Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「A市に生まれた男は、父親が祖父のやっている事業を引き継ぐため、B市に転居する」式の複雑な日本語の文を、ChatGPT, DeepLなど自動翻訳に投げてみた。

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現時点での、ChatGPT 3.5と、DeepL翻訳と、Google翻訳に、同一の文を投げて、日本語→英語での翻訳出力結果*1を比較してみよう。

元とするテクストは、何となくクリックしてみた週刊誌の記事から。

61年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた松永は、父親が祖父の営む布団訪問販売会社を引き継ぐため、68年10月に柳川市へと転居する。

7人が惨殺された“最凶事件“の主犯・松永死刑囚の中学時代「無理やり牛乳を飲ませたり、パシリにしたりして」〈卒業アルバムを入手〉 | 文春オンライン

コーヒーなど飲みながらぼーっと眺めるように文字を追っただけでは正確に意味がとれているかどうか不安になってしまい、頭を集中モードに切り替えてまじめに読んで、ようやく意味が取れた文である。

なぜそのように二度読みが必要になったかというと、構造が入り組んでいるからである。カッコでくくるなどすると、次のようになる。

(61年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた)松永は〔父親が祖父の営む布団訪問販売会社を引き継ぐため、〕68年10月に柳川市へと転居する

黒字で示した部分が主節(主文)、朱字で示した部分が従属節で、青字のところは主節に含まれる名詞を修飾(説明)する形容詞節である。

このような文体は、日本語の週刊誌報道や「ルポルタージュ」と呼ばれる文章でよくみられるものだが、「ブリティッシュな日本語」を書くと言われる私がこの文を書いたら、おそらく、

61年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた松永は、68年10月に柳川市へと転居する。父親が祖父の営む布団訪問販売会社を引き継ぐためだった。

と形式上文が2つという構造にするか(こういう文体は、元の文体に比べると「流れるようにするすると読む」ことが少し難しくなるはずで、実際、私もこの文は単独では「うーん」という印象だ)、

松永は61年4月に北九州市で生まれ、68年10月に柳川市へと転居する。畳屋を営んでいた父親が、祖父の経営する布団訪問販売会社を引き継ぐことになったからだ。

と、さらに懇切丁寧に説明する文体(音で聞いて違和感なくわかる文体)にすると思う。

ともあれ。

このように、構造を取りにくい日本語文は、2023年夏に広く一般で利用されている(と思われる)ウェブ上の「翻訳ツール」によってどう処理されるか。

ちょっと興味を持ったので、ささっとやってみた。

本エントリは、その結果を書き留め、同時に一般にシェアすることが目的である。(論評・批評の類は行わない。)

下処理として、「61年」「68年」となっている表記を、「1961年」「1968年」と明確化した。よって、元テクストは下記の通りである。

1961年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた松永は、父親が祖父の営む布団訪問販売会社を引き継ぐため、1968年10月に柳川市へと転居する。

ちなみに、私が人力でやってみたのがこんな感じ。この英語表現が「正しい」かどうか、どのくらい「正しい」かはさておき(そこはネイティヴチェックが必要なところ)、文の構造としてはこの解釈で間違いはない。

Matsunaga, who was born in Kitakyushu City in April 1961 as the first son of a tatami shop owner, moved to Yanagawa City in October 1968, when his father decided to take over his grandfather's company which sold futon door-to-door.  

 

まず、ChatGPT 3.5(無料版。例によってとことん「チャットする」スタイルでお届けします): 

https://chat.openai.com/

出力結果は次の通り: 

Matunaga, who was born as the eldest son of a tatami shop owner in Kitakyushu City in April 1961, moved to Yanagawa City in October 1968, as his father took over a futon door-to-door sales company run by his grandfather.

おかしなところは特にない。AIに投げるとめちゃくちゃにされがちな数字も、ここでは問題なく出力されている。

出だしの部分は《関係代名詞》の《非制限用法》で、私の発想と同じだ。

「父親が祖父の会社を引き継ぐため」の部分が、asの副詞節になっているのは、なかなかうまいことやるじゃんと思った。情報の軽重のつけ方がよく、だらだらと長い文で、メリハリのある情報配置になっている。

 

次。DeepL

https://www.deepl.com/translator

出力結果は次の通り: 

Born in Kitakyushu City in April 1961 as the eldest son of a tatami mat shop owner, Matsunaga moved to Yanagawa City in October 1968 so that his father could take over his grandfather's futon visiting sales company.

これもおかしなところは特にない。「1961年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた松永は」の部分を、《関係代名詞》でなく《分詞構文》にしていて、こなれた感じがする。あと、「父親が祖父の会社を引き継ぐため」を《so that ~》の構文で表していて、これもいいなと思った。直訳すれば、「父親が、祖父の会社を引き継ぐことができるようにするため」といった感じになるが、そういう回りくどさはこの英文からは感じられない。

 

3つ目。Google翻訳

https://www.google.com/search?q=google+translate

出力結果は次の通り: 

Matsunaga was born in Kitakyushu in April 1961 as the eldest son of a tatami shop owner, and moved to Yanagawa in October 1968 so that his father could take over his grandfather's door-to-door futon sales company.

「そこ、andでつないじゃうんだ」という印象だが*2、おかしなところは特にない。「父親が祖父の会社を引き継ぐため」を《so that ~》の構文で表しているのはDeepL翻訳と同じである。

 

以上、三者三様の結果ではあったが、どれも普通に通用する英文になっている。ルポルタージュ文体の日本語の見せかけの「現在時制」(「1968年に転居する」といった表現)にもごまかされずに、ちゃんと過去として訳出しているのも、三者とも共通している。

ひと昔前、というか、ChatGPTどころかDeepL以前の機械翻訳からは、格段によくなっていることは、事実である。

こういったものを「ツールとして、スマートに使いこなす」的な発想が出てくるのは当然のことだ。問題は、それを本当に「使いこなす」ためには基本的なスキル(英語の技能)が必要、ということだが。

 

 

比較のため、Babelfishの例と、DeepL以前の機械翻訳の出力例を、以下に貼っておこう。途中からは投げ銭用(いつもありがとうございます)。

Babelfishは、今、十何年ぶりかで使ってみたのだが、かなりよくなっている。かつてははちゃめちゃな「英語もどき」を量産してくれていたのだが、一応、普通に英語に見えるものを出力してくれるようにはなった。

https://www.babelfish.com/

でも、これダメ。全然ダメ。どこがダメかというと……(続きは有料部分。1200字くらい)

*1:「翻訳結果」とは呼ばない。あくまでもこれらは「出力」である。

*2:学生のころ、こういう英文を書くと、「もうちょっと何とかなさい」と添削されたものである。

この続きはcodocで購入
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