Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】ニューヨークを拠点とする3つの新聞を、はっきり区別する。

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このエントリは、2020年10月にアップしたものの再掲である。

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今回は、いつもと趣向を変えて、英語圏の新聞について基本的なことを書いておきたい。

英語圏の新聞は、大まかに2種類に分けられる。「タブロイド tabloid」と呼ばれる新聞と、「ブロードシート  broadsheet」と呼ばれる新聞である。両者の呼称は、元々は印刷されている紙の大きさに由来している。「タブロイド」は380 mm × 300 mm, 「ブロードシート」は600 mm × 380 mmで*1、ブロードシートを2つに折るとタブロイドになる形だ。これは日本でも一般の新聞(朝日、読売、日経、毎日など)と、スポーツ新聞(東スポスポニチ、デイリーなど)や夕刊紙(夕刊フジ日刊ゲンダイなど)の違いとして広く知られている。

そして日本の一般の新聞とスポーツ新聞の違いのように、英語圏でも「ブロードシート」は普通の報道のための新聞で、「タブロイド」はスポーツ・芸能とゴシップに特化した娯楽のための新聞という大まかな違いがある。後者は日本語でも「タブロイド新聞」「タブロイド」と呼ばれ、一般的に「信頼できない情報源」と認識されている。実際、タブロイド紙は「売れればいい」という編集方針で、センセーショナルに話を盛ったり、大げさな見出し(いわゆる「釣り見出し」)を付けたり、でっちあげ・捏造報道をしたりすることが多い*2

21世紀に入ってからは、ネットの影響などもあって新聞ももろもろ変わっていて、「ブロードシート」の大きな紙が敬遠されるようになり、それまでブロードシートで印刷していた新聞が「ベルリナー」と呼ばれる一回り小さな紙*3や、「タブロイド」 を使うようになっているが*4、紙の大きさは同じタブロイド判でも、内容がブロードシートの新聞は「タブロイド新聞」とは呼ばれない。それらは、日本の感覚では「一般紙」や「普通の新聞」と呼ぶべきだろうが、英語圏では「高級紙(クオリティ・ペーパー) quality paper」、あるいは単に「新聞 newspaper」と呼ばれている。

ここまでまとめると、

-普通の新聞、一般紙 = broadsheet, quality paper, newspaper

-スポーツ新聞、ゴシップ新聞、タブロイド新聞 = tabloid

世界各国の新聞を情報源として参照するとき、この2つの区分が基本となる。例えばフットボーラーの移籍情報について、あるタブロイドが「スクープ」と銘打って派手な記事を書き立てている段階では、ほとんどの人が「話半分で聞いておこうか」という態度をとるが、ほかのタブロイドも同様のことを書き始めると「そういうことになっているのかな」と思い始め、一般紙が報じるに至って「事実と確定した」と受け取られる、というイメージだ(実際にはスポーツ専門メディアもあればテレビ局もあるので、こんなに簡単ではない。近いところではリオネル・メッシの移籍未遂みたいな報道を参照。英語圏ではガレス・ベイルの移籍についての件が記事を探しやすいだろう)。

 

さて、この区別、ネットで日本国外(海外)の報道に接するときには、なかなか難しい側面もある。実際に印刷された紙で見れば、派手なセンセーショナリズムのタブロイド新聞は見た目からしてそういうふうだから「これは話半分で聞いておこうか」という構えも取りやすいが、ネットだとそういう見た目の違いがわかりにくい。各媒体のサイトを見れば、一般紙(高級紙)は重厚な雰囲気のロゴがあったり、全体に落ち着いたレイアウトだったり、フォントがTimes New Romanなどセリフのフォントだったりしているからまだ空気感があるが、Twitterのようにそのメディア自体のデザインが見えない環境でぽこっと単体でニュースフィードが流れてくると、どのメディアがタブロイドメディアなのかを元から知っていないと、「これはタブロイド報道だから話半分で」ということができない。

