今回の実例は、報道記事から。
ドイツで、極右テロ集団の裁判が始まったとBBC Newsが伝えている。2019年秋にテロ計画が発覚し、2020年2月に集団のメンバーが逮捕され、今回その裁判が開始された、という報道である。ドイツで起きていることを英語で伝える記述だが、そこに「もしもこの集団のテロ計画が実行されていたら」という《仮定法過去完了》のお手本のような一節がある。今回の実例はそれ。
記事はこちら:
続きを読む今回の実例は、報道記事から。
英国のエリザベス女王の夫であるエディンバラ公(フィリップ殿下)が亡くなったことが公表されてすぐの4月9日から10日にかけて*1、英国では物理的に「どこを見てもエディンバラ公」という状態になり、王室廃止論者までもが人が亡くなったことには追悼の意を表している中でも、さすがにうんざりという空気が私の見ている画面内には横溢していた。下記など、ディストピアものの映画から切り出したかのようである。
If this was happening in North Korea we'd mock and laugh but as it happens in Britain we think its normalpic.twitter.com/m5r0ieQsWZ
— The Pileus (@thepileus) 2021年4月9日
Birmingham has replaced all the social distancing ads with this one image, like some dictator's personality cult pic.twitter.com/N1xz4h25ny
— Alex Deam (@someotheralex) 2021年4月9日
サッカーの国際試合の実況中継まで、途中で停止された。「見たい人はTVではなくWebで見てください」っていうふうになっていたそうだ。ただし女子サッカーだ。男子サッカーだったら、国王(女王)の配偶者の死去で、試合実況中継をやめるかどうか……。
England women’s international against France has been taken off BBC TV tonight after Prince Philip’s death.
— Rob Harris (@RobHarris) 2021年4月9日
They’ll show this holding graphic instead on the channel with BBC 4 programming suspended.
Game is still going to be live on the BBC website pic.twitter.com/rhs3DrgDon
前回、英王室で主要な一員が亡くなったのは、2002年。エリザベス女王のお母さんであるエリザベス王太后が101歳で亡くなったのだが、あの時はどうだったのだろうか。第二次大戦を国民と一緒に乗り越えた王妃(当時)として非常に親しまれていた方だったが(人間であり、しかもあのようなお立場の方だから暗い面もあったにせよ)、2002年と2021年とではメディア環境が違いすぎるので比較にもならないかもしれない。2002年は少なくとも、「見たくなければ見なければいい」ということは今より容易だったはずだ(見たいものが放映中止になっているという問題はあっただろうけれども)。インターネットはブロードバンドが導入されつつあったけれども、そんなに常時「つながって」なかったから。
今回、特に公共放送BBCのテレビが、複数あるチャンネルのすべてで通常番組を停止してエディンバラ公追悼番組を流し始めたことは、「怨嗟の声」と言ってもよいようなものを引き起こしていた。当然である。人々はBBCに高いライセンス・フィー(BBCの受信のために義務化されている費用。日本でいう「NHKの受信料」に相当するが、取り立てはより厳しい)を払っている。BBC Oneが追悼番組一色になるだけならだれもが納得するだろうが、BBC Two以下全チャンネルというのは明らかに過剰だ。しかもラジオまでというのだから徹底している。
日本では、うちらのようなある程度の年齢の人は、昭和天皇が亡くなったときのメディアの「自粛」騒ぎ(「自粛」の強要という文化は、新型コロナウイルス禍のずっと前から、この国の一部である)を思い出すだろうが*2、この「BBCがエディンバラ公逝去の話しかやってない」という状態は、「どこの独裁国家だよ」「北朝鮮か」という反応を引き起こした。
WTF! Are we in North Korea now? pic.twitter.com/xGsgeY7Ad5
— james joughin (@JPJoughin) 2021年4月9日
BBCには当然苦情が殺到し、いろいろさばききれなくなったのか、「この件でご意見がおありの方はこちらのフォームにメールアドレスをお入れください。後ほどBBCの公式見解をお伝えします」というページが作られた(その後、このページは消えたようだが)。
今回の実例は、そのことを英国の外から伝える、フランスの通信社(使用言語は英語)AFPの記事から。記事はこちら。
The announcement of Prince Philip's death on Friday set in motion a long-rehearsed change to programming across British television. But the wall-to-wall coverage has left some viewers complaining, particularly on the publicly-funded BBC 📺https://t.co/D8am91XJew
