土曜日なのでいつもは過去記事の再掲だけど、今週は新規で。
米大統領選で現職の反応がめちゃくちゃなことになっていることは既報の通り(日本語圏でこれが「めちゃくちゃ」であることが十分にわかりやすく報じられているかどうかは、英語でしか情報を得ていない私は知らない)。
特に、遅れて開票が進められた郵便投票の結果が出始めて、当初優位だったのが*1揺るぎ始めたとたんに「開票をやめろ!」と、仮にも米国の大統領の座にある者が、Twitterでわめいたことは、アメリカのデモクラシーを少しでも信じている人々をドン引きさせ、嘲笑の渦に叩き込んだ。
Twitter上の日本語圏では、まっとうな知識のある方々が、米国の事情にうとい日本語話者のために、日本語で解説をしてくださっている。実にありがたいことだ。
トランプ氏の根拠無い開票集計不正の主張に対して、多くの人達(今朝のNHKニュースさえもあやしい)が誤解していそうだけど、投票日の後に受け入れる票というのは、投票日までに投函され消印付いた郵送票。トランプ大統領任命の郵政長官が郵便が遅れるよう「画策」したので到着が遅れただけの正当票。 https://t.co/Qc95Hmp1qI
— Norio Nakatsuji (@norionakatsuji) 2020年11月4日
念のため追記。今すでに開票と集計が終わって、バイデン氏を優位に変えた票の多くは、投票日までに開票所に到着していたが、封筒を開けて確認する作業などで集計が遅れただけの、完全な有効票だろう。これまでの大統領選挙でも同じやり方だった筈だが、今回は郵送票が大幅に増加したという事だけの話。
— Norio Nakatsuji (@norionakatsuji) 2020年11月4日
決められた時間までに郵便投票を出せば選挙終了後に届いても投票は有効です。だから時間がかかるのです。有権者なら投票所に行くか郵便で投票するかを選べます。大統領が票を数えるのを今すぐやめろと言うのは、郵便投票をした有権者に民主党支持者がたくさんいることを知っているからだと思われます。
— さかいとしゆき (Sakai Toshiyuki) (@SakaiToshiyuki0) 2020年11月6日
さて、この「開票をやめろ!」に対して「開票しろ!」という声が上がることは想像に難くないと思うが、実際に出てきたそのスローガンが、全英語教師の目をキラっと輝かせるに相違ないものだったので、今回取り上げてみることにする。
こちら:
Every vote counts
Count every vote
同じ単語で構成された2つの別のスローガン。端的に言っておしゃれ、という印象だが、要はシャレだ(言ってることの意味がわからない? 私にもよくわからない)。
簡単なようだが、英語の文法にしっかり従って読まないと、正確な読解ができない。それぞれのcountの意味の違いも重要だ。
まず、上の段。
Every vote counts
「それぞれの」「すべての」の意味のeveryという形容詞は、そのあとに来る名詞が単数形になる、ということは、everyという単語を習うときにセットで教わることである。だから、everyのあとは単数形のvoteが来て、そのあとの動詞のcountには《3単現のs》がついている。
上記のような品詞の把握が正確にできるかどうかは、文法をしっかり自分のものにしているかどうかで決まる。今回このフレーズでそこが怪しいという自覚がある人は、このフレーズがなぜそういう構造だと判断できるのか、自分で説明できるようになるまでしつこく見ておいてほしい。
そのうえで、countという動詞だが、これは「~を数える」という他動詞のほか、「重要である」という自動詞の用法がある。これは下記のような形の例文で教わるはずだ。
It's not what you read but how you read it that counts.
(重要なのは、何を読むかではなく、いかに読むかである)
このように、この動詞は《It is ~ that ...》の《強調構文》で使われることがよくある、ということもついでに覚えておくと便利だ。
というわけで、 "Every vote counts" は「一票一票に価値がある」という意味。
次、下段のスローガン:
Count every vote
この "count" は「~を数える」の他動詞で、このフレーズは「すべての票を数えろ」。
こちらは文法上の注意点は、上で述べた《every + 単数形》くらいだ。
それぞれ3語ずつ、2つ合わせてもわずか6語。暗記しておくとよいだろう。この、まったくあり得ないレベルの大混乱の記憶とともに。
ところでこの "Stop the count" 発言に対する反応で、最も目立ったものの一つが、スウェーデンの環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリさんのものだろう。
So ridiculous. Donald must work on his Anger Management problem, then go to a good old fashioned movie with a friend! Chill Donald, Chill! https://t.co/4RNVBqRYBA
— Greta Thunberg (@GretaThunberg) 2020年11月5日
これを日本のメディアは文脈を見ないで取り上げているので(文脈を見ないのなら取り上げる必要などないものなのに)「グレタが切れたwww」的に盛り上がっている界隈があるようだ。
これは、ドナルド・トランプがグレタ・トゥーンベリさんに言い放ったことをそのままコピペして、名前だけ入れ替えたものである。
How it started How it's going pic.twitter.com/dmPCgyCiO2
— Steve Peers (@StevePeers) 2020年11月5日
そういうことを知ってて見るのと、知らずに見るのとでは、全然話が違ってくるだろう。英語ができるかできないかは、それを分けるのである。
グレタさん「落ち着け ドナルド」 トランプ大統領のツイートに #nhk_news https://t.co/SPMlY60fTs
— NHKニュース (@nhk_news) 2020年11月6日
グレタ・トゥーンベリさんのこの文言は、ドナルド・トランプ本人が彼女にぶつけた文言の語句を入れ替えだけ(意趣返しのパロディである)ということを、どうして書かないのでしょうか。Twitterの制限文字数的には全然入りますよね。 https://t.co/RXR9SCGUxj
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年11月6日
見出しの制限文字数はあるかもしれませんが、見出しだけツイートすることの危険性は、この数年、さんざん指摘されていますよね。@nhk_news という日本の公共放送の主要なアカウントのTwitterフィードで、今なお、その点で改善の兆しが見えないのはなぜなのでしょう。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年11月6日
See https://t.co/lzafoFHTDU 2019年12月にトランプは "Chill, Greta, Chill!" と(謎の大文字使いをして)彼女を揶揄した。彼女はそれを覚えていて、今、"Chill, Donald, Chill!" と(同じ大文字使いをして)やり返している。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年11月6日
ほれ、NHKが「トランプがグレタに向けた発言を、グレタがパロった意趣返しだ」という事実をツイッターで明示しないから、こういうふうになってる。「言葉遣いから勉強したほうがいい」(じゃねぇや、「言葉使い」「方が良い」って書いてんな)って、誰に向かって言ってんだよ。まさに大草原不可避wwwww pic.twitter.com/s6GXHSNs5C
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年11月6日
※3700字
参考書:
countという動詞をこの辞書で引いて、自動詞の (3) のところに掲載されている例文は全部暗記してよい。