この点についての対策は、残念ながら「最初から把握しておこう」ということ以外にないと思う。つまり、一度は「不確かなタブロイド報道をうのみにしてしまった」という道を通らなければわからないこともあるかもしれない。そういう、いわば「やらかし」は誰にでもありうることである。もし、不確かな話をうのみにしてしまっているとわかったら、「ああ、やらかしてしまった」ということで訂正なり発言の削除なりの対応をしていくようにしたい。

というわけで、今回の本題だが、米国の「ニューヨークなんとか」というメディアについて。

普段英語圏の報道に接する機会がない人でも、「ニューヨークなんとか」という新聞の存在は知っているだろう。その新聞で書いているコラムニストの本が評判になったり、その新聞で日本のことが話題になったりもしているから、ある種「権威」的なものと認識しているかもしれない。「あのニューヨークなんとかがそう言っている」、みたいな。ではその「ニューヨークなんとか」は正確には何か、と言われて、もごもごとしてしまうこともあるだろう。それ自体は別に恥ずかしいことではない。自分に関係のない世界の新聞のことなど、知らなくて当然だ。ただ「あのニューヨークなんとか」と「このニューヨークなんとか」を間違えて認識してしまっていたら、変な言い訳をこねくり回す前に、さくっと修正できるようにはしておきたい。

「ニューヨークなんとか」というタイトルには、次の新聞がある。

1. The New York Times (NYT) ニューヨーク・タイムズ

2. New York Post ニューヨーク・ポスト

3. New York Daily News ニューヨーク・デイリーニューズ

日本でも有名で、「信頼されているメディア」と位置付けられている一般紙(ブロードシート)は、最初の『ニューヨーク・タイムズ』だけ。あとの2紙はタブロイド新聞である。

以下、それぞれについてさっくりと見てみよう。

 

1. The New York Times 

Websitehttp://nytimes.com/

Wikipediahttps://en.wikipedia.org/wiki/The_New_York_Times

Twitter: @nytimes

f:id:nofrills:20201016165059p:plain

https://twitter.com/nytimes

1851年に創刊。全米屈指の名門新聞という位置づけで、非常に信頼性の高い新聞だが、無謬というわけではない。はっきりした事例としては、例えば2003年のジェイソン・ブレアによる捏造を参照されたい。また、ポッドキャスト "Caliphate" での不正や粗雑な仕事については、現在進行形で指摘されている。私個人は、アメリカの新聞報道はあまり見ないし、見るとしても国際政治に関する報道が主なのだが、イラク戦争以降の用語法をめぐる問題*5などもあり、この媒体のことは印象操作に長けた新聞と見ていて、「信頼できる情報源」の中ではかなり下のほうと認識している。それでも、タブロイド新聞一般よりはずっと上だが。

 

 

2. New York Post 

Websitehttp://nypost.com/

Wikipediahttps://en.wikipedia.org/wiki/New_York_Post

Twitter: @nypost

f:id:nofrills:20201016171019p:plain

https://twitter.com/nypost

創刊は古く1801年で、おそらく現存する米国のメディアでは最古の新聞のひとつだと思うが、創刊からずっと同じようなステータスを保っているわけではない。英語版ウィキペディアを見るとわかるが(人名ばかり並んでいて詳細すぎてわかりづらいかもしれないが)、19世紀のこの媒体と、20世紀に入ってから1976年までのこの媒体と、1976年以降のこの媒体とは、全然別物である(こういうことは英語圏のメディアではよくある)。現在のこの媒体を見る場合は、「全米最古」云々ではなく、1976年以降どういう媒体になったかを見なければならない。

1976年にルパート・マードックニューズ・コーポレーションが買収して以降のニューヨーク・ポストは、事実を報じることよりセンセーショナリズムとゴシップ拡散に重きを置いたタブロイド新聞で、保守的な印象操作を積極的に行ってきた。英国で言えばThe Sunみたいなものである。

