Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

ロシアで報道の自由がつぶされたことについて、当事者であるロシアのジャーナリストが語っている(too ~ to ... 構文, など)

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今回の実例は、国際的に大きな注目を集め、大きな非難の声を引き起こした出来事の当事者の一人が、英語メディアに寄稿した文から。

今月ロシアで、「報道の自由」が叩き潰された。声を封じられた報道機関のひとつがDozhd (TV Rain) で、そのテレビ局でニュースキャスターをつとめていたジャーナリストがDenis Kataevさんだ。その彼が9日(水)付でガーディアンに寄稿している。

www.theguardian.com

放送の(当面の)最後の日、TV Rainは、キャスターやスタッフなど局の人々がスタジオから立ち去っていく様子を生で放映した。そのあとには、バレエ『白鳥の湖』の映像が流された――1991年8月のクーデターの際、状況を報道することを禁止されていたテレビ局がその代わりに流していたのが、このロシアのバレエの名作の映像だったという。

deadline.com

それから1週間と少しが経過した時点で、このときにキャスターをつとめていたカタエフさんが、ガーディアンに寄稿した、という次第である。英語は、するすると読むには少し難しいかもしれないが(普段からガーディアン読んでる人には問題ないと思う)、決して難しすぎることはないので、ぜひ、全文を読んでいただきたい。

英文法の実例としてみるのは、TV Rainを含めたロシアの報道に何が起きているのかを、6つのパラグラフを費やして丁寧にわかりやすく説明したあとのパラグラフから: 

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https://www.theguardian.com/commentisfree/2022/mar/09/russian-news-anchor-free-press-ended-dozhd-ukraine

キャプチャ画像の2つ目のパラグラフ: 

This raised the stakes too high; it effectively made true journalism too risky to pursue in Russia.

赤の太字で示した《セミコロン》は、ここでは「つまり」のような意味を含んでいて、セミコロンの前が概略を述べた文、そのあとが具体的に説明した文、という構造になっている。

【書きかけ。このあとすぐに書き続けます】

"raise the stakes" は成句的な表現で、辞書を引けば意味は調べられる。

セミコロンのあとは《make + O + C》の構造で、Cの部分がtoo+形容詞になっていて(太字)、さらにここが《too ~ to do ...》になっている(下線)。文字通りに日本語にすれば、「それは、事実上、本当のジャーナリズムを、ロシアにおいて追求するにはあまりにも危険にしてしまった」。

この文の主語の "it" は、前文(セミコロンの前の文)の主語である "This" を受けた代名詞で、その "This" はその前の文、つまりキャプチャ画像内の最初のパラグラフの内容をさしている、と読むのが標準的な読みであろう。すなわち、検察庁が、ウクライナ住民への支援は金銭的なものであれ戦略的なものであれ、国家反逆罪と位置づけた、ということだ。最高刑は禁固20年。

これの恐ろしいところは、日本の「特定機密なんちゃら」と似ていて、何がそのように判断されるのかがわからない、ということである。

通常、犯罪に関する法律の文言というものは明確なものである。例えば交通違反は明確な基準が言葉で示されているし、殺人罪ならば「殺意をもって」とか「周到な準備をして」といった要素が具体的に立証しうるかどうかがカギとされている。しかしロシアの今回のこれは、例えば金銭的援助はダイレクトに「違法」であることは当然なのだが、それ以外の交流で、何がどう「ウクライナ住民への違法な支援」とみなされるかがわからない、というところに問題がある*1。「問題」というより「恐怖」だ。

それによって、ロシア政府は報道機関を口をふさいでしまった。

同じようなことが香港で起きたばかりである。

21世紀の最初の4分の1は、なんという時代になってしまったことか。

 

次の文: 

Last Thursday we were forced to close down, hours before the law came into effect, in order to protect our team from inevitable persecution.

いわゆる「学校英文法」をやった人なら何の苦もなく読めるだろう。太字部分は《force ~ to do ...》の《受動態》で「…することを余儀なくされる」、下線部は《in order to do ~》で《目的》を表す。

It’s temporary, we hope, as all of us are willing to find ways to continue working in some shape or form.

