Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

進行形の受動態, 関係副詞 (that's how ~) (ようやく英国とEUの間で合意が成立 #Brexit )

今回の実例は、Twitterから。

昨日、12月24日のクリスマスイヴ、東京ではまもなく日付も変わろうかという時間帯(欧州では午後3時とか4時といった時間帯)に、「英国とEUが合意した」との速報が入った。2016年6月23日のレファレンダム(国民投票)で、52対48というわずかの差で決まった英国の欧州連合 (EU) 離脱(Brexit)は、離脱後の英国とEUとの貿易についての具体的な取り決め(貿易協定)が、レファレンダムから4年半も経過して、ようやく、合意をみたのだ。

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レファレンダム後、EU離脱を推進した保守党の政治家たち――特にデイヴィッド・デイヴィスやリーアム・フォックスといった要職者たち――は、この貿易協定について「世界で一番簡単に決まる貿易協定だ」と繰り返していたが、実際にはそうではなかった。事態の最終局面で前景化したのは漁業権やLPF (Level Playing Field: 公平な競争を可能にする環境のこと) だったが、話がそこまで進む前にずっと問題の中心であり続けたのは、アイルランド島に存在する英国とアイルランド、つまり非EU加盟国とEU加盟国の間の境界線*1だった。

最終局面に至る前に、そのハードルは一応クリアされていたが(それでもものすごいすったもんだがあった。「英国は国際法に違反することになるが、この方針をとる」と大臣が国会議事堂の議場で述べるようなことがあった……最終的にはその方針は撤回されたのだが)、そもそも2016年のレファレンダムの際、EU離脱派はアイルランドのボーダーがそういうふうに問題になるということを想定すらしていなかった。というより、アイルランドのボーダーのことなんか気にかけていなかったし、もっと言えばその存在について知りもしなかったわけで、実に無責任この上ない。その話は書いてるとブログを書き終わらなくなるので先に行こう。最終的には英国は、要するにアイルランド島のボーダーを無効化して、アイルランド島ブリテン島の間に貿易上のボーダー(国境)を置くことにしたわけで、これは「北アイルランド」という存在にとってはとてつもなく大きな変化である。北アイルランドが成立してから来年で100年になるのだが、次の100年は北アイルランドにとってとても大きな変化の100年になるだろう。2121年に北アイルランドがどうなっているかを私が生きて見届けることができないのが残念だ。今後しばらくは、改めて、Slugger O’Tooleに日参して、いろいろと勉強させてもらうことになるだろう。

というわけで、英国政府としてはクリスマス直前に何はともあれ「合意成立」したという形式は作れたわけで、それを「Get Brexit Doneを標語として1年前に総選挙で圧勝したボリス・ジョンソンの手柄」にすべく、すさまじいプロパガンダを展開している。実際には、ジョンソンがやり遂げたBrexitは、2016年に彼が人々に売り込んでいたそれとは比べ物にならないくらいしょぼい。通販のおせちの写真と実際に届いたおせちくらい違う。でも、やり遂げたのだ。むしろ「やり遂げた(キリッ」という微妙に古い日本のネットスラングが似合う事態だが、そんなことはどうでもいい。「やり遂げた」という気分を持ってクリスマス休みに入ればよいのだ。

だがそこに冷や水をぶっかけるのがEU離脱反対派の冷静な指摘で、私がTwitter上で見た世界は、酔っぱらったようなジョンソン礼賛と、EU離脱反対派の冷たいお水と、勝手に高笑いして踊りだすアイルランドという感じになっていた。それとは別に、大陸は大陸でこの長丁場の交渉を耐え抜いたミシェル・バルニエ氏(英国側の担当者はころころ変わったし、事務レベルの外交官もサジを投げて逃げ出したりしている)への称賛とねぎらいの言葉がたくさんあるのだが。

その中で気になったのが、下記。

 ドーン・フォスターさん(ジャーナリスト)が「完璧」と言って参照しているのは、EU離脱をずっと後押ししてきたThe Sunの政治エディターであるハリー・コールさんのツイートと、それに突っ込みを入れるHope Not Hateのグレゴリー・デイヴィスさんのツイートである。これ自体は合意成立のニュースがあった前の日のやり取りだ。

*1:日本語の報道では「国境」とされるが、私はこれを「国と国の境」と位置付けることをよしとしない立場なので、仕事で用語指定されたりしない場合はこれを「国境」とは呼ばず「境界線」「ボーダー」と呼んでいる。

