Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

複合関係代名詞whatever, something + 形容詞, 助動詞 + have + 過去分詞, to不定詞の意味上の主語, 動名詞の意味上の主語,動名詞の否定形, など(ベン・ホワイトがイングランド代表を離脱)

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今回の実例は、Twitterから、人の心から出ている血の通った言葉を。ESAT-Jや中学教科書の不自然で拙い変な英語もどきみたいなのをたっぷり見たあとなので、私もリハビリが必要です。普通の英語、よい英文を読む必要がある。

っていうか、それこそ90年代の話ですが、「英語教材や英和辞典の英文は不自然だ」と素人がキャッチ―なことを言う予備校講師などをかついで、彼ら・彼女らが「権威」とみなす英和辞典や教材をたたきまくったことがあるんですね。その指摘の中には至極まっとうなものや妥当なものもあって、あと、当時の技術の進展でコーパスがそれまでに比べてずっと広い範囲で使えるようになり、以降、「生きた英語」を教材にしよう、教材のために書かれた不自然な英語はなるべく減らしていこうという流れがあったんですね。中学生の教材に、単語を易しく書き改めるなどしたマーク・トゥウェインの『トム・ソーヤーの冒険』を使ったり。

その流れが、"This is a pen." という、冷静に考えればいつどのような場面で使いうるのかよくわからない例文を駆逐したあと、いつの間にか止まってしまって、今や、教材やテストは不自然な英語であふれかえっています。今の中学英語のやり方で言うと、下記のキャプチャ(英語圏で非常に話題になったものですが)にあるSlate氏のパンチの効いたツッコミが、"Did he buy Apple?" または "Did Elon Musk buy Apple?" となってしまうでしょう(中学生が接する「英語」は、代名詞を排していて、英語としてはありえないほどの同じ語句の繰り返しを使っています。この傾向はESAT-Jの問題文にも見られたので、「どれどれ、話題になっているESAT-Jとやらを見てみようか」と軽い気持ちでチェックしてみた方々の多くがショックを受けられたのではないかと思います)。

https://twitter.com/PleaseBeGneiss/status/1597372049693212672

というところで、本題。

サッカーのワールドカップの今大会、私はボイコットしているので試合は見ていませんが*1、画面を見ているだけでニュースはそれなりに入ってきます。詳しいことはわかんないけど、ウェールズとイランが敗退して、イングランドとUSA! USA!がトーナメントに進むんだな、という程度には。

そんな中、流れてきたのが: 

イングランド代表のベン・ホワイト(アーセナル)が、「個人的な理由」で代表を離脱して帰国し、このまま再合流はしない、とのこと。FAのステートメントでは最後に「本人のプライバシーに配慮していただきたい」とあるので、個人としての彼にとって何か大変なこと、深刻なことがあったのだと思われます。

私は大会は見ていないのでウィキペディアで確認すると、ホワイトは今大会、一度も出場していないし、ベンチにも入っていないようです。それを理由に、ホワイトのことを、というかアーセナルのことをよく思わない人たち、というかアーセナルを悪く言うことがマナーだと思っているいわゆる「熱狂的」な他チームのサポーターの一部が、「何をしに行ったんだ」という内容で、心ないことばを投げつけているという現実が、残念ながらあるようです(「あるようです」というか、実際にこの目でいくつか確認したんですが)。

また、「これから決勝トーナメントだというのに、代表のことは大事ではないのか」といった非難も起きているようです。

そういったものに対して反論している言葉を、いくつか見ておきましょう。

 

ビデオゲームFIFA』クリエイターのMattさん: 

《複合関係代名詞》のwhatverの構文です。「何が~にせよ」の意味。第1文は「ベン・ホワイトに何があったにせよ、彼が大丈夫であってくれることを願っています」という内容です。

第2文の書き出し、"something really big" は、「somethingに形容詞をつけるときは後ろに置いて《something + 形容詞》の語順にする」というルールに、"really" という副詞がトッピングされるとこうなる、という実例です。

この文の述語動詞の部分、 "must have happened" は、中学校の学習範囲から出題されるはずのESAT-Jでなぜか出題されていた高校での学習事項として、今、熱い話題となっている《助動詞 + have + 過去分詞》で「起きたに違いない」。

そのあと、"for him to head back home" の部分は、《to不定詞の意味上の主語》と《to不定詞》の構造で、このto不定詞は《副詞的用法》。《感情の原因・理由を表すto不定詞》の亜種と言ってよいと思いますが、"must have happened" のmustという助動詞(法助動詞)があらわしている話者の気持ちの原因・理由ですね。「ワールドカップの期間中に彼が帰国するなんて、何かとても大きなことが起きたに違いない」という文意です。

「ワールドカップ期間中に」が "during a World Cup" と、《不定冠詞》を使って表されていることにも注目してください。

この文はそのまま復文の素材にできそうですね。

続いて別な人のツイート: 

構造が取れたでしょうか。

この文は述語動詞は "has to be" で、《動名詞》が主語の文です。その動名詞に《意味上の主語》と《否定》がついています。かなりのデコりっぷり。

  caring ←本体の動名詞

  Ben White caring ←動名詞の意味上の主語が加わった

  Ben White not caring ←さらに否定が加わった

というわけで主語の部分は「ベン・ホワイトがサッカーのことを大切に思っていないということ」。

それが "one of the worst things to touch this app" に違いない (has to be) と、筆者のFaizさんは言っているわけです。このtouchはちょっと難しいのですが、「~に出てくる」くらいの意味合い。あまりよいニュアンスではなくて「ない方がいいんだけど」といった含みがあります。"to touch" は《to不定詞の形容詞的用法》でthingsにかかっていて、意味は「このアプリ(=Twitter)に出てくる最悪のもののひとつ」。

要するに、「ホワイトにとってサッカーなんかどうでもいいんだなっていうのは、Twitterで見る(Twitterでしか見ないような)根拠のない暴言だ」ということです。

さらに別の人: 

"Ben White heading back home" のところは、さっきも出てきた《動名詞の意味上の主語+動名詞》で「ベン・ホワイトが帰国すること」。

cleverは「頭のよい」という意味で肯定的に用いられることもありますが、この文のように「小賢しい」という意味で否定的に使われることもあります。「ベン・ホワイトが帰国することについて、うまいこと言っちゃってるだろと言わんばかりのコメントは全部、ここらへんでストップすべき」という主張です。

文字数がもう残り少ないのでこのツイートの最後から2つ目の文: 

You don't leave the World Cup unless something is proper wrong.

《unless ~》「~でなければ」の構文です。properはイギリスの口語でよく出てくる語で「ガチで」「ちゃんと」みたいな意味合い。「何かがガチで悪くない限り、ワールドカップを中途離脱しはしない」。

先ほどのMatt氏のツイートと異なり、ここではthe World Cupと定冠詞が用いられていることに注目してください。注目した先は、冠詞沼です。楽しいでしょう。

ここで当ブログ規定上限の4000字を超えたのですが、もう少し続けます。

大文字をちゃんと使っていないので少々読みづらいかもしれませんが、第2文。ここでも先ほどのと同じく、《unless ~》が用いられています。「深刻な事態でなければ、ワールドカップを離脱しはしない」。

第1文も「生きた英語」という点ではとてもいいですね。「ベン・ホワイトについてのコメントは、フットボールの中にある毒々しさを証明している」と直訳されますが、「フットボール界隈の毒々しさってこういうことなんだよなあ」という感情の言葉です。

批判やボヤキが多くなって重苦しいので、最後にウェルベック

 

※4770字

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:ウェールズ代表でアーロン・ラムジーを見たかったです……。

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