Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】同格のthatなど(ティモシー・スナイダー教授の連ツイ論考、「大きな嘘について」)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【おことわり】当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。

このエントリは、2021年1月にアップしたものの再掲である。1月6日の翌日のエントリである。動揺したままである。

-----------------

今回は、体力がないので淡々と。投稿が30分遅れてすみません。

『暴政』や『ブラックアース』、『ブラッドランド』のティモシー・スナイダー教授が、米ワシントンDCの国会議事堂での暴力事態とそれをめぐるいろんなことについて、Twitterのスレッドを何本か書いている。今日はそれらのスレッドのひとつを読んでみよう。

 

 一読して文構造が取れただろうか。スラッシュやカッコを入れるとつぎのようになる。

The claim [ that Trump won the election ] / is a big lie.

文の骨格は "The claim is a big lie" で、そのclaimに《同格》の接続詞thatの節がつながっているので主語が長い文になっている。「トランプが選挙に勝ったという主張は、大きな嘘である」。

この「大きな嘘」(big lie) は、スナイダー教授の連ツイで繰り返し出てくるのだが、ただ文字通りに解釈するのではなく、専門用語として解釈しなければならない。この用語は、大学で社会科学系・人文科学系の素養がある人ならおそらく確実に知っているだろうし(ただし日本においては、日本だけに閉じている学問分野ではどうなのか、私はわからない)、大学とは関係なく生活している人でも映画や文学、漫画といったカルチャー/サブカルチャーを通じて知っている人も少なくないと思う。と、説明書きを軽く示そうとして日本語のウィキペディアで探したが、項目すら立っていなかった。日本語で入手できる情報の少なさと薄さに改めて危機感を覚えつつ、そんなことにいちいちかかずらってはいられないのでさくっと英語版を参照しておこう(こうだから、英語は使えないとならないのだ。私も、ネット上の情報を豊かにしようとずいぶんがんばったつもりだったけど、もうあきらめた)。

en.wikipedia.org

A big lie (German: große Lüge) is a propaganda technique used for political purpose. The expression was coined by Adolf Hitler, when he dictated his 1925 book Mein Kampf, about the use of a lie so "colossal" that no one would believe that someone "could have the impudence to distort the truth so infamously". ...

 以下、僭越ながら、ちょっと「翻訳」っぽくやるね。

 「大きな嘘は現実を変容させる。それを本当だと信じるためには、人は自分自身の感覚を信じないようにする必要がある。仲間の市民を疑い、信仰の世界に生きる必要がある」

これは文法的に解説できるポイントは特にない。あえて言えば《to不定詞の副詞的用法》くらいだ。

 「大きな嘘は、陰謀論思考を必要とする。というのは、その大きな嘘を疑う者たちは全員、裏切り者とみなされるからである」

接続詞のsinceがポイント。この断章形式ではちょっと理路がわかりづらいけど。ここで理路がわからないからといって、A since Bの論理形式(「BだからA」)を破壊して「AだからB」という自称・訳文を組み立ててしまってはならない。

 「大きな嘘は、社会のつながりをぼろぼろにする。というのは、それは市民たちを、信じる者たちと信じない者たちに分断するからである」

undoという動詞の語義については、辞書(なるべく英英辞典)の例文を参照してほしい。

 「大きな嘘は、民主主義を破壊する。というのは、自分たちのリーダーの口から出てくることを除いては、何一つとして真実などというものはないと確信している人々は、選挙での投票も、その結果も、無視するからである」

ちょっと長い文だが、文法的には特にポイントはない。高校2年の学習事項が頭に入っていれば、するすると読めるだろう。あえていえば注意点は "but" か。

 これはちょっと翻訳しづらい。助動詞のmustで、筆者の頭の中に飛び込んで(あるいは飛び込もうとして)1日考えるところだ。仮訳としては「大きな嘘は、暴力をもたらすと決まっている。実際にそうなっているように」(考えたあげく、このシンプルな仮訳に戻ってくる可能性が高いが)。

「大きな嘘は、ただ一人の人物によって完全に語られるということはありえない。トランプはこの『大きな嘘』 の創始者ではあるが、キャピトル・ヒル(米国の政治の中枢)にいる同盟者なくしては、その大きな嘘が花開くことはなかっただろう」

"it could never have flourished without ~" は、《if節のない仮定法》で《仮定法過去完了》。without の句がif節の意味を担っている(「~がなかったならば」)。

 「今や、政治の未来は、この大きな嘘の上に立脚している。Hawley上院議員とクルーズ上院議員は、この大きな嘘を基盤として、大統領選に打って出る(ことになる)」。これも訳文のクオリティ的には仮訳だけど堪忍してください。

私はアメリカ政治には詳しくないのでSenator Hawleyっていう人の名前の読み方もフルネームも知らない。Senator Cruzはテッド・クルーズであることくらいは知っている。

このように同じ肩書(英語では "title" という)の人を2人並べる場合には、Senetor Hawley and Senetor Cruzと書かず、Senetorsと肩書のところを複数にして、あとは名前(姓)を並べるという形式が一般的である。"Doctor Whitty and Doctor Fauci" ではなく "Doctors Whitty and Fauci" と書く、ということである。

「大きな嘘には治療法がひとつある。私たちの投票で選ばれた代表者たち(議員たち)が、 2020年の選挙の結果について、嘘偽りなく、本当のことを話すということである」

訳文としての形を整えたので(整えないと日本語として読めないものになるので、というか日本語ではこうとしか書けないので)英語の細部が訳文では見えなくなっているが、読むときは "should" などの細部にも注意が必要だ。

 「シンプルな真実を語らない政治家たちは、(すでにここにある)大きな嘘をまだこの先も続け、(実際にはありもしない)もう一つの現実をさらに深く推し進め、陰謀論を支持し、民主主義を弱体化させ、そして2021年1月6日のそれよりもずっとひどい暴力を涵養する」

一文が長いが、等位接続詞のandでの接続が長くなっているだけで、構造としてはシンプルな文である。

文法的には、最後のセクションで代名詞のthatが出てくることに注目。"foment violence far worse than that of January 6, 2021" のthatはviolenceという語の繰り返しをする代わりに用いられている代名詞だ。いわゆる「受験英語」では定番の文法項目であるが、これは自分で英文を書くときに自由自在に使えるようにしておかなきゃならない。読んでわかるだけでは不十分である。

 

以上、スナイダー教授の連ツイは、下記で1ページの形で読みやすく表示させることができるので、今日のブログをここまで読み終わった人は、その頭が冷えないうちに、英語だけでざーっと読んでみてほしい。たぶんそれだけで読む力がつく。そういうクオリティの英文である。

threadreaderapp.com

 

f:id:nofrills:20210113052010p:plain

https://twitter.com/TimothyDSnyder/status/1347212082035519489

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

 

 

 

 

 

 

当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。