Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

報道記事の見出し、2つのパターン(史上最速レベルで英財務大臣解任)

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今回の実例は、報道から。「報道記事から」でさえなく「報道から」。

英国のエリザベス2世が9月8日に亡くなる前、最後に当たられた公務が、その2日前の6日に療養先のスコットランド、バルモラル城で行われたボリス・ジョンソン前首相の辞任とリズ・トラス新首相の就任の手続きである(英国は日本が手本にした立憲君主制の制度を持つ国で、一般国民に選挙で選ばれた議会が、投票で選んだ代表者を、君主が政治のリーダーとして任命する、という手続きをとる)。

エリザベス2世の死因は老衰だったということで、ご自身の生命の日が消える直前にああいう大仕事をやっていったという事実に改めて畏敬の念のようなものを抱かずにはいられないのだが*1、ともあれ、その死から10日間の服喪期間を挟んで、リズ・トラス首相が就任してから実質1か月にも満たない今日の時点で、「政権ナンバー2」と位置付けられる財務大臣が、解任された。

しかも、それがBBC Newsのアプリでトップニュースになってすらいなかった。

このツイートに添えたキャプチャ画像を取得してから2時間半くらいになるのだが、今もまだ、財務大臣人事はBBC Newsでトップニュースになっていない。国際版仕様だからだと思うが(UK国内版とは違うはず)、トップになっているイランの抗議行動は、例えば最高指導者の声明が出たとかいった大きな動きが特にあったというわけでもなく(なのになぜトップなのかはいろいろ考える余地があるが、記者のQ&Aセッションが行われているし、たぶん元々、この日はこれがトップという予定だったのだろう)、英国の財務大臣が解任されたことをトップニュースとして報じないのは、なんだかよくわからない。そのくらい、織り込み済みのニュースだった、ということかもしれないが。

ともあれ、日本時間の今日の夜は、私の見ているTwitterの画面はこのニュースで持ち切りになっていたのだが(UKの報道機関やジャーナリストなどを多くフォローしているため)、そのときに、日本語母語話者が英語のニュースを見るときに知っておくといいかなという実例をぽこぽことリアルタイムで目にすることになった。

それについて、少し書いておこうと思う。

下記は、次々と速報フィードが流れてきていたときの、アプリ版ガーディアン(UK版)のトップページのキャプチャである。

https://twitter.com/nofrills/status/1580891237791727618/photo/1

一番上のメインの記事に

Kwasi Kwarteng sacked as chancellor...

一番下に、途中で切れてしまっているが、

Liz Truss to sack chancellor...

とあるのが確認していただけると思う。

まず、このsackというのが、アメリカ英語しかやっていない人はわからないかもしれないが*2、英国のメディアを見るようになれば真っ先に覚える*3、報道でよく使われる単語のひとつで、「解任・解雇する、クビにする、更迭する」の意味である。

dictionary.cambridge.org

sackは何の変哲もない「袋」の意味で*4、元々は、give someone the sack という言い方で「クビにする」の意味を表した。何らかの袋を渡すことが「きみ、明日から来なくていいから」の意味だったらしい。アメリカ英語ではfireを使う。テレビタレント時代のドナルド・トランプのキメ台詞、"You are fired" のfireだ。

で、一つ目の見出し: 

Kwasi Kwarteng sacked as chancellor...

この "sacked" は動詞sackの《過去分詞》で、「~された」という《受動態》の意味を表す。報道記事の見出しではbe動詞が省略されるので、この見出しのもとになった文は、

Kwasi Kwarteng is[was] sacked as chancellor...

と、be動詞がある形で、意味は「クワシ・クワルテング*5財務大臣として(の職から)解任された」。

ああ、このasもセットで覚えておくといいね。どの役職から解任されたかということを言うときに sack ~ as ... 「~を…の役職から解任する」の形を使う。

ちょっと検索するとこんなのが出てくる: 

Bournemouth sack Scott Parker as manager after 9-0 defeat at Liverpool

Bournemouth sack Scott Parker as manager after 9-0 defeat at Liverpool | Bournemouth | The Guardian

 

一方で、2番目の見出し: 

Liz Truss to sack chancellor...

これもbe動詞が省略されていて、元の形は

Liz Truss is to sack chancellor...