— AFP News Agency (@AFP) 2021年4月10日
*1:この日のログ: https://twilog.org/nofrills/date-210409/asc and https://twilog.org/nofrills/date-210410/asc
*2:といっても私自身は当時あまりテレビを見ていなかったしラジオもあまり聞いていなかったので、具体的なことは体験していないせいかあまり記憶になくて、ただ、昭和天皇の体調が悪化していくなか、日々「下血」のことが「今日の株式市況」みたいな調子で伝えられ、井上陽水が車の窓から「お元気ですか」と言うだけの車のCMが「不謹慎」と叩かれて放送中止になったことだけ、やけに鮮明に覚えている。レンタルビデオ屋は混んでて、どれもこれもみな貸し出し中になってた。
このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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今日の実例はTwitterから。
歴史家で映画監督でコメディアン(「モンティ・パイソン」の一員)のテリー・ジョーンズが亡くなった。2016年秋に希少疾患である「前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia、FTD)」由来の「原発性進行性失語 (primary progressive aphasia、PPA)」にかかっていることを公表し、以後は芸能生活からは引退して、ゆっくりと言葉(自分以外の誰かとの意思疎通の手段であり、自分の考えを表す術)が失われていくこの病気についての啓発活動となるようなことを少し行なっていた。栄誉ある賞を受賞し、トロフィーを受け取っても、何も言葉が出てこないという自身の姿を、臆することなく人目にさらしていた。下記の映像はジョーンズの芸能生活の節目となった5つのポイントを回顧するという主旨で編集されているが、最後の5つ目がその「言葉の失われた状態」の映像だ(再生ボタンを押すとすぐにそこから再生されるように設定してある)。「言葉の人」だったジョーンズのこの姿を見るのは悲痛なことである。何よりも本人が一番、つらいだろう。歩いたり笑ったり、動作でボケをかましたりすることはできて、「言葉」だけ失われていく病気なのだ。
訃報が流れてすぐにTwitterは追悼のコメントであふれかえった。それらのコメントの主には、一般のファンの人たちも、ジョーンズを敬愛する下の世代のコメディアンたちも、映画を作る人たちも、ジャーナリスト、メディア業界人もいたし、ジョーンズと同じ種類の病—―認知症——に関する活動をしているチャリティ団体のアカウントなどもあった。ジョーンズの病気のことは広く知られており、この訃報に、発言者の誰もが純粋な悲しみと故人への敬意を表現していた。
今回実例として参照するのは、そういったコメントの中にあった、非常にフォーマルな形で弔意を示す文面となっているものを2つほど。
まずはアルツハイマー・ソサイアティ:
We're very sorry to hear the sad news that Monty Python star Terry Jones passed away today aged 77. Terry had been living with dementia since 2015 and we fondly remember his support at our Memory Walks. Our thoughts go out to his friends and family. https://t.co/HI3wJW1LY3
— Alzheimer's Society (@alzheimerssoc) 2020年1月22日
続きを読む
このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、ガーディアン/オブザーヴァー掲載の論説記事から。
今回の記事を書いたのはアラン・ラスブリジャー。現在は、オックスフォード大学でマララ・ユスフザイさんが在籍する学寮(コレッジ)の学寮長をつとめ、ロイターのジャーナリズム研究所のチェアでもあるが、1995年から2015年5月までの20年にわたってガーディアンの編集長だったジャーナリストだ。彼の指揮下でガーディアンは紙媒体からネット媒体への切り替えとグローバル・ブランド化に成功し、ウィキリークス報道(2010年から、ウィキリークスがアレな方向に行くまで)やエドワード・スノーデンによる暴露の報道(2013年から)を手掛けた。また、ガーディアンは労働党との関係が深い新聞だが、労働党のブレア政権が推し進めたイラク戦争に際して、開戦前にブレア政権のプロパガンダと同時に、「国際法に照らして違法である」という論説を多く掲載するなどしていたし、開戦後は英軍によるイラクでの人権侵害(拷問、拷問致死など)についても報じてきた。英国内におけるロシアによる暗殺事件など政治的に微妙な案件でも、記者の調査報道を止めたりはしなかった。つまりいろいろとパネェことをやってきた「恐れ知らず」のジャーナリストだ。
