Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

ダッシュによる補足説明, 引用符の用法, 同格のthat, 分詞の後置修飾 , など(新型コロナウイルス感染状況がひどくても、人々からは許容されている英国)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

今回は、前回の続きで、英国での新型コロナウイルスの状況を分析・考察した記事を読んでいこう。

英国では、新型コロナウイルス感染に収束の兆しが見えず、新規感染者ばかりか死者も増加のペースが落ちていないにもかかわらず、それをどうにかすべきというムードにはなっていない、ということについて、記者が何人かの専門家に話を聞いて書いた記事である。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

この記事では、6人の専門家に話を聞いている。箇条書きにしておくと: 

  • Linda Bauld, professor of public health at the University of Edinburgh
  • Prof Robert West, a behavioural scientist at University College London
  • Prof Tim Cook, a consultant in anaesthesia and intensive care medicine
  • Andrew Goddard, president of the Royal College of Physicians
  • Prof Stephen Reicher, a psychologist at the University of St Andrews
  • Kit Yates, a senior lecturer in mathematics at the University of Bath

医師に加え、公衆衛生、行動科学、心理学、数学とさまざまな分野の研究者である。実に層が厚いのだが、あまり雑に読み飛ばすと、誰がどういう背景から何を言っているのかがわからなくなってしまうので、その点、少々慎重さを心がけて読んだほうがよいだろう。

なお、Tim Cook教授の肩書にある "consultant" は、日本語でいうカタカナ語の「コンサルタント」ではない。この文脈でのconsultantは、イギリス英語では「病院の医局長」のことで、クック教授は麻酔科および集中治療医学の専門医として責任ある立場で仕事をしている専門家である。

というところで本題。

今回は、前回見た部分の少し下のところから。話をしているのは、Linda Bauld, professor of public health at the University of Edinburghである。

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https://www.theguardian.com/world/2021/oct/15/why-britons-are-tolerating-sky-high-covid-rates-and-why-this-may-not-last

キャプチャ画像内の最初のパラグラフ、第1文: 

Bauld believes current attitudes have been shaped by the “Freedom Day narrative” – the social contract made between the government and the public that if people came forward for vaccines, life would return to normal.

やや長い文だが、《ダッシュ(―)》があるからそこでばっさりと区切ればよい。

まず、ダッシュの前の部分: 

Bauld believes current attitudes have been shaped by the “Freedom Day narrative”

《現在完了》と《受動態》の合わせ技があるが、特に難しくはない。「ボールド氏は、現在の態度は『フリーダム・デイのナラティヴ』によって形作られていると考えている」。

ここで “Freedom Day narrative" が《引用符》でくくられていることに注目しよう。この引用符の用法は、誰かの発言をそのまま引いているという用法ではなく、「いわゆる~」「いわば~」といったニュアンスを込めて、特殊な用語・特殊な概念を表す語句を示すという用法である。

また、引用符内の "Freedom Day" が大文字を使って固有名詞として記されていることにも注意が必要だ。

日本には紹介されていないかもしれないが、このFreedom Dayは、イングランドで今年7月、新型コロナウイルス感染拡大のために1年以上にわたって課されてきた行動制限が撤廃された日のことを、政治家たちや一部メディアが賞賛し歓迎して呼んだ呼称である。イングランドまたは英国としての正式な名称ではなく、あくまで俗称であるが、ボリス・ジョンソン首相自身が連呼してる感じなので、「正式なもの」と思ってる人も多いかもしれない。

私の環境でウェブ検索して一番上に出てきた報道記事が、ロイターのこれである。イングランドは「自由の日」だなんだと浮かれ騒いだ次の瞬間、現実が突き付けられたのだが、ジョンソン政権は現実を無視する方向で動いた。最初のロックダウンを導入する決め手となる分析を行った科学者も「もういつまでもロックダウンしていられないでしょう」的な態度をとったし、私はリアルタイムで、「ああ、イングランドは『コロナは風邪』っていうことにするんだな」と思った。現に、この直後にサジド・ジャヴィド保健省が陽性になったのだが、無事に治って、「ほら、この通り、コロナ恐るるにたらずです」みたいなことになっていた。(自分がたまたま無事に回復したからといって、他人もそうだという話にはならないし、そもそもなぜ厳重なコロナ対策が必要なのか、つまり変異株の出現の可能性を抑えておかねばならないということが全然わかっていない。)

www.reuters.com

この日を「自由の日」と呼ぶことは、それまでの、感染症対策としての行動制限を「不自由」と位置付け、制限撤廃を「不自由からの解放」と称揚する、というナラティヴを形作る。これはプロパガンダだとノッティンガム・トレント大のコリン・アレクサンダー氏が喝破している文章もここにリンクしておこう。余力があれば読んでみてほしい。

theconversation.com

閑話休題。先ほどの文の後半部分: 