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「if節が仮定法過去完了、主節が仮定法過去」という形(ドナルド・トランプのトンデモ恩赦)

今回の実例は、Twitterから。

任期切れ間際の米大統領によるの恩赦が、ここ数日間行われている。犯行当時に18歳だった殺人事件で有罪となり死刑を言い渡されていた人の死刑が執行される一方で、ドナルド・トランプが恩赦しているのは、ロシアとの関係などで有罪となった自分の身内や、数年前にやっとのことで起訴・有罪判決が実現したイラク戦争時の戦争犯罪人(市民が普通に暮らしている市街地での銃乱射で17人の市民を殺した傭兵たち)である。特に日本時間で今朝入ってきたのは、ロジャー・ストーンやポール・マナフォート、娘イヴァンカの夫の父親であるクシュナーといった面々を恩赦するというニュースで、私が見ていたTwitterの画面では、あまりにひどすぎて誰もが言葉を失う(ニュースフィードだけがひたすらリツイートされてくる)という状態になっていた。

そういう中で何とか書かれた言葉のひとつを、今回は実例として参照しよう。こちら: 

 

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It is ~ that... の強調構文でthatの代わりにwhichが用いられている例(ボリス・ジョンソンの発言を流すときに必要とされるもの)

今回の実例は、Twitterから。

前置きを丁寧に書くと疲れてしまうので、ざっくりいくが、英国の首相をしているボリス・ジョンソンという人物は政治家になる前はデイリー・テレグラフやスペクテイターといった保守党筋のメディアで仕事をするジャーナリストだった。言葉の扱い方は巧みで、非常におもしろい文を書く人ではあるが、書く内容がまるででたらめというか、噓つきの妄想みたいなものが非常に多く、特にブリュッセル駐在記者としてEUについて嘘八百を面白おかしく華麗な言葉づかいで綴っていたことは、英国では広く知られている。英国では広く知られているのだが、ネット上の日本語圏、つまり普段から別段英国について関心が高いわけでもなく、したがって英国のニュースをつぶさに追ってなどいない人たちの間では、おそらくほとんど知られていない。

ネット上の日本語圏で広く知られているのは「イギリスのトランプ」とかいう、まるで中身のないキャッチフレーズだけで、それゆえ、ひたすら無教養で粗野なトランプと比べて「ボリス・ジョンソンって案外まともじゃん」みたいな印象、あるいは「さすがオックスフォード出のインテリは違うな!」みたいな、安っぽいブランド信仰を引き起こしているようにすら見受けられる。

そういうことを最近よくTwitterで書いているのだが(このブログでも書いてるかも)、英国ウォッチャーとしては「え、そっからっすか?」みたいなレベルの大前提の話なので、正直、だるい。だるいうえに、英語で私のフィルターバブル内に流れてくるジョンソン像とのギャップに、乾いた笑いすら出てこない感じだ。

ともあれ、事実としては、ボリス・ジョンソンのことを「まともな政治家だ」などと言っている人は、保守党支持であろうがそうでなかろうが、まずいない。彼が支持されているのは「まとも」だからではなく、実際に「まとも」なことなど何もしていない。何かしているように見えるとしたら、「よりひどい政治家に比べてまし」というだけのことで、それは「日本は(アメリカやイギリスに比べて)新型コロナウイルスの感染者数が少ないので、対策が優れていると考えられる」みたいな話だ。というか、特に日本から見れば、方針を180度転換することをまったくためらわずに何度もやってのけるジョンソンは(彼のお家芸は「Uターン」である)、「最初に決めてあったことを撤回する勇気のあるリーダー」に見えるのだろうし、それはそれで、とても、とても、不幸で不運で嘆かわしいことである。

というわけで、ジョンソンについて特に注意しておかねばならないのは、彼が口にすることの多くは無根拠ででたらめで虚偽であるということであるが、今回のこのBrexit新型コロナウイルスの変異株のダブルパンチという状況の中にあっても、相変わらずでたらめを並べ立てていたということで、Twitterで突っ込みが入りまくっている。アメリカなら報道機関が「ファクトチェック」と叫んで突撃しているだろうが、イギリスでは静かなものだ(公共放送BBCは米国の政治やアフリカやアジアでの疑似科学に基づいたコロナ対策のことなどは「ファクトチェック」といって細かく記事を出しているが、肝心の英国のことについてはずぶずぶである)。