そのラスブリジャー前編集長の大きな業績のひとつが、今は廃刊したタブロイド紙、News of the World紙(The Sunの日曜版)による違法・不法な電話盗聴についての調査報道だった。今から約10年ほど前のことである(→詳細)。このルパート・マードック傘下のタブロイドの盗聴のターゲットとなり、プライバシーを侵害されていたのは王族や著名人(芸能人、スポーツ選手など)、そして全国的に関心を集めた刑事事件被害者といった人々。そしてこの盗聴疑惑は、2011年から12年にかけてより広範に「マスコミの取材活動一般」について行われたレヴェソン・インクワイアリーへとつながっていくが、このインクワイアリ―の結果は「骨抜き」と言うよりないようなもので(マスコミ業界の自主規制のための業界団体ができたのだが、深刻なプライバシー侵害を律するようなものではない)、このときに指摘されたような問題はおさまっていない。2020年早々世界を騒然とさせたハリー&メガン(メーガン)の「離脱」問題の根は、(王室内での「いじめ」とかではなく)こういうところにある。
……とざっくり書いてきたが、細かいことを書こうとしたらきりがないのでざっくりしすぎな点はご寛恕いただきたい。そもそもハリー王子のお母さん(ダイアナ妃)はイギリスのマスコミの過剰な報道の被害者だったし、お兄さん(ウィリアム王子)もそうだ(ウィリアム王子の妻であるケイトさんは悪質な盗撮被害にあっている)。パパラッチがダイアナさんを追いかけ回していた時代より今はさらに「セレブ・カルチャー」が進んでいて、ああいった「セレブねた」の消費者の要求も高まっているのだろう。私は個人的に英王室に興味があるわけではないので普段は観測範囲にも入ってこないのだが、ハリー王子がこういうことになってみるとあれこれ目に入る機会が増え、そうして接することになったどこかの誰かの発言やメディアの記事の見出しに唖然とすることも増えた。
そういった「騒ぎ」の背景にあるのが何なのかについて、人々は「報道されていること」に基づいて、ああだこうだと自分の意見を言っているが、その「報道されていること」は、起きていることのすべてではない。タブロイド紙は自身に都合の悪いことは報道していない。それを指摘しているのが今回のラスブリジャー氏の記事である。
記事はこちら:
この記事の性質については、下記のようにいろいろな人々がまとめている通りである。英国のタブロイドが自分たちに都合の悪いことを伏せて書き立てていることを断片的につなぎ合わせたような日本の女性週刊誌やTVワイドショーの「(自称)報道」だけを見て「ハリーが悪い」みたいなことを知った顔をして述べる前に、知っておくべきことがあるわけだが、それを知るために読むべき記事があるとしたら、この記事だ。読みながら「これ、暴露しちゃって大丈夫なのかな」と思わなくもないが、大丈夫なのだろう。
Our biggest story of yesterday in terms of scale, but also one of the most deeply read, was @arusbridger providing essential context for the media's behaviour towards Harry and Meghan https://t.co/kK5LkNstoo
— Chris Moran (@chrismoranuk) 2020年1月20日
The real Harry and Meghan story is the scandalous behaviour of the press. Read this to understand reason why the royals are demonised. Great stuff by Alan Rusbridger. https://t.co/b71zsGi6ux
— Matt Haig (@matthaig1) 2020年1月19日
Alan Rusbridger on the bone-deep corruption (and continuing, but largely unseen, phone-hacking scandal) in the British tabloid press and how it has poisoned public discourse in the UK https://t.co/RfGps5ZgN0
— Liam Stack (@liamstack) 2020年1月19日
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今回の実例は、何にするか、今これを書き始めているときにはまだ見えていない。本エントリは、「たまたま文法事項が入っているのを見かけた記事を実例として取り上げる」のではなく、本来は本家ブログで書くべきところを、本家に合うトーンで仕上げようとするときっと書かずに終わってしまうから強引に「英語の実例」を素材として書くということを試みるものである。全体の設計図は頭の中にあり、どこに着地するかもだいたい描けているのだが、具体的に言葉にするのに時間がかかっている。何より、事態が進展中だから、書くよりも事態を追う方に意識が向いているのだ。ともあれ。
北アイルランドの事態が急速に悪化してきている。「思春期の若者たちのいつもの大暴れ」――recreational riot(ing)と呼ばれているようなもの――ならここまでエスカレートする前に誰か「影響力のある人物」(これは北アイルランド独特のユーフェミズムで、柔らかく言えば「地域社会の顔役」のことだが、それがどういう人物かは、武力紛争当事者たる武装組織を社会のファブリックの一部として織り込んでいる社会のことゆえ、だいたい察しがつくだろう*1)が、ニュース記事にならないようなところで「はい、もうそこまで」という指令みたいなのを出すのだが、今回はそういうこともなく、所謂「プロテスタント」と所謂「カトリック」の両サイドの若者たちが、直接ものを投げ合うところまでエスカレートした。
