Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

他動詞のrun, 接続詞のas, 省略(日本軍の性暴力の被害者となったオランダ人女性)【再掲】

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このエントリは、2019年9月にアップしたものの再掲である。過去形で語られることをただ読む(つまり「他者の話を聞く」)ということのよい練習になるだろう。ただし、性暴力の体験談だから、読める気がしないという人は無理に読まないようにしてほしい。

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今回の実例は、第二次大戦で日本軍による戦時性暴力の標的とされ、連夜レイプされ続けたオランダ人女性のオビチュアリーから。

「オビチュアリー」というものについては以前ざっくりと説明したが、功績のある誰かが亡くなったあと、その人の人生や成し遂げたことについてまとめた長文記事である。日本の新聞に出る「死亡記事」や「訃報記事」に比べればずっと長く、情報量も多いこういう記事が、英語圏のメディアでは、著名人の死に際して、出るのが通常である。

 

さて、今回の記事は米ワシントン・ポスト (WaPo) から。これは、ご一読いただければわかるのだが、英デイリー・テレグラフ (DT) のオビチュアリーを参照して書かれており、当ブログでもDTを参照すればよいのだが、DTの記事は読者登録してある人にしか閲覧できないようになっているので、ここで参照することははばかられる(当ブログを読んでくださる方に、DTの読者登録を強制するような形にになるからだ)。一方、WaPoの記事は登録などしなくても普通に閲覧できるので、こちらを参照することにした。

beta.washingtonpost.com

 

記事をずっと読んでいって、けっこう下の方。オランダ支配下にあったジャワ島(現在のインドネシアの一部)が日本に占領されたあと、家族ともども収容所に入れられていた当時21歳のジャン・ラフ・オハーンさんが、「選り抜きの若く見た目の良い女子10人を別の場所に移す」という日本軍の方針で、あるとき突然収容所の家族から引き離され、別の施設に送られたあとの描写から。

 

【Trigger warning】この記事には、性暴力について、たいへんにつらい描写が含まれています。当ブログで取り上げる部分にもそういう描写があります。そういうのを目にすることでつらい思いをしてしまう方、普段は記憶の中でふたをして封じ込めているものがよみがえってしまう方は、お読みにならないほうがよいかもしれません。

この先、「続きを読む」は、読んでも大丈夫そうな方のみ、お読みください。

 

施設到着の翌日の夜、ジャンさんたちは食堂に集められ、恐怖に震えながらうずくまっていたが、抵抗しながら1人ずつ引きずり出され、寝室に連れて行かれてレイプされる。そのときのことを語ったジャンさんの言葉が、WaPoのオビチュアリーでたっぷり紹介されている。

連れていかれたジャンさんを、日本軍将校は日本刀を掲げて「言うことを聞かねば殺す」と脅す。ジャンさんは部屋の隅にうずくまり、抵抗する。

f:id:nofrills:20190903041902j:plain

2019年8月28日、The Washington Post

He ran his sword all over my naked body and played with me as a cat would with a mouse.

太字で示したrunは他動詞(目的語がある)で、直後のhis swordが目的語。《他動詞のrun》は「会社を経営する」とか「組織を運営する」といった意味で頻出だが、そのほかにも、例えば「本のページの上に指を走らせる」といった「何かを素早く動かす」という動作にも用いる。ここではジャンさんをレイプした日本軍将校は、彼女の裸の体の上に、日本刀を走らせたのだ。

 

下線で示したasは《接続詞のas》で、ここでは意味は「~するように」。下記例文のasと同じだ。

  Do in Rome as the Romans do. 

  (ローマにおいては、ローマ人が行動するように行動しなさい=郷に入りては郷に従え)

 

 

また、このasの節ではwouldの直後に前置詞が来ているが、このような単語の並び方をすることは通常ない。こういう場合は、wouldの直後に動詞の原形の《省略》があると考える。何が省略されているかを確認するには、先行する部分(主節)を見ればよい。次のように見えるはずだ。

He ... played with me as a cat would with a mouse.

つまり「ねこがねずみをもてあそぶであろうように、彼は私をもてあそんだ」という文意。

 

ジャンさんのこの回想は、過去に自分の身の上に何が起きたかを淡々と過去形で述べているだけで、文法的には特に難しいところはない。しかし内容が内容だけに、読むのはかなり難しい。

 

ジャンさんはオランダ支配下インドネシアに生まれ育ったが、第二次大戦での苛烈な経験のあと英軍兵士と結婚し、オーストラリア(英連邦の一部)に居を定め、そこで亡くなった(夫は既に1995年に他界している)。ジャンさんは、親にも夫にも何があったかをすべて語ることはできなかった。

カトリックの信仰を強く持ち、将来は修道女になりたいと考えていたジャンさんは、日本軍の「慰安所」に連れていかれてから3か月後に収容所に戻されたが、「慰安所」で何があったかを話せば家族を殺すと脅されていた。誰にも言えない秘密を持ち続けることはとてもつらいことで、彼女は神父に告白した。神父は彼女に「そういうことなら、修道女になることは諦めなさい」と告げたという(ああ、カトリック教会!)。

今回見ているオビチュアリーにはそういったことも書かれている。ぜひ、ご一読いただきたい。

なお、WaPoのこのオビチュアリーが参照している英DTのオビチュアリーは、日本語訳が読めるようになっている。そのURLを含むツイートを以下にエンベッドしておくので、そこからたどってお読みいただければと思う。

 

 

 

  

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