ジョンソンが「ドーバーの港への幹線道路上にいるトラックは174台である」などと言い切ったが、実は945台で、その後もどんどん増えているという事実を指摘する労働党のビル・エスタートン議員のこのツイートは大きな反響を引き起こし、これを引用リツイートしたものを私は何件も見たのだが、今回の実例はそのひとつで、小説家のロバート・ハリスによるもの。こちら: 

 

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be into ~, コロンの使い方, 複合関係代名詞(冬至の日に、アイルランドからの言葉)

今回の実例はTwitterから。

昨日、12月21日は冬至 (winter solstice) だった。西欧では「クリスマス直前」、うちら日本では「年の瀬」で「かぼちゃ食べてゆず湯に入る」日だが、世界には、1年で一番日が短いこの日を「1年の終わり」と考え、その翌日(つまり今日)から新たな年と考える文化もあるそうだ。イランなどでは一年で一番長い夜を祝って家族・親族が集まり、ザクロやスイカなど赤い果物を食べながら夜通し語り明かすという。

そんなタイミングでも、今年はとにかくBrexit新型コロナウイルスのダブルパンチで、ブリテン島では大変な状況になっていて、その隣にあってブリテン島とは切っても切れない仲であるアイルランド島もかなりの混乱の中にある。そのアイルランドから、ジャーナリストのギャヴァン・ライリーさんのことば: 

 

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仮定法の使いどころ(新型コロナウイルスの変異株とBrexitのダブルパンチ)

今回の実例はTwitterから。

先週(14日から始まる週)の前半、英国から、新型コロナウイルスの新たな系統 (strain)、つまり新たな変異株 (variant) が同定されたというニュースがあった。これは、このパンデミックの担当大臣である保健大臣(健康大臣: Secretary of State for Health)*1が国会で、イングランド南東部で感染が激増していることについて述べた中で明らかにされたのだが、その時点ではまだ「関係があるかどうかは確定していない」ということだった(助動詞のmayを使って「関係があるかもしれない」と記述されるレベルの話だった)。

www.bbc.com

だが、感染件数の急増と関係のない変異株の出現について、保健大臣が国会で述べるということはあまり考えられないわけで(国会は学術の会議ではないのだから)―しかもクリスマスの10日前。さして重大でもないことなら国会で言及はしなかっただろう―、この時点で「なんかフラグが立った」と受け取らないのも鈍感に過ぎる。

というわけで、Twitterで英国のジャーナリストなどの発言を見ている限りでは、先週ずっとなんとなくアンテナが張り詰めたような感じだったのだが、土曜日にイングランド南東部での感染拡大についてボリス・ジョンソン首相が会見をするという告知があって「ということは、何をどう考えてもいい話ではないよな」というムードが流れた。同時にBrexitの交渉が最終段階で膠着状態に陥っていて、そちらも最終期限が迫っている中で打開がみられるのかどうかということでも多くの関心が寄せられていたのだが、重大なことからは逃げ回るのが常のジョンソン首相が緊急的に行う会見で扱われるのが、そのBrexitの話ではなく新型コロナウイルスの話だという時点で、ことの深刻さはなんとなく予想がついていただろう。

そして実際に会見が行われたのだが、その内容は英国のメディアが「クリスマス中止のお知らせ」と書き立てるようなものだった。(英国ではクリスマスはうちらの正月の帰省みたいなもので、「親元を離れて家庭を持っている子供たちが親元に集って、親戚一同で和気あいあいと過ごす」という性質の休暇である。)

会見前までは、クリスマス期間中の感染対策の行動制限は一時的に緩められることになっていたが、会見では帰省禁止どころか事実上外出禁止みたいなレベルでの厳しい行動制限が、ロンドンを含むイングランド南東部に出された。この行動制限を課すために、これまで3段階のTier(階層、レベル)で行動制限を行ってきた政府は、いきなりTier 4なる新段階を導入し、ロンドンなどはこのTier 4に指定された。月曜からはロンドンの人はロンドンから出られなくなる、というくらいの行動制限だ。事実上「ロックダウン」といってよいだろう。

英国からのTwitterでの声はそのTier 4と「クリスマス中止」についての反応で満ち溢れていたが、英国外から見たときにより重大なのは、英国政府にそれほどに極端な方策をとらせた変異株がどういうものか、ということである。詳細は下記ツイートのリンク先をご参照のほど。