以下、「プロテスタント」「カトリック」「ロイヤリスト」「リパブリカン」「ユニオニスト」「ナショナリスト」などの用語については、下記をご参照いただきたい。
北アイルランドでは、両派を分ける分断 (divide) のそれぞれの側で、若者たちが(多くの場合、「ディシデント dissidents」と位置付けられる大人たちの庇護のもとで)暴れることはよくあるが(だから、 "loyalist riot" 「ロイヤリストの暴動」、 "republican riot" 「リパブリカンの暴動」という言い方は、現地報道でもよく出てくる)、両コミュニティの境界線を越えて暴動が連鎖することは、ここ数年――というかBrexitの投票の前年から――はなかったはずだし、ましてや両コミュニティが境界線を挟んで直接にらみ合い、ものを投げ合うということなどなかった。事態がそこまでエスカレートしたのは、ひとえに、リーダーシップがないからだ。
今回、Twitterのハッシュタグで#NorthernIrelandRiots (= Northern Ireland Riots) というのが出てきているのを見て、私は「なんというブリテン*2目線」と目を白黒させてしまったのだが、事態が激化してブリテンの政治家たちも懸念の表明などを行うようになると、ニュースが北アイルランドだけにとどまらなくなり、そういったニュースでは「北アイルランドのどこで暴動が起きているのか」よりも「北アイルランドで暴動が起きていること」をメインとして伝えるから、このようなナラティヴの表層雪崩的な横滑りみたいなのはどうしても発生する。個人的には、もう何年も前から使っている北アイルランドのジャーナリストや報道機関のアカウントのリストで情勢を追っている。
#NorthernIrelandRiots 何このハッシュタグ。こんなふうに大炎上する前からNIのリストで情勢を追ってるけど、こんなハッシュタグ、初めて見るよ。いかにもメインランド目線だけどね。現地の人ならNIでひとくくりにしてRiotsという語り方はしない。そもそもriotという語すら政治性を帯びている。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年4月8日
*1:これがアジアでのことならば、あれらの人々は必ずwarlordと呼ばれていたはずである。
*2:「ブリテン」は北アイルランドでは「メインランド」とも呼ばれる。正確に言えば北アイルランドのユニオニスト側、つまりデフォルトの側では。ナショナリストの側ではこれを「イングランド」と呼ぶこともあり、実際にスコットランドやウェールズを除外してイングランドのことを言っていることもあるのだが、ブリテンの側が今はそんなふうにかっきりきれいに分かれていないので、非常にややこしい。
このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は報道記事の見出しから。
これまた前回の《前置詞+whom》と同じく、少し前の日本で流行っていてまだまだ支配的といえる力があるらしい「英文法不要論」の立場からは「教えなくてもいい英語」と扱われていたものだが、実際には、普通にがんがん使われている。
記事はこちら:
トピックは、最近日本でも大注目の*1ハリー王子(サセックス公)の「引退」。ハリー王子は、日曜日(19日)に「引退」表明後初めて公の場でスピーチをおこない、その内容が報道されている。
*1:都内のコンビニの雑誌コーナーで見かけた女性週刊誌の表紙に、非常に毒々しいメガン(メーガン)disの言説のカケラを見て、思わず目を逸らしたんだけど。
このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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今回は変則的に、センター試験で取り上げられていた文法項目から。
センター試験の英語は、第2問が文法・語法問題である。第2問Aが単純な空所補充で、第2問Bが整序英作文(並べ替え)だ。Aの方は特に解説すべきこともないような、つまり解答する立場だと、知らなければどうしようもないような問題が多いので見た瞬間わからなかったら捨てるようにした方がよいものが多いのだが、Bの方は習った文法の知識を使って考えれば解ける場合がほとんどなので、ぱっと見てわからないと思っても、早々と諦めてしまわずに少し考えて、積極的に点数を取りに行きたい設問である。
今年のセンター試験(2020年実施)では、この整序英作文が3問あって、どれも平易だった。1問目は絵にかいたように美しい仮定法過去完了で、仮定法をかなり多く取り上げている当ブログを読んでくれていた受験生がもしいたら、内心、ガッツポーズだっただろう。
そして2問目。《前置詞+関係代名詞の目的格》で、選択肢にwhomがあった。Twitterでこのwhomについて「もう使わないという風説が流布されている」との指摘があり、その後、私の観測範囲で多少ざわついたのだが、私の知っていることでいえば、かつての「受験地獄」時代への批判がなされた時期(いわゆる「ゆとり教育」の時期)に、「詰め込み・暗記への批判」から、「whomなんてのはもう使わないのだから、教えるのをやめたほうがいい(知らなくても構わないような単語を生徒に暗記させるのはやめるべきだ)」という言説が出てきていた。だがそのような言説のいう「もう使わないwhom」は、文の中の目的語のwhomで、前置詞の目的語となっているwhomはそれとは別だ。
「文の中の目的語のwhom」とは次のようなものである。
John is the man whom I met at the business conference in Paris.