今回、このタブロイド紙が情報源が不確かな記事を掲載し、それをシェアすることを、FacebookTwitterが制限したことが「情報統制だ」「隠蔽だ」と大騒ぎになっていて、Twitterなどはすごいカオスになっているのだが(そしてそのために日本語圏でまで「ニューヨーク・ポスト」が話題になっている)、大前提として、この「ニューヨーク・ポスト」という媒体がどういう媒体なのか、そしてそんな媒体が「スクープ」をつかんでいるということは、昨今のdisinfoの状況を踏まえてどういうことなのか、少し頭の中で整理してみるとよいのではないかと思う。 

※日本語圏Twitterでは、ニューヨーク・ポストのハンター・バイデン氏についてのこの記事に関して「情報源が不確かである」ということを言わずに、「ツイートできない」ということだけでわーわーと騒いでいる人が大変に目立っているが(「ツイートできない」ということだけなら、英語が読めなくても騒げるから、騒ぐ人の数が多いのだろう)、「情報源が不確かである」ということの意味を問わないのは、少なくとも2016年の大統領選挙での「ヒラリーのメール」の漏洩のあとでは、あまりに怠惰で無責任であろう。

 

3. New York Daily News

Websitehttp://nydailynews.com/

Wikipediahttps://en.wikipedia.org/wiki/New_York_Daily_News

Twitter: @NYDailyNews

f:id:nofrills:20201016174138p:plain

https://twitter.com/NYDailyNews

創刊は1919年。英国のデイリー・ミラーを模倣してつくられたと英語版ウィキペディアにあるが、実際によく似ていると思う。個人的には、ニューヨークの地域ニュース(災害や事故など)は、この媒体のTwitterアカウントをチェックするのが早いと思っている。ニューヨークのメディアって文が長いのが多いんだけど(NYTもWSJも、New York誌もNew Yorker誌も)、ここはタブロイドだから長々と読まされないのも利点のひとつ。

ニューヨーク・デイリー・ニューズは、元々、ニューヨーク・ポストとは対立関係にあるので、今回のハンター・バイデンに関する記事に関しても、まあかなりの勢いでスレッドをツイートしている。下記が現時点でのスレッド最新投稿。

 

というわけで、3つの「ニューヨークなんとか」をしっかり区別するよう心掛けていただければと思う。信頼できるのは「タイムズ」で、ほかはタブロイドだ。

 

ちなみに、これに加えて、米国には首都ワシントンDCに拠点のある複数の「ワシントンなんとか」というメディアもあり、若干ややこしいことに、ワシントンの場合は、信頼できるのは「ポスト」であって「タイムズ」ではない(「ワシントン・タイムズ」は、1980年代に反共産主義を掲げる統一教会が設立した新聞)。

ワシントン・ポストウォーターゲート事件ペンタゴン・ペーパーズのあの新聞である。 

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ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 (字幕版)

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  • メディア: Prime Video
 

 

※今回は6200字を超えている。

 

参考書:  

 

【追記】

この件、下記の続報も重要。

 

 

News Corpは、そりゃ跡取り息子も逃げ出すよね、って感じ。生活に心配はないレベルの金持ちだから逃げ出せるのだろうけれども。

 

*1:https://en.wikipedia.org/wiki/Newspaper#Format による

*2:ただし、一般紙でも捏造報道が問題になることはあるので、「タブロイドは捏造するが、一般紙なら捏造はない」という単純な見方に陥らないようにしなければならない。例えば、今リアルタイムで問題になっているのはニューヨーク・タイムズで、ある記者が事実をろくに確認せずにセンセーショナルな報道を行っていたという事案である。

*3:470 mm x 315 mm

*4:https://en.wikipedia.org/wiki/Broadsheet#Switch_to_smaller_sizes を参照。ただし新聞を読むという行為には「あの大きな紙をがさがさわさわさする」という体験も組み込まれているわけで、ブロードシートから小さな版型への切り替えは成功した例ばかりではなく、結局元のブロードシートに戻すという判断をした新聞もある。

*5:米国が捕虜に対して拷問を行っていたときに「拷問 torture」という語を何としても使おうとしなかったことなど。

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