さて、こういう次第で、オランダを皮切りに欧州各国が英国(場合によってはグレート・ブリテン。つまり北アイルランド以外) との航空便を停止するなど、変異株のこれ以上の拡散を阻止すべく、最大限の方策を即座に取り始めている。英国では、クリスマスのほんの数日前になってこういう発表がなされたことで、「すでに注文してしまったクリスマス・ディナー用の大量の食材をどうしたものやら」とか「クリスマスには帰るはずだったのに英国に帰国できなくなった」とかいった非常にリアルで切実な声があちこちから上がっている状態だが、センセーショナリズムしかないタブロイドが、Twitterでだれかが書いた「サイゴンからの最終列車」という文言*2を拾って派手な見出しで金切声で叫び: 

 保健大臣もその文言を使ってわめきたてているのだが: 

この春、新型コロナウイルスの影響で広く一般の人々の行動を厳しく制限していたときに、ジョンソン首相の側近だったドミニク・カミングズ(11月に辞任)が行動制限を無視してロンドンからイングランド北部まで車で出かけていたことが明るみに出て、それにもかかわらずカミングスは何ら懲罰を受けることもなくそのまま首相顧問という地位にとどまり続けていたわけで、そんな政府が何を言おうとも、何も説得力はない。しかも、「クリスマスは家族で集まっても大丈夫ですよ」ということにしておいて、実際にクリスマス数日前になって「やっぱりだめ」と他人のスケジュールをドタキャンするようなことをしているのだから、Twitter上の英国圏は、見るのもつらいくらいに怒りに満ち溢れている。

*1:日本と違って、経済産業分野の省庁・大臣がパンデミック対策をやっているわけではない。

*2:ベトナム戦争のときの出来事にちなんだ言い方で、列車がやたらと混雑しているときにややおどけてそう言うことがある。

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関係代名詞のwhat, the latter (インドの大気汚染がひどい件)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。関係代名詞のwhatは決まった形の文を作ることが多くある。これが自分でも使いこなせるようになると、こなれた英文が書けるようになる。なるべく多くの例文を基本文として頭に入れておくとよいだろう。

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今回の実例は、インドの大気汚染について説明する記事から。

10年少し前までは、「大気汚染」といえば北京だったが、2008年の北京オリンピックのあとは英語圏で「北京の空気がヤバい!」的な大騒ぎの記事を見かけることはなくなった(実際に北京の空気がきれいになったのかどうかは、別の話だと思うが)。ここ数年、北京に代わって「大気汚染のひどい都市」の代表みたいに言われているのが、インドのデリーである。さくっとウェブ検索してみたところ、日本語記事は2017年秋ごろから増えているようだ。例えば下記は2017年11月の朝日新聞の記事。

www.asahi.com

こういった報道を通じて、インドに行ったことがない人でも今は「デリーは空気がやばい」ということを知るようになっているのだが、果たしてどの程度やばいのか、ということを、データを示し、専門家の意見を聞きながら客観的に説明しているのが、今日見る記事である。

なお、このタイプの「客観的な説明文」は大学入試でもよく出るし、実務で英語を読むようになったあとでも頻繁に読むことになる。早いうちから読みなれておくのはいろいろとプラスになるだろう。

 記事はこちら:  

www.bbc.com

実例として見るのは、記事を少し読み進めたところにある、大気汚染のひどい首都や国をグラフで示すなどした後の部分。

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修飾される語と修飾する句が離れているケース、形式主語(タイ、少年たちの救出作戦が行われたあの洞窟は今)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。この実例のようなものは、英語ではこういうことがあると知らずに出くわすと正確に読めないかもしれないから、まずは、こういうことがあると知っておくことが大切だ。

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今回の実例は、「あの事件の現場は今」的な記事から。

昨年(2018年)の夏、全世界の関心がタイ北部に集まった。地元の少年サッカーチームのメンバーとコーチらあわせて13人が、洞窟探検に出かけたまま戻らず、生存が絶望視されていたところ、手掛かりを求めてその洞窟の中に赴いた英国人ダイバーが全員の無事を確認した。その後の大掛かりな救出作戦で、ダイバー1人が亡くなったが、最終的には13人全員が生還した。一連の経緯については、下記記事が詳しい。

style.nikkei.com

 

その現場となったタイ北部の洞窟のあたりはその後どうなったかというと、日本語版ウィキペディアから引用すると: 

タルムアン洞窟近くには殉職したダイバーの像が建てられ、併設された学習センターでは救出に使われた酸素ボンベや洞窟の模型が展示されている。一帯を訪れる観光客は事故前の年間5000人程度から140万人へ増え、観光地化している。洞窟周辺は2018年10月に森林公園に指定され、国立公園・野生動植物保全局が管理している。国立公園への昇格や洞窟の公開も検討されている。