こういうwhomはもうめったに使われない。それ以前に目的格の関係代名詞なので省略されることが多いのだが、もし関係代名詞を書いておくならばここはwhoにすることがほとんどだろう(thatを使うこともあるかもしれない)。
John is the man (who) I met at the business conference in Paris.
これとは別に、「前置詞の目的語となるwhom」がある。これはwhoで代替することはない。
John and Steve, both of whom are from Boston, have been teaching English in Japan for more than three years.
今回のセンター試験で出題されたのは、こういうwhomである。
続きを読む今回の実例は、報道記事から。いやあ、あの作業を最初ずっと1人でやっていたとは、この報道を見るまで、知らなかった。というか、複数台の作業車があるのが、たまたま写真では1台しか写っていないのだと思っていた……。
というわけでいきなり本題。「あの作業って、どの作業ですか」と思われただろうが、写真を見ていただくのが一番早い。これですよ、これ。
"I feel profoundly proud of what I did. I hope you all are proud of me as well." Meet the excavator operator who helped unblock Suez Canal https://t.co/khwAyUwsuJ
— The National (@TheNationalNews) 2021年4月5日
「スエズ運河を再び通れるようにするために貢献したショベルカーの運転手にインタビューしました」というこの記事のフィードは、The Nationalという英語メディアのフィードである。
The Nationalという媒体は世界でいくつかあるのだが、そのひとつがUAE(アラブ首長国連邦)の英語メディアで、本拠はアブダビにあり、中の人たちは英国や米国の大手メディアで仕事をしてきたジャーナリストたちが多い。編集長はミナ・アル=オライビさんという女性のジャーナリストで、イラク系英国人である*1。
Twitter cardの部分に示されているように、あのショベルカーを運転していたのはAbdallah Abdelgawadさん(「アブダラー・アブデルガワド」さんとお読みするのだと思う)。彼はスエズ運河の保守管理をする会社で契約社員(あるいは日雇いの作業員かもしれない)として働いていて、月収は3000エジプト・ポンド、米ドルに換算して190ドルだそうだが、日本円に換算すると21,000円くらいだ。エジプトの水準でも決して高給取りというわけではないだろう。コンテナ船エヴァー・ギヴン号が座礁した日の朝、彼がいつものように出勤すると、「船が座礁しちゃったから今日は現場には入れない」と言われて、いったんは会社の寮に戻ったのだそうだ。その後、彼個人に電話があって、他の部分の作業と並行して、船首の周囲の土砂をショベルカーで除去する作業をやるように依頼されたのだという。たぶん、ショベルカー運転の技術が高い人なのだろう。
で、そういう場合、作業チームを作って複数でローテーションを組むものだと思うが、当初なんとその仕事を割り振られたのは彼一人*2。その後、アブデルガワドさんはごく短い睡眠時間しかとらずに、あの巨大な船がいつグラっと傾いたりしてつぶされてもおかしくないという過酷な環境の中で、あの大変な作業を乗り切った。
記事はとても読みやすく、英語も難しくないので、ぜひ全文を読んでいただきたいと思う。TV番組になりそうな話だ。
*1:イラクのサダム・フセイン政権時代に国外に亡命した人々の子供で、亡命先で教育を受けて大人になった人々には、ジャーナリストや学者になっている人がけっこういるが、アル=オライビさんもその世代の方ではないかと思う。
*2:というか現場はその日その日を契約して仕事を請け負っている労働者ばかりで、もはや「作業チーム」など組める体制ではないのかもしれない。エジプトだって日本やそのほかの国と同じように、現場が「ギグ・エコノミー」化しているのかもしれない。
今回の実例は、報道記事から。
3月23日、エジプトのスエズ運河を航行中の巨大な(東京ドーム2個分の長さがある)コンテナ船が運河を斜めにふさぐようにして座礁し、スエズ運河の機能が停止してしまうということが起きた。座礁した船は、ネット上でミーム化しつつ、エイプリルフールのジョークのネタとして仕込まれつつ、約1週間後にようやく離礁に成功して、スエズ運河は機能を回復したが、この座礁が引き起こした洋上の大渋滞が解消するにはさらに数日かかり、立ち往生させられていた船が運河を通過したのは、座礁発生から約10日後のことだった。座礁発生後に運河の入り口のあたりに到着した船も行列に並んでいるので、平常の状態に戻るにはまだ数日かかるのだという。これで生じた損失は、日本円にして1100億円を超えるとも。
