改まり、2022年になりました。昨年末の最終週から昨日までは過去記事を再掲してきましたが、今日から通常の投稿に戻ります。昨年は多くの方に読んでいただき、また多くのフィードバックもお寄せいただき、ありがとうございました。今年もまたよろしくお願い申し上げます。
年頭のご挨拶はここまでにして、今回の実例はTwitterから。
毎年1月1日は、日本語圏でも私の目に入る英語圏でも、日付が変わる瞬間のカウントダウンがゼロまで行った瞬間に「あけましておめでとう」のメッセージが飛び交うのだが、それと前後して、非常に多くの人々がそれまでの1年をざっと振り返り、この先の1年についての展望を述べるツイートをする。そうする人には、一般人も著名人も公人もいる。
今年もいろんな人の、そういう、いわば「年越しツイート」を見たのだが、今回英文法の実例としてみるのは、アイルランドのミホール・マーティン首相による「年越しツイート」。こちら:
2021 was a difficult year for Ireland, and the world, as we faced and met the ongoing challenge of COVID-19.
— Micheál Martin (@MichealMartinTD) 2022年1月1日
Wishing everyone a happy and productive 2022, a year where we will see even greater advances in our fight against this pandemic.
最初の文で「2021年はこんな年だった」とまとめ、次の文で「2022年がよき年になりますよう」と述べている。一見、特に難しいところもなく、するすると読める、わかりやすい文面だ。
しかし、いわゆる「受験英語」をガチガチにやってきた人は、「あれ?」と引っかかるところがあるのではないか。「学校・塾や参考書で習ったのと違うのではないか?」と。
高校時代の私もそうだったのだが、今では大学受験で絶滅危惧種みたいになりつつある空所補充の文法問題を、とにかく速く、時間をかけず、正確に答えるための訓練をした人は、問題文の全体など読まずに、空所の前後だけを見て正答を判断する、ということをやったことがあるだろう(特に「受験地獄」世代からその少し後の世代には、この経験を共有している人が大勢いるはず)。
この訓練においては、1問あたり2~3秒で解けるようにするのが目標で、私は学校で「標準レベルの文法問題集は1問を1秒で*1解けるようになれ」と指導され、その通りに訓練したんだけど、そのスピードでやろうとすると、問題文全部を読んでる時間はなく、関係詞なら文面をぱっと見た瞬間に先行詞はどれと判断し、だから空欄に入る関係詞はどれ、と判断することになる。
それをやっている人ならば、さっきみたマーティン首相のツイートには「あれ?」と思う部分があるはずだ。
そう、ここ。
Wishing everyone a happy and productive 2022, a year where we will see even greater advances in our fight against this pandemic.
先行詞が "a year" と《時》を表すものなのに、それに続いている関係詞(関係副詞)がwhenではなくwhereになっている。
1問あたり1秒で空所補充問題を解く訓練をするときには、ここは何の留保もなくwhenと書き込んでいたはずだ。しかし、実際の英語(「ネイティヴ」の英語)ではwhenでなくwhereとなっている……。
こういうときに「規則の方が正しいはず」とこだわってしまう規範主義的な人は、生の英語とつきあっていくことに大きなストレスを感じるかもしれない。
「あ、こういうのもありなんだ」と受け入れるというか「例外」の幅をどんどん広げていって面倒くさくならない人は、英語と相性がいいと言えるだろう。
これについては、私の手持ちの文法書(江川『英文法解説』、旺文社『ロイヤル英文法』に加え、『ジーニアス総合英語』から、安藤『現代英文法講義』まで)では、はっきりとした解説は見当たらないのだが*2、『ジーニアス英和辞典』(第5版)に少しだけ解説がある (p. 2380)。
(関係副詞のwhereで)[先行詞がage, timeの場合]age, timeが先行詞の場合にwhereが用いられることもあるが、in whichやwhenを使った方が無難
なぜ「in whichやwhenを使った方が無難」なのかは全然説明されていないが、ジーニアスのような一般的な学習英和辞典にこういう記載が出る程度には、先行詞がage, timeなど《時》を表す名詞で関係詞がwhereになっているということは、よくあることと、辞書編集者が判断しているわけだ。
関係副詞のwhereは、基本的に、in whichの意味・ニュアンスであり、マーティン首相のこのツイートも、whereをin whichに置き換えると、何の違和感もなく読めるはずだ。
Wishing everyone a happy and productive 2022, a year in which we will see even greater advances in our fight against this pandemic.
文意は、「みなさまにとって2022年が幸福で実り多き年でありますよう。今年という年は、このパンデミックに対する私たちの戦いにさらに大きな進展が必ず見られます」という感じ。
なお、関係詞節内の "we will see ..." のwillは、「~だろう〔でしょう〕」とぼわーんとした感じでとらえるより、《確定した、確実な未来》みたいな感じで、はっきり「~ことになる」と解釈するとしっくりくる。首相が強い決意を表した年頭の言葉だし。
※2650字