--- タムルアン洞窟の遭難事故 - Wikipedia

ここで「検討されている」と記載されている国立公園への昇格や洞窟の公開が、2019年11月1日になされた。今回見る記事は、それを伝える記事である。

www.theguardian.com

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《it is the first time ... that + 現在完了》の実例(UNICEFが史上初めて英国に支援を行うことに)

今回の実例はTwitterから。

ユニセフ」という機関名は誰でも知っているだろう。「国連児童基金」という名称も、誰もが聞いたことがある程度には知られているだろうし、この機関が、いわゆる「世界の恵まれない子供たち」のために物資や教育の支援をしていることも広く知られている。だがこの「ユニセフ」、つまりUNICEFという名称の元になった機関名が、現在の the United Nations Childrens' Fund(国連児童基金)ではなく、その前身であるthe United Nations International Children's Emergency Fund (国連国際児童緊急基金)であることはあまり知られていない。旧機関の名称の略称がそのまま、新機関に引き継がれているというわりと珍しい例だ。

このUNICEFという機関は、1945年の第二次世界大戦終結直後に設立された国際連合 (the United Nationsという名称は戦争中の「連合国」と同じで、中心となったのは米国、英国、ソ連といった国々であった)のもとで、1946年に第二次世界大戦の影響を被った子供たちの支援のために設立され、当初は欧州、特に東ヨーロッパの子供たちやその母親たちの直接的な支援を提供していた。1950年代に入るとその活動域はより広げられ、特に発展途上国の子供たちへの支援が活動の中心となった。現在の私たちがイメージする「世界の恵まれない子供たちへの支援」はこのころから始まっていたわけだ。

一方で、英国は第二次世界大戦でひどく荒廃して、食料にも事欠くようになっていたが(この時代の英国を舞台にした児童文学や子供向けの読み物を読むと、その有様がよくわかる)、UNICEFの支援対象にはならなかった*1

その英国が、初めて、UNICEFの支援を受けることになった。

2010年代に信じられないような勢いで進められた新自由主義政策により、第二次大戦後に確立されたかのように見えていた「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家は土台から切り崩され、ケン・ローチの映画で扱われるような過酷な格差社会(旧来の「階級による格差」を内包しつつ、それよりも過酷な格差社会)が人々の現実となっていたところに、新型コロナウイルス禍である。社会の中の多くの人々にとって、「学校がない日に、子供に食わせるものがない」という問題が日常の現実となった。それでも政治家たちは、縁故があるお仲間には湯水のように注ぎ込むカネがあるくせに、子供の食事のためには出そうとしなかった(学校のハーフタームの休暇中の無料給食についての法案は国会で否決された)。それにたまりかねたサッカーのスター選手が「子供の貧困は、政治マターにしていい問題ではないでしょう」と声を上げ、行動を起こしたことでようやく、政治家たちもしぶしぶ動いた(これによってそのサッカー選手は叙勲された)。そのことは英国外でも伝えられるような大ニュースとなったが、日本に伝わってきているのかどうかは私は知らない。

time.com

 

日本では英国というと何となく「しっかりしている」「物がよい」みたいなイメージを抱いている人が多いようだし、ここ数年は特に米国の政治のめちゃくちゃっぷりと(無意識にであっても)比較して「なんだかんだ言っても、ボリス・ジョンソンドナルド・トランプよりはましでしょう。古典ギリシャ語もできるし」と見られているように見受けられるが、現実には、今の英国は、「子供に食わせるものがない」という事態になっているのだ。加えて言えば、今はまだ、実際には「物はあっても、出さない」ということかもしれないが、Brexitの行方次第ではどうなるかわからない。”Feed the world” と、英国ロックのきらびやかなスターたち(その多くは子供時代に貧困を経験していた)が歌ったLive Aidから35年あまりが過ぎ、こんなことになると誰が思っていただろうか。

というわけで、Twitterではいろいろな人が嘆きながら、「UNICEFの支援」のニュースをフィードしている。今回の実例はそのひとつ。

 

*1:英国の戦後復興には米国のマーシャル・プランが果たした役割が大きいが、それは別の話である。

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such ~ that ..., 現在分詞の受動態, 《過去の習慣》を表すwould, 【ボキャビル】buffなど(ジョン・ル・カレを追悼するホセイン・アミニの言葉)