... the “Freedom Day narrative” – the social contract made between the government and the public that if people came forward for vaccines, life would return to normal.

ダッシュ》は2つ使って《挿入》をするのが一般的だが(例: To this end, the media’s regular use of the phrase reflects its compliance with – and encouragement of – the government’s pandemic communications strategy.*1 )、ここでは1つしかない。これは、《補足・言い足し》のダッシュである。この場合、先行の 'the “Freedom Day narrative”' を補足的に説明している。

太字にした "that" は《同格》の接続詞thatで、"the social contract ... that ..." というつながり(「…という社会契約」)になっている。

そして、この "the social contract" には、下線で示した "made" の導く修飾句もかかっている。このmadeは《過去分詞》だ(過去分詞の後置修飾)。つまり「政府と人々の間でなされた、もし人々がワクチンのために歩み出でるのであれば、生活は通常に戻るという社会契約」と直訳される。

わかりやすく言えば、「みなさんがワクチンを打てば、元通りの生活を取り戻せるのです」ということだ。この「元通りの生活 normal」は、イングランドの場合は何はさておき「マスクなし」ということになる。なぜマスクごときでああも大ごとになるのか、私にはわけがわからないのだが(目に見えてわかりやすいし、自分の実感としても呼吸がしやすいという直接的な経験があるからシンボル化されたのかもしれない)、「マスク」が一部界隈では「制限、不自由」のシンボルになっているのはイングランドも米国も同じである。

 

次の文: 

“A lot of people have bought into that,” she said.

《buy into ~》は成句で、「~という話に乗る、~を受け入れる、~に賛成する」の意味。目的語(「~」の部分)には何か怪しげな話とか、不確かな話、一過性のブームのようなものが来る。Wiktionaryの定義がわかりやすいと思う。

To believe; to accept a craze or fad as valid. 

buy into - Wiktionary

 

文字数がもう当ブログ規定の4000字になろうとしているのではしょっていくが、2番目のパラグラフ: 

This includes some scientists. “There’s some who are of the view that Covid is becoming endemic, it was always going to become endemic and we just need to get on with it,” said Bauld.

太字にした "are of the view that ..." のthatも、上で見たのと同じ《同格》の接続詞だ。また、この前置詞 "of" は「~を持つ」という意味を表す用法。ちょっと難しく思えるかもしれないが、英和辞典で確認してほしい。『ジーニアス英和辞典』(第5版)ならば、ofの項の (2) のb のところに出ている(p. 1463)。

"endemic" は、epidemic, pandemicとセットで覚えておくといいだろう。

新型コロナウイルスも当初はepidmicだったのだが、じきにpandemicになった。pan-は「汎」の意味で、局所的な流行のepidemicが、全世界的になったものがpandemicである。

一方、endemicは「ある土地に固有の」という意味で、一般的には「風土病」のことだ。

と、ここで私は面食らってしまった。ボールド教授の説明によると、イングランドの科学者の中には、新型コロナウイルス感染症がendemic(風土病)になると考えている人たちがいるという。そうなったらどうすることもできないので、それはそれとして受け入れてできる対策をしていくしかない、みたいなことを言っているらしい。熱帯地方のマラリアみたいなものになると言っているのだろうか。正直、意味がわからない。

イングランドはいろいろと振れ幅が大きくて、当惑させられることが多い。

 

字数超過がおびただしいのでここまで。

 

※4700字

 

 

*1:英文出典は、さっきリンクしたコリン・アレクサンダー氏の記事。https://theconversation.com/why-freedom-day-is-the-latest-example-of-covid-propaganda-164521