である。以前も取り上げたが、《be動詞+to不定詞》で「これから起こること(予定、運命など)」を表す用法で、報道記事の見出しではbe動詞が省略されるから、《主語 to do ~》の形で「主語は~することになっている/~する見込みである」といった意味を表す。日本語の報道記事見出しのルールにのっとれば名詞を使って「~へ」と表す。この場合、「トラス首相、財務大臣解任へ」という感じだろう。こういう見出しを見るといつも「助詞を使ってくれ」と思うのだが(「トラス首相財務大臣解任へ」なら誤読の余地はなく、わかりやすい)。

そういえばはてブのトップページでこんなのを見かけたので、あとで読んでみようと思う。

b.hatena.ne.jp

 

話がそれたが、クワルテングの財務大臣の任期は史上第二次大戦後2番目の短さとなった。最短記録保持者は在任中に急病死しているので、クビになった財務大臣としては史上最短である。

トラスをレタスにたとえるのは、エコノミスト様のお仕事由来。

文言としては、I Fought the Law and the Law Wonのパロディだ。


www.youtube.com

「市場の自由市場主義者が市場に挑み、市場が勝った」とは、「とにかく成長が必要だ」と主張するトラス首相のもとで、クワルテング財務大臣が出した「財源なき減税」(それも富裕層向けの)の補正予算正式な「予算 budget statement」ではないため報道では「ミニ予算 mini budget」と呼ばれている)の中身がアレすぎて市場から総スカンを食い(ポンド暴落を引き起こし、異例にもIMFが批判の声明を出すなどした)、トラス首相がこの「ミニ予算」を全面的に支持すると言い張り、3週間粘ってきたものの、最終的にクワルテング更迭という判断を取らざるを得なくなったことを言う。

この間、為替市場の激動で大儲けしたヘッジファンドもあり、現在の英保守党の主導的立場にある人々はそちらと昵懇なわけだが、ジョンソンに続いてトラスのこの失策でもはや党自体があやういとの認識もある(党内部から)。

このカオスに黙っていられなかった人物がいる。

エド・ミリバンドが引用しているデイヴィッド・キャメロンのツイートは、2010年の総選挙でどの党も過半数を取らないというhung parliamentとなった結果成立した保守党とLibDemsの連立政権で緊縮財政やら何やらが行われた次の選挙、2015年の総選挙の際に、当時労働党党首だったエド・ミリバンドに対する執拗なネガティブ・キャンペーン(「アカ」呼ばわりから「顔が変」呼ばわりまで、本当に執拗なものだった)の中で、保守党党首のキャメロンが発した一言である。この選挙で、キャメロンは「英国がEUにとどまり続けるかどうかを問うレファレンダムを実施する」ことを公約に織り込んだ。党内の過激派の圧力に屈した形で。

キャメロンのこの「エド・ミリバンドのもとでのカオスか、私のもとでの安定した強靭な政府か」という発言は、Brexit決定後のカオスの中で何度も何度もさらされ、今でもよくさらされているが("This hasn't aged well" と言われて)、エド・ミリバンド本人が反応したのは初めてかもしれない。

ピエロの顔の絵文字だけで反応した次に彼はこう書いている。

「保守党を乗っ取った熱狂は、リズ・トラスから始まったわけではない。トリクルダウン経済学はこの12年にわたって(保守党の)主導的な考え方だった。その結果どうなったか。失敗しているではないか」と。

最近政治的に覚醒していて目が離せなくなっているタブロイドのデイリー・スターが、レタス・ウォッチを始めたようだ。少なくとも棺桶ウォッチよりは変化があるだろう。

 

最後、新聞などの「永久保存版」を英語で言うには: 

 

 

 

*1:うちの祖母もほぼ同じ年齢で老衰で他界したが、死の2日前に身なりを整えて外部から人を招じ入れ、自分の足で立って微笑んで握手しておしゃべりもできるということは全然なかった。

*2:逆に私は、アメリカでは通じないというのを知ってびっくりした。

*3:スポーツ報道、特にサッカーの監督人事でしょっちゅう使われるから。

*4:日本語でもカタカナ語になっている。単独ではあまり使わないかもしれないが「ナップザック」などの複合語に入っている。

*5:「クワーテング」とも。

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