今回も、前々回および前回と同じく、ジョン・ル・カレを追悼する様々な言葉を集めた記事から。

前々回見た部分は作家のジョン・バンヴィル前回は劇作家・脚本家のトム・ストッパードの文章だったが、そのあとは作家でジャーナリストのシャーロット・フィルビー(かのキム・フィルビーの孫)、作家のマーガレット・アトウッド、法律家のフィリップ・サンズ(『誰よりも狙われた男』などを書く上でル・カレが話を聞いた専門家の1人)、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の映画監督トーマス・アルフレッドソン(邦題は『裏切りのサーカス』)、『われらが背きし者*1の映画監督スザンナ・ホワイトと続き、その次に、今回実例として参照する同作の脚本家、ホセイン・アミニのことばがある。ル・カレの小説は映像化されることが多かったが、その映像化に際してル・カレ本人がどういう態度で臨んでいたかが語られている。

アミニは1966年にイランのテヘランで外交官の息子として生まれたが、1979年のイスラム革命前に一家は英国に移住し、それ以降英国を拠点としている。過去の作品に『鳩の翼』、『サハラに舞う羽根』や『シャンハイ』、『ドライヴ』、『47 RONIN』などがある。 

われらが背きし者 (岩波現代文庫)

われらが背きし者 (岩波現代文庫)

 

*1:日本語がわかりづらいかもしれないが、原題Our Kind of Traitorの直訳といえる。意味としては「こちら側の利益になる(他国の)裏切者」で、この作品で描かれるのは激動のロシアで蓄財した裏社会の人物が身の危険を感じて西側に逃げようとするというストーリーである。

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形容詞+ though + S + V(倒置構文), 代名詞のone, can't help doing ~(ジョン・ル・カレを追悼するトム・ストッパードの言葉)

今回も前回と同じく、ジョン・ル・カレを追悼する様々な言葉を集めた記事から。

この記事には、前回見たジョン・バンヴィルや、マーガレット・アトウッドイアン・ランキンといった作家や、ジョン・ブアマンレイフ・ファインズといった映画人など15人の言葉が集められている。それぞれにとってのジョン・ル・カレ(あるいはデイヴィッド・コーンウェル)が語られていて、故人の作品に親しんできた人にも、名前はよく聞いていたなという人にも、とても多くのことが伝わってくる。ここを手掛かりに著作に手を伸ばしてみてもいいし、映像化された作品を見てもいい。ル・カレ本人が吹き込んでいるオーディオブックもよいだろう――ル・カレの朗読の手腕についてもこの記事に言及がある。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

今回はまず、この記事で2人目に上がっている劇作家・映画脚本家のトム・ストッパードの文から。ストッパードといえば舞台劇および映画の『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』や映画『未来世紀ブラジル』や『恋に落ちたシェイクスピア』の脚本が有名だが、ル・カレの『ロシア・ハウス』の映画化に際して脚本を担当している。

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仮定法におけるif節のifの省略と、倒置(ジョン・ル・カレを追悼するジョン・バンヴィルの言葉)

今回の実例は、亡くなったジョン・ル・カレを偲ぶ作家や映画監督、俳優らの声を集めた記事から。メンツが豪華すぎててくらくらくる記事で、ゆっくり読んでいきたい。記事はこちら: 

www.theguardian.com

ここに言葉を寄せているのは、15人の作家や脚本家、映画監督や俳優、法律家といった人たちで*1、それぞれの知るジョン・ル・カレ、あるいはそれぞれにとってのジョン・ル・カレについて、自由に言葉を綴っている。

今回はまず一番上に掲載されている作家のジョン・バンヴィルの言葉から。バンヴィルはアイルランドの作家だが、ジョン・ル・カレも父親*2アイルランドにルーツがあったので、可能ならばと移住を検討していたという*3

というところで今回の実例: 

*1:クレジット表記をコピペすると、John Banville, Tom Stoppard, Charlotte Philby, Margaret Atwood, Philippe Sands, Tomas Alfredson, Susanna White, Hossein Amini, John Boorman, Ralph Fiennes, Bonnie Greer, Ian Rankin, Kit de Waal, Holly Watt and Adrian McKintyで、実に豪華である。

*2:この父親という人が非常にとんでもない人物で、そのことをル・カレ本人が書いたのが『地下道の鳩』の33章である。

*3:アイルランドでは国外生まれ・国外在住の人であっても親がアイリッシュであれば国籍取得が可能である

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《譲歩》のas, 形容詞+ as + S + V, neither (ジョン・ル・カレ死去)

