このエントリは、2021年1月にアップしたものの再掲である。なお、この式典の白眉であったアマンダ・ゴーマンによる詩 "The Hill We Climb" は、先ごろ、鴻巣友季子さんによる翻訳で日本語で出版された。訳者解説と、作家の柴崎友香さんとの対談を含めてもページ数は2桁に納まる小さな本だが、内容はとても濃く、重い。このふわりと軽い文庫本そのものが、一片/一篇の「詩」である。
ただし、ジョー・バイデンという政治家がこの詩に値するような政治家であるかどうかは、まったく別の話である。
再掲に当たっての前置きはここまで。以下、本編。
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米国のジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領の就任式典は、日本時間で今日21日の午前1時台から2時台にかけて、リアルタイムで見ていて、見ている最中はもろもろ「おお、これは」と思うような英文法の実例に気づいたのだが、自分の許容量を超えた「アメリカ」がどかどかと流れ込んでくるのに身を任せているうちに、「まあいいか」みたいになってしまった。就任式典での重要なスピーチは私じゃなくほかの人たちが英語の実例として解説記事を書くだろうし、実際にもう書かれているし、あえてやらなくていいかな、と。
「米大統領がセンテンスでしゃべってる」という感慨。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年1月20日
就任演説、Quoteしやすいフレーズがいっぱいある!ちゃんと考えてあるセンテンス!リズムもある!
— Yumiko ”miko” F (@nest1989) 2021年1月20日
文明が戻ってきた。
(同通の皆さん、おめでとうございます。悪夢の4年間は終わりました。理屈の通った、始まりと終わりのある文章を訳す日々の始まりです)
— Yumiko ”miko” F (@nest1989) 2021年1月20日
分かるわあ… トランプの発言は、記事を読む→元ツイを確認しにいく→主張の意図を類推する→意味の通る日本語にすると元ツイから乖離するので悩む、て感じだったもん。
— ふ。 (@fu_sakura) 2021年1月21日
https://t.co/P6EGmeQYlX ジョー・バイデン就任演説スクリプトと、重要な点の解説。NPR
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年1月20日
金成記者@kanariryuichiによる、バイデン演説のポイントを読み解いた記事です。
— Gakushi Fujiwara / 藤原学思 (@fujiwara_g1) 2021年1月21日
バイデンはかねて、米国を一言で表すなら"possibilities"と言っています。「可能性」「チャンス」。この国にはぜひ、そうあってほしいと思います。https://t.co/UExZG8s2HA
それより、私は、なんだかんだで「アメリカ」の摂取量が限度を超えて頭がおかしくなってしまった。レディガガが国歌を見事に独唱し、ジェニファー・ロペスが熱唱の合間にスペイン語で「自由と正義をすべての人に」と叫び、ガース・ブルックスがAmazing Graceを美しく歌い上げ……といったきらびやかな式典に横溢していたのは、過剰なまでの「アメリカ」の強調で、大統領の就任式典なのだからそれは当然なのだが、「あんなこと」があったあとだからより一層、美しく完璧なものとしてイメージされ提示される「アメリカ」に、ほっとする人、安心する人、喜びを覚える人がものすごく大勢いることを知りながら、また自分もその感情を少しは共有しながら、甘いものを食べすぎたときのような胸やけを覚えてしまっている。「想像されるアメリカ、想像として共有されるアメリカ」は、ひたすらにかっこいいものだ。 レディガガのドレスの胸元には、オリーヴの枝を加えた鳩の飾りがついていた。彼女たち「リベラル」を、悪魔の手先のように扱った連中に対し、和解を呼びかけるシンボル。それは、直接相手に呼びかけるものであると同時に、「私たちはこのような姿勢を示すことができる」と外部に見せつけるためでもあり、「このような姿勢を示さねばならない」と自分たちに言い聞かせるためでもある。「私たちにはこれができる」と言葉にすることで、「できない」ということを否定するというあり方。
A dove carrying an olive branch. May we all make peace with each other. pic.twitter.com/NGbgKM9XiC
— Lady Gaga (@ladygaga) 2021年1月20日
その「彼らの疑いのなさ」が、スニッカーズの中に入ってるのみたいにねっとり、べったりと、のどの奥につかえているような感覚をおぼえ、日本時間で夜中の式典と、お昼ごろの音楽イベントの中継を見たあと、それが自分の中に消化されない何かとして蓄積されている。それを消化して心の養分とすることができる人が大勢いることは知っている。しかし私はこれ、食っても消化できないのだ。彼ら・彼女らとて本当に「疑いのなさ」を自身の状態としているわけではないのかもしれない。それを自分に言い聞かせるようにしているのかもしれない。しかし……
……というのが現況なのだが、そんな中にも一服の清涼剤が流れ込んでくるのがTwitterだ。そして私にとっての清涼剤とは……
参考書の例文か#英語 #実例 https://t.co/tyYUewK0xm
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年1月21日
このティファニーさんの文を、キャプション/見出しの文体(be動詞や冠詞が省略される)から普通の文体にして固有名詞を代名詞にすると "He is sitting on a chair with his arms folded" となり、高校生向けの英語文法書・参考書によくある《付帯状況のwith》の項にある例文そのまんまである。
ここで folded と過去分詞が使われ、foldingという現在分詞を使った分詞構文の形, "He is sitting on a chair, folding his arms." にしないのはなぜかという疑問がよくあるのだが、folding... だと「腕を組むという動作をしながら」という意味になってしまい、「腕をがっちりと組んだままでじっと座っている」という状況を言い表すことはできない。
また、同様に付帯状況のwithを使っても過去分詞ではなく現在分詞で "with his arms folding" だと、foldが自動詞になっちゃうから、腕がぱたんぱたんと折れ曲がるんでもない限りはちょっと変である。
……と、ベタな英文法解説を引き起こしたのは、就任式典でネット上で一番の話題となったバーニー・サンダーズ上院議員の写真である。
https://t.co/CliMF2Ua9Z 話題のファッションリーダーがTrendsに入ってるw
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年1月20日
I see everyone mocking Bernie's "grandpa at the post office" vibe today but those mittens are clutch pic.twitter.com/cVwINTnqR6
— Grace Segers (@Grace_Segers) 2021年1月20日
「郵便局に来たおじいちゃん」かというようなバーニー・サンダース氏の服装だが、地元バーモント州の企業のがっつり防寒できる雪山用のジャケットと、地元の学校教諭からプレゼントされた衣料再生品のミトンの手袋だそうで、いろいろともうかっこいい。これも「アメリカ」なんだよなあ。
就任式典での普段着のバーニーが、Sad Keanuなみの素材に…… https://t.co/kwOnKsStof
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年1月21日
そして私はまさにこの状態である。
— ceo of 2021 (@QuarantineBored) 2021年1月20日
サムネ用:
【追記】
詰め込んでみたっていうことか。 https://t.co/mgskA7cAih
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年2月5日
詰め込み足りなかったみたいです。https://t.co/G3uqneuM7i
— わきまえない 優 n o D 🏴 💙 (@yunod) 2021年2月5日
参考書: