Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】関係代名詞の二重限定, やや長い文, It is ~ that ...の強調構文, thatの判別(英、ボリス・ジョンソン首相退院)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【おことわり】当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は英国のボリス・ジョンソン首相の発言から。

先日みた通り、ジョンソン首相は新型コロナウイルス感染でしばらく入院していた。一時は集中治療室に入れられるほど病状が深刻で、英国では支援者以外も「いくらなんでもこんなことで死ぬなよ……」という主旨で「がんばれボリス」的なムードが沸き起こったが(そして「まさかあの人物がこんなふうに応援されることになるとは」と多くの人が、「生き延びろ」というストレートな思いと同時に、複雑な感情を抱いた)、集中治療室で快方に向かい、酸素マスクは着けていたようだが挿管もされず、もちろん人工呼吸器につながれることもなく、1週間ほどで退院した。その間、毎日のブリーフィングを担当する閣僚たちからは「ジョンソン首相は病院でNHS(国民健康保険)の尽力により、最高の医療を受けている」といったことがそういう主旨の言葉で語られていた。

ジョンソンと同じころに入院し、そしてジョンソンほどの手厚い医療を受けることなく不帰の人となった人々の数を思うと、これは一口に「よかった」と言えることではない。それでも私はジョンソンが無事退院できたことはよかったと思うし、生還した以上は2016年以降これまでの英国のめちゃくちゃなあれこれを見直して方針転換していってほしいと思っている。何だかんだいって、ジョンソンは、3月半ばまでの英国の奇妙な新型コロナウイルス対策を180度転換させたのだ*1。「病的な嘘つき」と言われる人物のことだから、期待しすぎは禁物だが、少しは期待してよいだろう。

退院後のジョンソンの言葉は、そういう期待を持ち続けてもいいのかなと思わせるものだ。

BBCの記事がそれを紹介している。記事はこちら: 

www.bbc.com

 

f:id:nofrills:20200413035058p:plain

2020年4月12日, BBC News

キャプチャ画像の一番上の文: 

Mr Johnson said two nurses - Jenny from New Zealand and Luis from Portugal - stood by his bedside for 48 hours at the most critical time and named several other hospital workers who cared for him this past week that he wanted to thank.

やや長い文だが、構造は取れただろうか。これは下記のような構造になっている。

Mr Johnson said two nurses - Jenny from New Zealand and Luis from Portugal - stood by his bedside for 48 hours at the most critical time and named several other hospital workers who cared for him this past week that he wanted to thank.

つまり、"Mr Johnson said ... and named ...” という形(「ジョンソン氏は…と述べ、…の名を挙げた」)の構造だ。

前半部分(朱で示したほう)は、《挿入》などがあるが、文法は特に難しくはないので解説は不要だろう。

内容的には、ジョンソンがここでわざわざ看護師たちの出身地(あるいは国籍)を述べているのは、Brexitと「外国人」の追い出しムードとの関連で考えてみるとよい。特にNHSの医療現場では、看護師も医師も技師も外国人・外国出身者頼みになっているのが英国の医療の現実だが、Brexit推進派はそれを無視して、EU諸国から来ている医療従事者も「外国人」として扱うべきとし、一部は「低技能労働者」という位置づけすらされようとしている。その中で、ジョンソンの命を救った医療チームの中に、ポルトガル人(EU加盟国)とニュージーランド人(EUではない*2)の看護師がいたということが、このように特筆されているわけだ。

 

さて、本題はその次、青で示した部分だ: 

Mr Johnson ... named several other hospital workers who cared for him this past week that he wanted to thank.

こちらが、やや構造の取りにくい文である。

主語は "Mr Johnson" で、動詞は "named" というところまでは難なく読めるだろう。その次の "several other hospital workers" が "named" の目的語ということも問題なく把握できるだろう。「ジョンソン氏は、このほかに(ジェニーとルイスのほかに)何人かの病院で働く人々の名前を挙げた」という意味である。

その後ろの部分、太字で示した "who" から後は、この "several other hospital workers" にかかる《関係代名詞》の節である。それも、この先行詞には "who" の節と "that" の節、2つの関係詞節がついている。これを《二重限定》という。

関係詞の二重限定については以前書いているので、本エントリの上部に表示されている「タグ」のところから過去記事を見ておいてもらいたい。

今回の例では、"other hospital workers who cared for him this past week" と、"other hospital workers that he wanted to thank" が二重になっているわけだ。

逐語的に日本語にすれば、「この1週間、彼のケアをした、ジェニーとルイス以外の病院で働く人々」と、「彼が感謝したい、ジェニーとルイス以外の病院で働く人々」となる。

日本語ではこんなにずるずると形容詞節をつけることはないので、下線部和訳となると工夫が必要であろう。「ジェニーとルイス以外にも、この1週間、彼のケアをした人々の名前を挙げて、これらのみなさんに感謝したいと述べた」といったように。

 

次。1文置いて、その次: 

"It is thanks to that courage, that devotion, that duty and that love that our NHS has been unbeatable," he said.

thatがやたらと多い(5つも出てくる)が、これも一度見ただけで構造が取れただろうか。

この文は次のような構造になっている。(最後の ", he said" はなくてもいいので外して考えよう。)

 "It is thanks to that courage, that devotion, that duty and that love that our NHS has been unbeatable"

 太字で示した部分が文の骨格を作っている。《It is ~ that ...》の強調構文だ。

そして、 "~" の部分にあたる "thanks to that courage, that devotion, that duty and that love" で下線で示した "that" は、全部「あの」の意味のthat, 指示形容詞のthatだ。

《It is ~ that ...》の強調構文の部分が「私たちのNHSが最強であるのは~である」の意味。

"~" の部分が「あの勇気、あの献身、あの義務感とあの愛のおかげである」。

これを組み合わせれば、文意が完成する。

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 
ロイヤル英文法―徹底例解
 

 

*1:「集団感染」論、つまり人々の外出を特に制限せずに大勢を感染させ、大勢を死なせつつ、コミュニティ全体で免疫を獲得する、という考え。今回のウイルスが感染したら免疫を獲得できるようなものなのかどうかわかっていない段階でそういう話が側近・顧問団の間で方針として固まったのだが、1本の論文でそれが覆った。

*2:ただしコモンウェルスの一国ではある。

当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。