というわけで、年度末の10日間ほどをこのニュースに釘付けになっていた方も少なくないと思われるが(おつかれさまです)、事態が落ち着いたころにBBC Newsが伝えた下記のニュースは、何とも頭の痛くなるような内容で、それでいて当事者はとても前向きで力強く、なおかつ英語としてとても読みやすく、長文多読素材として好適である。ぜひ全文を読んでみていただきたい。
記事見出しの《コロン (:)》は、発言者と発言内容を区切る用法で使われており、 "Marwa Elselehdar" は人名である。このマルワ・エルセレーダーさん(とお読みするのだと思う)はエジプトで女性として初めて船長の資格を取った方で、それゆえに大統領に表彰されるなど目立った存在だった。そして、性差別(sexism)が激烈な社会では、そういうふうに「目立つ女」(最近の日本語圏の流行語でいえば「わきまえない女」)はとりあえずそしられ、叩かれるのが常である。と書くと「男だって云々」論者がわいてくると思うが(そして私はその論は一概に退けられうるものではないという考えではあるが)、あと30分以内でこのエントリを書き上げねばならないから、そこらへんは今は措いておいて先に行く。
続きを読むこのエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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センター試験の前日なので、今日は文法用語とかの出てこない、読んでも読まなくてもいいような軽い読み物という感じで。
今からほぼ1か月前、2019年12月12日に英国では総選挙(下院議員の選挙)が行われ、ボリス・ジョンソン率いる保守党がバカ勝ちした。英国会はその翌週にはクリスマス休暇に入り、年が明けて1月になってから再び審議が行われている。
そこでの審議の内容などはニュースを見ていただくとして、英国下院では慣例として、毎週水曜日の正午からの時間帯に「首相質問 the Prime Minister's Questions」が行われる。The Prime Minister's Questionという言い方では、首相が質問する側にいるように解釈するしかないように思うが、実際、正式には「首相への質問 the Questions to the Prime Minister」と言うのだそうだ。詳細は下記ウィキペディア参照。
これは英語圏では「各単語の頭文字を取って略語とする」というおなじみの方法で略語化されており、広く一般にPMQsと呼ばれている。Twitterでは毎週、現地で午後の時間帯になると #PMQsというハッシュタグがTrendsの上位に入ってくる。
ここでは質問に答えるのは首相で、質問をするのは議員たちである(日本語では英国のPMQsのことを「党首討論」と呼ぶが、不正確である)。開かれた討論なので、所定の手続きを踏めば平議員でも首相に直接質問をぶつけることができるのだが、最も主要な部分は、英語で the Opposition と位置付けられている政党、つまり「最大野党」の党首と首相との間で行われる質疑応答である。野党党首の質問が終わると、第3党の議会でのリーダー*1が何問かの質問をおこない、そのあとは与野党問わず議員たちの質問と首相の応答がおこなわれる。基本的に一問一答の形式で、話題は多岐にわたり、「私の選挙区ではかくかくしかじかという問題が起きており、全国的に報道もされている。これについて首相はどうお考えか」といったような質疑応答が次々となされる。英国について基本的な知識のある人なら、リスニングの練習に使えるはずだ。
野党党首は、通例6つの質問を用意してこのPMQsに臨む。この質疑応答にはけっこう長い時間がかけられ、そこでは華麗な弁論術がこれでもかこれでもかとばかりに見せつけられるのが常ではあるが、最近はいろいろとひどいので、首相の側がひたすら「うんこー」と繰り返しているに等しいようなこともある*2。
現在の最大野党党首である労働党のジェレミー・コービンは、何十年も国会議員をやってきて議論・討論は(オックスフォード仕込みの派手なレトリックは使わないにしても)基本的に手堅く上手い人で、首相を相当なところまで追い込んだこともあったが、12月の選挙の結果があれでは、まあどうしようもない。
……ということを前置きとして、今回の記事。The politics sketchという、英国の新聞によくある「政治・政局・政況点描」といった趣のコラムで、ジョン・クレイスという名物記者が書いた、軽妙な筆致と皮肉なトーンが売り物の文章だ。読解教材としてはやや難度が高いのだが、今回は単語だけ見るということで、これを素材とすることはお許しいただきたい。
*1:必ずしも党首とは限らない。スコットランドのSNPは、党首がウエストミンスターの議席を持っていないので「党首」ではなく「ウエストミンスターの議会のリーダー」が質問に立つ。
*2:日本の国会で自民党の総裁である首相が、立憲民主党の議員に対して「きょーさんとー」とヤジってニヤニヤしていたが、このような「左翼嫌い」が身内で受けるエンタメとして定着、みたいなことは英国でも見られることで、っていうか英国の場合それを身内だけでなく表でやるようになっててひどい。
このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例はビジネスニュースに関連した記事から。
1990年代半ば、Windows 95が登場して人々がインターネットというものに接するようになったころに社会に浸透したのが、支店を持たず、航空券が買えるのはインターネットと電話のみで、機内食などは有償提供となる「格安航空」というビジネス*1だった。特に欧州の諸都市を行き来する、せいぜいが数時間程度の便では、通常の航空会社のサービスは過剰でもあり、そういう特に要らないサービスがない分、費用が安く済む格安航空は、出張や休暇旅行、スポーツ観戦旅行などで人々の第一の選択肢として定着している。(以上、とてもざっくりした説明なので、より正確なところはウィキペディアの項目などをお読みいただければと思います。)
英国の格安航空といえばeasyJetが一番有名だろう。お隣アイルランドの会社であるRyanairも英国でよく利用されている。そしてもうひとつ、正確には「格安航空」とは言えないが料金面では格安の会社がFlybe(フライビー)だ。
Flybeは結構歴史があり、元々は1979年にJersey European Airwaysとして設立された。その後いろいろあったあと、2000年に「ブリティッシュ・ヨーロピアン・エアウェイズ (BEA, British European Airways)」となり、2002年に現在の社名となった。その後、英国航空(BA)の近距離便の多くを引き継いで運航することになり、easyJetやRyanairを超えて英国では国内線で最も大きなシェアを持つようになった。拠点はイングランド南西部、デヴォン州のエクセターだ。下に地図を貼っておくが、デヴォン州の西隣にあるのが、今回の実例の記事に出てくるコーンウォール州である(本エントリのアップロード時に、下記、地図の貼りこみを失敗していたのですが、アップロードから3時間ほど後に修正しました。お見苦しくてすみませんでした)。
Contains Ordnance Survey data © Crown copyright and database right, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
このFlybeという航空会社は、大きなシェアを持ち、つまり人々の足として社会の中で重要な役割を果たしていながら経営状態が芳しくなく、2019年にはヴァージン・グループ傘下に入り、2020年早々に社名の変更が予定されていた。だが、実際にはそれ以上に経営が悪化していて、2020年1月も前半の段階で、経営破綻が危惧されるようになっていた。最終的には15日に政府の救済策が閣僚たちの合意を取り付けて(閣議決定されて)、当面の危機は回避されたのだが、今日見る記事は、そういう展開を見せる前の記事。こちら:
*1:「格安航空」自体はそのずっと前からあるにはあったが、庶民が休暇に出かけたりする際に第一の選択肢となるようになったのは90年代半ば以降だ。欧州ではネットの普及のほか規制緩和の流れなどもあり、この動きが促進された。
今回の実例は、Twitterから。
昨年、2020年5月、米ミネソタ州ミネアポリスで、ジョージ・フロイドさんという男性が警察によって取り押さえられている間に死亡した。いや、「警察によって取り押さえられている間に死亡した」のではなく、「フロイドさんを強引に押さえつけている警官が彼を殺害した/殺した/死なせた」、と書くべきだろう。
この事件は、その後、全米各地でのBlack Lives Matter運動のうねりを引き起こし、各地でデモが行われ、そして日本では、ほぼすべてと言えるくらいのデモが平和的な抗議行動だったにもかかわらず、報道写真や映像などを根拠に「暴動」云々というネガティヴなイメージだけをしたり顔で語る人々が、それこそインテリ層の中にも、数的・質的に無視できない程度に出現し、中には「左翼が組織する広範で組織的な暴動」といったことを言い出す人までそこらへんにごろごろし始めるありさまだったが、それらの人々のうちかなり多くが、11月の大統領選挙では不正がどうたらこうたらで本当に勝っていたのはドナルド・トランプだと信じていたりしていたことだろう。私はああいう方面にはアンテナを張っていない*1から雑な把握しかしていないが、丁寧な把握などする必要もないことである。ちなみに、私自身も「BLMを支持する左翼」云々という言いがかりをつけられているわけだが、これは右翼・左翼の問題ではなく、普遍的人権(生存権)の問題であり、フロイドさんに起きたことは「生存権」とかそれ以前の、シンプルに「人を殺すな」という言葉で語られるべきことである。
さて、このフロイドさんの死をめぐって、現場にいた警官たち4人の中で唯一起訴されているのが、うつ伏せになっていたフロイドさんの首を約10分間にわたって(そのうち約9分間は、フロイドさんは息があった)膝で押さえつけていたデレク・ショーヴィン被告である。裁判は今年3月8日に開始され、事件を目撃していた人々など大勢の証言が行われる。