今回の実例はTwitterから。

今朝起きたら、ジョン・ル・カレが亡くなっていた。89歳だったという。年齢が年齢だし……とも思いはするが、何より、Brexitを見届けることなく逝ってしまわれたかという気持ちでしばらくぼーっとしてしまった。

ル・カレはときどきガーディアンで発言していたりもして、今朝のガーディアンはこの訃報をトップニュースとしていた。少し時間が経過したあとのPC版のキャプチャ: 

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数か月前に、現在のウルスラ・フォンデアライデン氏が就任するまで欧州理事会議長EUの大統領のような存在)だったドナルド・トゥスク氏が、次のようなル・カレの言葉を引用して追悼している。

ル・カレのこのことばは、今年2月1日付でガーディアンに掲載されたスピーチの一節だが、掲載期限切れ(著作権上の問題)で現在ガーディアンのサイトで読むことはできない。アーカイヴでは確認できる。 このスピーチは「オロフ・パルメ賞」授賞式でのもので、この賞は1986年に暗殺されたスウェーデンのパルメ首相を記念し、民主主義や人権のために尽力した人の功績をたたえて授与される。ガーディアンに掲載されたこのスピーチを読んで初めて私はパルメ首相という人がどういう人だったのかを具体的に知ったのだが、この暗殺が未解決であること(長い歳月のあとにようやく突き止められた容疑者が死亡しており、今年6月に捜査は打ち切られた)も含めて、実にル・カレ的である。なお、受賞についての記事はこちらで、1月30日に行われた授賞式にはル・カレはストックホルムに出向いていたということもわかる。そのころはまだ、新型コロナウイルスによる影響はほとんど出ていなかった。別世界のようだが。

訃報を受けて多くの作家がTwitterで発言しているが、エイドリアン・マッキンティのこのツイート: 

カジュアルな表記になっていて読みづらい点を標準的な表記にしてみると: 

If you've never read John Le Carre, who sadly passed away yesterday, Tinker Tailor Soldier Spy is the place to start. 

As good as the BBC TV & recent film adaptation is, neither comes close to capturing the brilliance of this book. Quite simply the greatest spy novel ever written...

第一文は特に問題ないだろう。《関係代名詞》のwhoを用いて「昨日残念なことに亡くなったジョン・ル・カレ(の作品)を読んだことがなければ、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』が最初の一冊だ」と述べている。

難しいのは第二文だ。これは《譲歩》の構文で、下記のような例文で学習するasが使われている。主語はhe, 動詞はisで、youngは補語である。

  Young as he is, he is rich. 

  (彼は若くはあるけれども、裕福である)

この《形容詞+ as + S + V》 の形だが、元々は《as +形容詞+ as + S + V》 の形で、『ジーニアス英和辞典 第5版』では「《主に米》では今でもこの形で使う」と説明されている(p. 121)。 ちなみにツイート主のマッキンティは北アイルランド出身で米国在住の作家である。

ジーニアス英和辞典 第5版

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the + 比較級 ~, the + 比較級 ..., 形式主語, やや長い文 (新聞報道と環境問題)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。学校で習う英文法をどういうふうに使えばいいか、英作文のお手本にもなる文例だ。

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今回の実例は、ジャーナリストが自分の仕事と自分について書いている文章から。

通常、ジャーナリストは何か起きていることについて広く知らせる記事を書くのだが、自分について書くことはまずない。今回、こういう形で「自分 (I)」を主語にした記事が書かれているのは、所属の新聞社がこのジャーナリストが専門とするテーマについて、大々的なキャンペーンを開始したからだ。

www.theguardian.com

 

ガーディアンは、これまでもずっと、地球環境というテーマに熱を入れてきていた。「地球環境」という大きな話を構成するのは「それぞれの地域の環境」で、特に南米など開発業者がチャンスを求めて乗り込んでいっている地域では、自分たちの暮らしている環境を(大企業の開発から)守ろうとしている、地域に根差した環境保護運動のリーダーたちが殺害されるなどしている。下記は3か月前の記事。

www.theguardian.com

 

数か月前に全地球規模で(一瞬だけ)大きな関心を集めたアマゾンの火災にもそういった開発の手がかかわっているのだが、つい数日前、自分たちの環境を守ろうと業者に対して立ち上がっていた地元の指導者が殺害されたというニュースがあったばかりだ。

www.washingtonpost.com

 

