Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】《it was ~ that ...》の形の文の構造を見極める, 関係代名詞(インドの感染爆発)

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このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、ある状況をかなり長期にわたって分析し、解説する記事から。

インドでの新型コロナウイルス感染の拡大とその深刻な状況については、日本でもいくらかは伝えられている。日本、特に大阪も実にひどい状況になっているが、インドの場合、病院に搬送されても吸入に使う酸素がなく、その他の医療物資も不足していて、まともな医療が受けられないということが、感染の新たな「波」の中で生じている。私の見ている範囲での英語圏では、4月後半はインドの感染拡大状況といわゆる「医療崩壊」がトップニュースになっていて、昨日から今日にかけてはアイルランドや英国、米国の政府が、インドで足りていない物資(病院で使う酸素など)の支援を実施することが決定したとか、支援物資が送られたとか、現地に到着したとかいったことがニュースになっている。

しかしそのインド、欧州各国や米国が感染拡大でひどいことになっていたときには、欧米がいわば「上から目線」で「あんな国でわが国のようなひどい状況が生じたら、すさまじくひどいことになる」と心配してみせていた国々のひとつなのだが、実際には、そのときには恐れられていたほどにはひどいことにはならなかった。その理由もいろいろ取りざたされていた。食事を手で食べる習慣があるから、手の清潔への気の配り方が普段から違うのだとか、常食されるスパイスがよいのだとか、まあ、いろいろあった。同じころ、日本についても、さほど感染が拡大していないことについて、ビタミンDがどうたらとか、幼少期に受けるBCG予防接種がどうたらとかいう理由らしきものがいろいろ取りざたされていたが、インドについていろいろ言われていたのもそれと同じようなことだろう。誰も確証を持っていないが、何となく自分の知ってる範囲、わかる範囲のことで何かを考えたくて、いろんな人がいろんなことを言っていて、中には説得力のあることもあった。でも、科学的には特に根拠はなかった。

科学的に根拠があるかどうかなど、実のところ、さほど重要ではない場合も世の中にはいろいろあって、宗教的信念がハバをきかせているところでは特にその頻度・度合が高まる。そしてインドは、2014年の総選挙で、いろいろとぐだぐだだった国民会議派が大量に議席を失い、ヒンズー・ナショナリズムのBJPが大量に議席を獲得して政権について以来、ヒンズー教徒の宗教熱が高まっているし、宗教熱があおられてもいるという。ほかの宗教、例えばイスラム教に対する公然たる敵視は、BJP支持者の心をしっかりつかんでおくためだろうが、きわめて暴力的な状況を生じさせており、新型コロナウイルス前の世界では、インドが国際ニュースになるときはその宗教を背景とした暴力についてのニュースが多かった。

それが、コロナ禍では忘れられたようになっていて、「なぜインドは感染封じ込めに成功したのか」という話題が時々出るようになり、またさらにはボリウッドの有名映画俳優が感染して入院したといったニュースが時折伝えられ、そして今は俗に「インド変異株」と呼ばれる変異株と、「第二波」と位置付けられる感染爆発のニュースが、あまりに多くの火葬の炎の写真とともに、連日伝えられるようになっている。

そういった状況を振り返りつつ分析しているのが、今回見るガーディアンの記事である。記事はこちら: 

www.theguardian.com

「『われわれは特別ではない』。勝利を謳歌しまくったことが、いかにしてインドを悲惨な状況に追いやったか」という意味のタイトルのこの記事、読んでいてどうしたって「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、東京五輪を」云々という日本政府のプロパガンダがかぶって見えてくる。分量もあるし、読むのが楽な記事ではないが、ぜひお読みいただきたいと思う。このウイルスは、「勝利した」と思い込んでしまうこと自体が罠なのだ。感染抑制に成功している国・地域(ニュージーランド、台湾など)は「勝利した」と考えているのではなく「うまくコントロールできている状態を、状況を見てやることを変えつつ、キープしなければ」と考えている。

実例として見るのは記事の最初の方。

f:id:nofrills:20210430183649j:plain

https://www.theguardian.com/world/2021/apr/29/we-are-not-special-how-triumphalism-led-india-to-covid-19-disaster

 

キャプチャ画像の第4文。これはもう本当にいかにも下線部和訳で問われそうな文だ:

It was a tantalising idea that took hold in India’s highest circles of policymaking, media and science – even a government-commissioned study suggested herd immunity may indeed have been achieved.

太字にした部分は《it was ~ that ...》の形になっているが、はてさて、これはどういう構文だろうか。形式主語だろうか、強調構文だろうか、それとも……?

後半、《ダッシュ》以下は補足・付け足しで、文構造を見るうえでは関係ないのでとりあえず外しておくために、上記では薄いグレーにしてある。

さて、本題に戻って《it was ~ that ...》の形だが、これが読めただろうか。

何とも説明するのが難しいのだが、これ、実は形式主語でも強調構文でもない。こんなの、大学受験のときに遭遇していたら泣いていただろう。

主語の "It" は、この前の文、"Some speculated India may have naturally reached herd immunity." の内容をさしている。つまり「インドは自然に、集団免疫に到達したのだという考え」だ。

そして、「それはtantalisingなideaであった」。"tantalising" はイギリス式の綴りで、アメリカ式で書くとtantalizingとなる。日本語にしにくい単語なのだが、ここでは「ですよねー、と言いたくなるような」というゆるい語義を与えておこう。「インドは集団免疫に達したのだという考えは、人々がそうですよねーと言いたくなるような考えだった」。

それから、次の "that" だが、これは接続詞ではなくて《関係代名詞》で主格である。先行詞は "a tantalising idea"。つまりこの部分は、「インドの政策決定、メディア、科学の最高位の一群においてtake holdしたtantalisingなidea」という意味になる。

こうやって構造をとらえてしまったら、あとは個々の訳語を確定していくだけである。

 

ガーディアンのこの記事は、日本語圏Twitterでけっこう多くの人が「必読」的に回覧しているが、書いてあることを書いてある通りに正確に読むのがけっこう難しい文である。読んでいただきたいのは私も同じだが、読むならば慎重にお読みいただきたいと思う。なお、機械翻訳は、DeepLであれGoogleであれ、私はこのタイプの文については一切推奨しない。学術論文ならよいかもしれないが、報道記事のこのスタイルは、機械翻訳には扱えない。

 

次回もこの記事の続きを少し見ていこうと思う。

なお、今週はいろいろ立て込んでいたところに、ブラウザがまともに動作しなくなって(アンチウイルスソフトChromeのアップデートを妨げていたことが一因と判明……もうね、これだから)新規の投稿ができず、過去記事の再掲を繰り返してしまったが、明日土曜日以降は週末&休日なので通常ならば過去記事再掲とするところを新規の記事の投稿とする場合もあるということをお断りしておきたい。いろいろ不規則ですみません。

 

※末尾の連絡事項を除いて、本文は3200字

 

 

英文法解説

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北村先生の『英文解体新書2』 は発売日に入手したんだけど、まだページを開くことすらできていない。

 

 

 

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