今回の実例は、5年前、アメリカの西海岸でヒトデが大量死していると知ったアーカンソー州の小学生が「何とかしなければならない」と立ち上がり、自分たちでTシャツを作って売るなどして集めた資金を使って着手されたコーネル大学とカリフォルニア大デイヴィス校の研究が1本の論文としてまとまり、今回学術誌に発表された、という記事から。
ちなみにアーカンソー州は内陸で海に接していない。そこの小学生たちが海の生き物の危機を何とかしたいと動いたことに、大学の研究者はたいへんに感動して、寄付されたお金と同額の自分のお金を合わせ、さらに寄付を申し出た人がいたことから、今回の研究が実現したそうだ。
結論から言えば、この研究の結果はかなり厳しいもので、ヒトデを救うことには直接はつながらない。だがこの研究によて得られたデータを解析することで、大量死の規模についてより多くがわかってきたという。
この大量死を引き起こしているのは「萎縮病 (wasting disease)」で、メキシコからアラスカにかけての海域で20以上の種に影響を及ぼしている。耐性の高い種もあれば、生き残れるようになってきた種もあるという。
先行の研究で、この病気の大流行には気候変動による水温の上昇が感染リスクを高めていること、病気にかかったヒトデが死ぬまでの時間が短くなっていることが指摘されていたが、今回の研究でさらに、被害の大きなある種の間で流行しているウイルスと、例外的に高温になっている海水域との関係がわかったという。
このような危機的な状況を受けて、研究者が述べている言葉が、今日の実例の文。
“It’s really vital that something be done,” Harvell said.
引用符の中は「何かが為されることが、本当に決定的に重要です」という意味だが、ここではvitalに続くthat節の中で、動詞が(現在形や過去形ではなく)原形のまま使われている。
これは、以前説明したように《仮定法現在》である。
《It is ~ that ...》の形式主語の構文で、《~》のところにimportant, neccessary, crucial, essential, vital, properなど、「必要・重要・妥当」を表す形容詞が来ている場合、that節の中で動詞の原形(仮定法現在)が用いられる。
今回の実例の文を英作文しようとすると、現在形や助動詞willを伴った形 (It’s really vital that something is/will be doneなど) にしたくなるかもしれないが、そうではなく原形を用いるということがポイントだ。
以前も書いたことだが、この仮定法について、江川泰一郎は『英文法解説』において次のように説明している。
先行する動詞・形容詞の意味から考えて、that節の内容が《事実》を述べるものではなく、話者の心の中で想定された事柄を表すからである。
(江川泰一郎『英文法解説』、p. 251)
なお、この仮定法について、参考書などでは「動詞の原形の直前にshouldが省略されている」と説明されることが多いが、実際にはここで用いられる動詞の原形そのものが《仮定法現在》であると考えたほうが、英文法というものを考える上ではよい。
ただし、ほとんどの受験生・英語ユーザーは英文法というものを考える立場にはならないだろうし、そうであるならばこの違いは過剰に気にする必要はない。
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