これも「学校英文法」だが、いわゆる「実用英語」でも頻繁に取り上げられる項目で、《接続詞のas》と《be willing to do ~》。意外なことに後者は当ブログでは初登場のようで(そりゃそうだな、報道の英語ではあまり使わない表現だから)、カテゴリ未登録だった。

《be willing to do ~》は、私が受験生だった時代は「~したがる」という前向きな雰囲気の対訳をつけられて単語集などに載っていたものだが、実際にはそういう前向きな感じではなく、「~するのが嫌ではない」「~する意思はある(意思がないわけではない)」程度の表現だ、ということで、どんどん見直しが進められた表現のひとつであるが、ここではわりと前向きな感じというか、逆境の中でもへこたれないという文脈であるように読めるのだが、どうだろう。翻訳せよと言われたら「~したい」くらいのトーンで訳すと思うが。

文末の "in some shape or form" は英語らしい表現で、shape, formという類義語を重ねて使うことで言ってることの輪郭を際立たせるような効果のある成句である。日本語ではこういうふうに類義語を2つ重ねる例は漢字2字の熟語に見られる(小学校の国語などでは「似た意味を持つ漢字の組み合わせ」と習うはずだ。「樹木」とか「豊富」とか「道路」とか「製造」とか「身体」とか)。意味は「何らかの形で」。

次の文: 

“It’s not the end of the show, only of a season – to be continued,” were the parting words of Natalya Sindeyeva, our co-founder and CEO.

かっこいいね。「『番組自体が終わるわけではありません。単にシーズンがひとつ終わるだけで、このあとにまだ続きがあります』というのが、弊社共同設立者でCEOのナタリヤ・シンデイエヴァ*2の離別の言葉であった」

 

ここまでですでに3000語だが、もう少し見ておこう。今読んだのの次のパラグラフ: 

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https://www.theguardian.com/commentisfree/2022/mar/09/russian-news-anchor-free-press-ended-dozhd-ukraine

《現在完了+受動態》や《現在進行形+受動態》、《分詞構文》といった文法項目が矢継ぎ早に出てくるからそれを解説したってよいのだが、どうもこの文を見るときにそれをやるのは自分でも違和感がある。英文を見ればまずは「サンプル」扱いするのが常態化している私がそう感じるのは、そう頻繁にあることではない。

このパラグラフの最後の3文: 

Like a dark and absurd Coen brothers creation, this will not be a country for journalists old or young. Modern Russia as we know it is coming to an end. It’s not only Ukraine that Putin is bombarding right now, but Russia too – its culture, its heritage, its civilisation.

"Coen brothers" は映画監督のコーエン兄弟。世界的に非常によく参照される映画作家だから、彼らの作品を見たことがない人は見ておくとよい。

多分ここでカエタフさんが "this will not be a country for journalists old or young" と述べて言及しているのは、"No Country for Old Men" だ。映画の邦題は投げやりな『ノーカントリー』だが、この映画が基づいているのはコーマック・マッカーシーの同名の小説(邦題は『血と暴力の国』)で、この表題の元はW. B. イエイツの詩である。

次の文: 

Modern Russia as we know it is coming to an end.

「私たちが知っているような現代のロシアは、終わりを迎えている」。ここで用いられている《as》は接続詞で、『ジーニアス英和辞典』第5版には "the universe as we know it" という用例が紹介されているが、この表現を目にすればまっさきに思い浮かぶのは下記の曲である。


www.youtube.com

 

そしてキャプチャ画像の最後の文: 

It’s not only Ukraine that Putin is bombarding right now, but Russia too – its culture, its heritage, its civilisation.

《It is ~ that ...》の強調構文(分裂文)と、《not only A but (also) B》の合わせ技に、最後に《ダッシュ》を用いた補足が加わっている。

プーチンが今まさに爆弾を落としているのはウクライナだけではない。ロシアもまた破壊されつつあるのだ――その文化、その遺産、その文明が」。

 

カエタフさんは、局が閉鎖された数日後に、最後のEU圏行きのアエロフロート国際便でEU圏に脱出したそうだ。

ほかにも大勢の知識人やアーティストが国外に脱出しているという。かつてロシアをUSSRにした革命の後と同じように。亡命者・難民はウクライナからのみ発生しているわけではない。

 

一体何ということが起きてしまっているのか。

 

Living through all this, the theory I hold to is that Russia is not fighting Ukraine, but rather Putin himself is. It is his revenge for the democratic transition it embarked upon, and its turn towards Europe.

As a Russian news anchor, I was there when the free press ended in my country | Denis Kataev | The Guardian

 

 

 

*1:ロシアとウクライナは、単なる国交断絶では断てないような深い関係があり、「ロシア人だが親はウクライナ出身で、祖父母はウクライナに住んでいる」といった例は珍しくもなんともない。

*2:このカタカナはアルファベットそのままでそれ以上の検証はしていないことをお断りしておく。

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