Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

ESAT-Jの出題ミスに関して(中学校でやる範囲しか出題されないはずの試験に、高校範囲の構文が出ている) #ESATJ

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今回も英語の実例はお休みして、11月27日に東京都で実施されたESAT-Jという名称の英語の試験について少し書いておきます。マスコミが基本的に東京都の言い分を復唱しているばかりなので、個人が書かないとならない状態です。

以下のことは、東京都教育委員会ベネッセコーポレーションに確認する必要などなく、報道機関に所属する記者さんひとりひとりが個人として手間暇をかける気さえあれば、《意見》や《感想》ではない、まったくの《事実》として検証可能なことです。

報道機関と関係のない一般市民でも、中学レベルの英語の文法項目を理解することができさえすれば、簡単に検証できます。各自治体が設置している教科書センターに行ってみてください。小学校と中学校の*1文科省検定の教科書はすべて(その自治体で使っていない出版社のものも含めて)閲覧できるようになっているはずです。お住まいや勤務先の近くだと利用しやすいかと思いますが、そうでなくても立ち寄りやすいところにあれば、見に行って利用を断られるということはないと思います。

例えば東京都千代田区の場合、千代田区立教育研究所(千代田区神田司町2-16)の中にあります。利用時間はその区立教育研究所のウェブサイトなどを検索してご確認ください(だいたい9時~17時だと思いますが)。渋谷区は中央図書館(渋谷区神宮前1-4-1)の中に入っています。

教科書センターに行く時間が取れない場合は、教科書はAmazonで買えます。このエントリの一番下にリンクをはっておきます。

さて、ESAT-Jというのは、東京都教育委員会が作っているサイトの「Q&A」のページでは言及されてもいないのですが、English Speaking Achievement Test for Junior High School Studentsの頭文字を取った略称です。Aがabilityではなくachievementであることと、JがJapanではなくjunior high schoolであることがポイントで、前者は前者で「アチーブメント(到達度)」を入試に使うのはダメなんじゃないかということでこれまでさんざん議論があったのですが(そしてマスコミはずっと無視してきた。AERAの石田記者の記事などごく少数の例外を除いて、どこもかしこもです)、今回は後者にかかわる問題を指摘します。

ESAT-Jに込められた「J」の理念については、都教委は上記のページで次のように繰り返すようにして説明しています(以下引用中下線は引用者による)

Q. ESAT-Jを受けるのは何のためですか。

A. ESAT-Jでは、中学校の授業で学んだ英語で「どれくらい話せるようになったか」を試すことができます。……

Q. どのような準備をすればよいですか。

A. 普段の授業で行っているペア・ワークやグループ活動、スピーチやプレゼンテーション、教科書の「音読」などの活動について、これまでどおり取り組んでください。……

Q. 塾や英会話教室に行っていないので心配です。

A. 英語に触れる時間を増やしましょう。授業での取組に加え、教科書の音読や学校で行った活動を思い出し、もう一度声に出してやってみるなど……

Q. 既存の資格・検定試験を受けていると有利なのでしょうか。

A. ESAT-Jは、中学校学習指導要領に基づき、東京都が定めた出題方針により、出題内容を決めています。したがって、授業で学習した範囲の中から出題します。……

【特設ページ】中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)Q&A|東京都教育委員会ホームページ

一言でまとめれば、「中学校の授業で習う範囲、つまり教科書に出ている範囲から出題する」と言っているわけです。

これを言い換えれば、「中学校の教科書に載っていない範囲のことは出題されない」となります。

現在、文部科学省の検定を受けた中学校の英語教科書は、開隆堂(Sunshine)、東京書籍(New Horizon)、三省堂(New Crown)、教育出版(One World)、光村図書出版(Here We Go!)、 啓林館(Blue Sky)の6種です(ソース。東京都で採択しているのはこれらのうちの5種ですが)。これら6種は、文科省が定めている「学習指導要領」にのっとって作成されています。

現場で使われている英語教科書には、もうひとつ、私立の中高一貫校などいわゆる「名門」で使われている『プログレス』という教科書がありますが、これは文科省の学習指導要領は関係なく、著者が英語を学ぶ人のためにと考えて作ったもので*2、公立校では使われませんから、ここでは度外視します。