日本の報道機関はこういうことはほとんど伝えないから、日本語でしか情報を取れない・取らない人たちは、世界でこういうことが起きているということを知らない。そうして、ネットでは、環境保護活動家を冷笑的な目で見ては、感情的な(物事をちゃんと考えもしていない)批判を浴びせて悦に入る人たちの声ばかりが大きく、目立つ。

このいびつな情報空間は、チラ見するだけでも疲れてしまうのであまり見ないようにしているのだが、ああいう冷笑的な人々は、いわゆる「欧米」の環境保護主義運動に大きな影響を与えたのが、日本を含む東洋の自然に対する考え方であるということを果たして知っているのだろうかと思う。

今回の記事は、そういったことが、ジャーナリスト個人の経験を踏まえて書かれている。記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

記事を書いたジョナサン・ワッツ記者は、1990年代に日本でジャーナリストとして仕事を始めた。その後、中国特派員となり、美術家のアイウェイウェイさんのインタビューしたり、レアメタルの採掘現場の取材に赴いた先で当局から圧力をかけられたりといった記事をたくさん書いたあと、アマゾンを擁するブラジル特派員となり、当時ブラジルを揺るがしていた政治の問題(汚職)を報じ、環境問題を深く取材し、経済状況がめちゃくちゃなことになった隣国ベネズエラを縦断して実際に何が起きているかを報告するなどしたあと、現在はガーディアンの地球環境エディター (global environment editor) として、地球環境がどういうことになっているかを書いている。2011年3月の東日本大震災に際しては急遽東北に入り、震災後に出火してまだ火がくすぶっていた大槌の町から、地震津波が日本の街に何をしたのかを伝えていた。

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-ing形, let + O + 動詞の原形, など(新型コロナウイルスのワクチン接種開始、イングランドの現場からの声)

今回も引き続き、イングランドでの新型コロナウイルスのワクチン接種初日の報告の文面を見ていこう。

北東部の都市ニューカッスルからは: 

-ing形が3つも入っているが、それぞれ、現在分詞なのか動名詞なのかわかるだろうか。

最初の-ing形、"we are making history" の "making" は現在分詞だ。これは《be + 現在分詞》の進行形の一部となっている。

2番目の "by vaccinating" と3番目の "for letting" はそれぞれ《前置詞+動名詞》である。

このツイートにはほかにも文法上の注目点がある。まず、自分で何か英語で書くときには必須の《one of the + 複数形》が、 "one of the first patients in the world" の部分にある。

それから、「~について…に感謝する」は通常は《thank ... for ~》という形なのだが、もう少しフレンドリーな感じというか「感謝します」というより「ありがとうございます」という語感にしたいときは、thank youを成句っぽく使って、《thank you to ... for ~》とする。ここではその形で、「シュクラ先生ご夫妻、~してくださってありがとうございます」の意味になっている。

その「~してくださって」の部分が、"for letting us capture this significant moment in history" なのだが、ここで使われているのが《let + O + 動詞の原形》(「Oに~させる」)だ。letは、誰かのやりたいようにさせるときに用いる使役動詞で、ここでは「歴史におけるこの重大な瞬間をとらえる」ことは「私たち」が望んでいたこと(望ましいこと)だという文脈がある。同じ使役動詞でも「Oに無理やり(強制して)~させる」場合に用いるmakeとは意味合いが違うので注意しよう。

さて、このシュクラ医師ご夫妻のコメントも、NHSイングランドのアカウントで紹介されている。 

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前置詞のasと接続詞のas, 感情の原因・理由を表すthat節/to不定詞, 接触節, 現在完了進行形など(ワクチン接種初日のロンドンの病院から)

今回もまた、前々回前回に引き続き、イングランドでの新型コロナウイルスのワクチン接種開始についてのNHS (National Health Service) のツイートを読んでいこう。

ワクチン接種最初の1人は、12月8日の朝6時台にイングランド中部の都市コヴェントリーの病院で注射を打ってもらったマーガレット・キーナンさんで、その後さらに2人が同じ病院で接種を受けたが、同じ日のうちにイングランドの各都市で次々と対象者に接種が行われ、各地のNHSから報告が上げられた。

こちらは首都ロンドン南部のクロイドンから: 

この "as" は接続詞か前置詞か、すぐに判断できただろうか。

ここでは、asに続く部分に動詞がない、つまり《as + S + V》の構造になっていない(節を従えていない)ので、これは前置詞である。そして前置詞のasの意味は「~として」。だからここは「ジョージ・ダイアーさんが、ロンドンで最初に接種を受けた人々のひとりとして、歴史を作った」という意味になる。

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