それら証言者のひとりの発言を引いた報道のフィードが、今回の実例。とても、とても重い実例である。
"If I'd have just not taken the bill, this could have been avoided"
— BBC News (World) (@BBCWorld) 2021年4月1日
A shop employee says he feels "disbelief and guilt" because he reported George Floyd to his manager for allegedly using a counterfeit $20 bill https://t.co/XqxKzn5d1I
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今回の実例は、前回の続きで、SNSと距離を取ることにしたティエリ・アンリのインタビューでの発言より。アンリがどういう人かなどの説明は、前回のエントリをご参照のほど。今回はさっそく本題に入ろう。記事はこちら:
なお、今回はぜひ、この記事ページに埋め込まれている映像でアンリが語っている音声を聞いていただきたいと思う。発音には、アンリの母語であるフランス語の影響はもちろんあるのだが、それはあまり強くはなく、さらに、発話のペースは英語として非常にナチュラルなものである。また、BBC Newsの記事の文面は、アンリの発言をそのまま文字化したものではなく、多少「文章整理」的なことが行われており、元発言にある語が省かれている部分があったりもする(そういう加工はほとんど加えられていないと言える程度だが、無編集・無加工ではない)。
続きを読む今回の実例は、インタビューでの発言から。
ティエリ・アンリといえば、1990年代終盤から2000年代にかけてのサッカー界のスーパースターのひとりである。2014年に現役引退したが、フットボーラーとして一番の時期に在籍していたイングランドのアーセナルでは今も「キング」であり、多くの人々の尊敬を集めている。
その彼は、現役時代からサッカー界の人種差別という問題に取り組んできた。2004年に代表戦で相手となったスペインの(よりにもよって)監督から、黒人であることで侮辱的な言われようをしたことがきっかけで、スポンサーのNikeと組んで、Stand Up Speak Upという人種差別反対のキャンペーンを開始した(これは組んだ相手がNikeだったことで批判も受けたのだが)。
アンリが現役だったころのフットボール界での人種差別、特にフランスでのそれについては、陣野俊史さんの下記の本に詳しい。
そのアンリが、先日、人種差別発言の横行を理由として、ソーシャルメディアから離れること (removing himself from social media) を宣言した。TwitterもFacebookもInstagramも全部(一時的に)やめてしまうという。Twitterでも、長文をスクリーンショットで投稿する形でステートメントが出されていたが、アンリのアカウントはそのツイートも含め過去のツイートが全部削除されて「跡地」の状態になっているので、その文面はもう参照することができない*1。ただ「ソーシャルメディアから離れる」という宣言のツイートそのものの文面は、私がはてなブックマークにメモしてあったので、前半だけ見ることができる。人種主義が絡んだ話になると日本語圏ではことが面倒になることがあるのだが、こういうことについては事細かに「エビデンス」を要求する方々には、それをもって、アンリがSNSをやめたという事実確認の根拠としていただきたい*2。
今回の実例は、そういう決断をしたアンリにそれについてインタビューしたBBCがまとめた記事から。記事はこちら。
なお、アンリはフランス出身のフランス人だが、イングランドで長くプレイしていたし、現役引退後はイングランドのTVでサッカー解説の仕事をしていたこともあり、英語は「ネイティヴ話者なみ」である。
*1:個人的には手元に保存してあるが、アンリ本人がネットから削除してしまったのだから、これはこのまま手元に置いておくだけにする。
*2:ついでに言うと私はもっと具体的な、ツイートそのものも保存してあるし、実はネット上でもアーカイヴはされているのだが、アンリ本人が既にネットから削除してしまったものについてここで取り上げることは差し控える。
今回は、本家のブログを書いていたので、こちらの英語実例ブログはお休みします。
本家のブログである文章の全文を英日対訳で示してあるので、よろしければそちらをご覧ください。《関係代名詞》《付帯状況のwith》などが入っています。ただし、日本語の訳文は参考書の流儀ではなく普通の流儀で作ってあり、それら文法事項について理解が深まるように考えてあるわけではないので、英語学習という目的で見るならば、私がつけた日本語版は見ずに、英語版だけを見たほうがよいかもしれません。