都教委がESAT-Jについて説明しているのは、「上記6種の教科書で教えられないことはESAT-Jには出ない」ということです。6種もあれば習う単語などはばらつきがあって当然ですが、都教委の説明をそのまま素直に解釈すれば、6種に共通して出てくる単語だけでESAT-Jは作っているということになります。文法については単語ほどばらつきが出ることはないのですが、やはり同じく、6種の教科書のどれを使っていても必ず習っていることしか出題されません、ということが前提になります。だから、みなさん、安心して学校の授業だけしっかり受けて、しっかり復習して受検してください、というわけです。

しかし実際には、この日曜日に行われたESAT-Jでは、この出題範囲外のことが問題文にがっつり出ていました。高校で習う文法事項です。

話が違いますよね。「中学校の教科書でやってることしか出ない」と断言しておいて、実際には高校で習う文法項目が出てくる。「学校の授業と教科書だけやってれば大丈夫」と繰り返し聞かされてがんばってきた受検者(中学3年生)の人たちは、びっくりしたことでしょう。「難しい」と感じ、「自分はダメだ」と思ってしまっているかもしれない。

でも、約束と違う範囲から、習っていないことが出題されたのですから、難しく感じられて当たり前です。全然ダメではありません。凹む必要はカケラもありません。

こんな試験を実施させてしまった責任ある大人として、本当に申し訳ないと謝罪します。

以下、具体的に、高校の学習事項が出題されていた部分についての指摘です。

これは、英語教材作成や教科指導にかかわっている複数の人たちが指摘していることです。一部のツイートをお借りします。

この設問では、「あなた」がスピーチで、 "You may have seen ..."  と述べているという設定になっていますが、この《may + have + 過去分詞》(助動詞+完了形)は、中学校では習わない文法事項です(ちなみに、当ブログは「中学英語」という縛りはないから、何回も取り上げています)。「~したかもしれない」という意味です。

  You may have heard about the distant planet. 

  (その、遠くにある惑星について、お聞きになったことがあるかもしれませんね)

さらに、Part B, No. 2のこの箇所にとってはさらに別の指摘もあります。他動詞seeのあとに名詞節のthatが続く形は、高校学習範囲内だという指摘です(私自身は、「may have seenって中学でやらんやろ、ふざけてんのか、しかもなんだこの英文のクオリティは」と怒髪天状態で、こっちを見落としてしまいました。反省)。

これは明白な出題ミスです。

最低限でも、当該の問題は、解答の如何にかかわらず全員正解とするという措置が必要なレベルの出題ミスです。

都教委側は、「mayもhaveもseenも、単語としては既習なので問題ない」と強弁するかもしれませんが(そして私はその可能性が高いと思っています)、「音読」には「内容の理解」が前提となるので、意味が取れない構文を出題してはなりません。単語だけ知ってても意味は取れないのです。

センター試験・共通テストを含め、大学の入試に関しては、たびたび、この手の「出題ミスにより全員正解」という報道が、全国紙・地方紙やテレビなどのマスコミに出ます。

東京都で実施されたESAT-Jに関しても、マスコミの記者さんたちが、この「出題ミス」を追求してくれることを、心と身体の奥底から、ヘドが出るほどの声を出して絶叫するつもりで、期待しています。

まずは、《助動詞+過去分詞》が中学既習範囲ではないということのファクトチェックからお願いします。これは《個人の感想・意見》ではありません。《事実》です。

 

※4300字

 

 

【12月1日朝・アップデート】

 

なお、このエントリで見たのとは別の設問にも、「出題ミス」に近いものがある。それについては、このエントリの一つ前のエントリで扱っている。合わせてご参照いただきたい。個人的には私はこちらのは「ミス」であるとまでは思わないが、「別解あり」として採点基準で徹底しないと、とんでもなく不公平な試験になると思う。

hoarding-examples.hatenablog.jp

 

サムネ: 

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/files/esat-j/r4_script.pdf

 

 

 

 

*1:高校の教科書、特別支援学校の教科書は、置いている教科書センターは一部に限られます。高校の教科書を閲覧できるのは、東京都だと、千代田区江東区、文京区、新宿区、品川区、世田谷区、渋谷区と、町田市にある南多摩第二センター、および、島嶼部で大島と八丈島だけです。ソースはこちらです

*2:実際、この教科書は優れていると私は思います。名門に通ってる人は出発点がこれなんだということは、私は大学を出たあとで塾などで働いて知ったのですが。

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