Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

同格のthatが省略されてて構造が分かりづらいかもしれない例, denial that ~など(一般市民にはロックダウン、首相官邸ではウェ~イ、の件)

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今回の実例は、報道記事から。

クリスマスが近づいて、西洋諸国が「年末」モードに入り始めた今月上旬以降、英国(というより厳密にはイングランド)からは、政治の中枢、すなわちダウニング・ストリート10番地(首相官邸)が、いかにルールを無視してきたか、というニュースが、本当に日替わりのようにして伝えられてきた。その最新のがこちら。ここまでデイリー・ミラーのスクープなどがあったが、今回はガーディアンの独占だ*1

www.theguardian.com

ボリス・ジョンソンが、ルールなど屁とも思っていない人物であることは、首相になってすぐの女王とのあれこれやら何やらで周知のことである。しかし、今回は、俗に "Torygraph" と呼ばれ、ジョンソンとは縁が深いデイリー・テレグラフもめっちゃ冷ややかになっている。そりゃそうだ、200年もずっと保守党の地盤だった選挙区で、現職だった議員が汚職の疑いを追及されて辞任に追い込まれたあとで行われた補欠選挙で、LibDemsに議席を奪われたのだから。あの選挙区がひっくり返るのなら、ほかの選挙区だって、という局面にある。日本に例えるなら、今年の総選挙での神奈川13区(甘利落選)や東京8区(石原落選)のようなことが、全国で起きるかもしれないという局面だ。

そういうときに、政権支持の新聞などが政権の側につきたがらないということは(今もジョンソンを熱烈に支持している新聞もあるけど……デイリー・エクスプレス)、例えばDappiの件がごくごく小さくしか報道されない日本で起きていることとは全然違っていて、さすが、腐っても英国、腐ってもイングランドだなっていうことを感じている。そのくらい、日本にいると疲弊しちゃうということだが。

ともあれ、今回のこの報道を受けて、Twitterで私に見える範囲はまさに「堪忍袋の緒が切れた」(もともと、ほとんど切れかかっていた緒であるが)状態で、それについては本エントリの最後にあとで書き加えたいと思う。

当ブログとしては通常運転で、この記事で、いわゆる「受験英語」の英文法項目の使われ方を見てみよう。

書き出しの部分: 

f:id:nofrills:20211220221144j:plain

https://www.theguardian.com/politics/2021/dec/19/boris-johnson-and-staff-pictured-with-wine-in-downing-street-garden-in-may-2020

この記事は何より語彙の勉強になると思う。ここにキャプチャした部分で意味が分からない単語が1つでもあれば、この機会にぜひ辞書を引いて覚えてしまってほしい。あ、"spirits" は大学受験には出ないかもしれない(「蒸留酒」の意味で、具体的にはジンやウォッカなど。「酒」は無論、不可算名詞だが、ここでは種類が複数あるので複数形になっている)。

さて、今回の注目点は《接続詞のthat》だ。キャプチャ画像でみた範囲内に、《接続詞のthat》による構造が2か所ある。どこかわかっただろうか。

1つ目はここ。最初のパラグラフから: 

Boris Johnson has been pictured with wine and cheese alongside his wife and up to 17 staff in the Downing Street garden during lockdown, raising questions over No 10’s insistence a “work meeting” was taking place.  

これは、 "insistence" と "a" の間に《同格》の接続詞thatが省略されている形で、"No 10’s insistence that a “work meeting” was taking place" となっていたらもっとはっきり構造が見て取れるのに、と思う人が多いかもしれない。下線部の意味は「『仕事でのミーティング』が行われているのだという10番地の強弁」みたいな感じ。

insistenceは動詞insistの派生語(名詞)だが、この写真を示されて「仕事での会議です」と言う(開き直る)のがinsistenceだ、という具体例で、この語のコアになっている語義が頭に叩き込まれるだろう。かなり極端な例だけど、基本的に「白いものを黒と言う」のがinsist/insistenceの意味内容である。(そうでない場合、つまり「本当は黒いんだろう」と疑ってかかってこられているときに「白です」と強く主張するときにも使われる語ではあるので、いずれにせよ文脈を見て考える必要はある。)

insistenceは、evidence, questionなどと同じく、《同格》のthatを取る語のひとつである。

次の例は、2番目のパラグラフから。こちらはthatが省略されていないので構造は分かりやすいだろう。

The photograph was shared with the Guardian following No 10’s denial last week that there was a social event on Friday 15 May 2020 including wine, spirits and pizza inside and outside the building. Johnson’s spokesman said Downing Street staff were working in the garden in the afternoon and evening.

"last week" という修飾語が間に割って入っているが、《denial that ...》の構造になっている。これは、denialの項を辞書で引くとはっきりわかるが、「…ということの否定」の意味。ケンブリッジ辞書にいい例が出ている。

Officials did not believe the runner's denial that he had taken drugs.

dictionary.cambridge.org

これは、「そのランナーは薬物を摂取したということを否定しているが、当局はそれを信じなかった」(スポーツのドーピングの話であることは容易に判断できる)という文意。

今回見たところは、「先週、10番地は、2020年5月15日(金)に、建物の内外で、ワインや蒸留酒、ピザが供される社交行事が行われたということを否定していたが」みたいな意味。

つまり首相官邸は「昨年5月のロックダウン中に、首相官邸ではパーティやってたなんて一部報道が言ってますけど、そんなことはしていませんよ」と、先週言ってたのだが、そこで、誰かがガーディアンにこの写真をそっと差し出したわけだ。そしたら官邸は「これはパーティーではない。みな仕事をしているのである」と開き直った、という次第。誰が信じるかっての。

ちなみにこの写真は、10番地の隣からの眺めだと思われるが、首相官邸事情に詳しいエド・ボールズ元議員(ブレア政権の閣僚)は「11番地の2階バルコニーからの眺めだねえ」と言っている。

(英国なので、"first floor" は日本で言う「2階」。日本で言う「1階」はground floorと表す。これ、小説や映画字幕のようなところでもわりとよく誤訳されてきたポイントなので、ウィキペディア程度のものであれ何であれ、翻訳をやろうという人は注意。アメリカ英語では日本と同じ数え方になってるはずで、アメリカ英語が標準英語になってる日本では気づきにくい。)

伝統的には11番地はthe Chancellor of the Exchequer, つまり「財務大臣」の官邸なのだが、1997年から2007年まで首相だった労働党トニー・ブレアが子供が何人もいて10番地では狭すぎるということで11番地に住み、2010年の保守党党首デイヴィッド・キャメロン以降、テリーザ・メイボリス・ジョンソンと3人の保守党の首相もやはり、10番地より11番地が広いからという理由で、11番地を居住スペースとしているそうだ。(キャメロンは大家族だったけど、メイは子供いなかったよね。こういうところが謎にフレキシブルなのが英国はよくわからん。)

www.independent.co.uk

と、こんな写真が出てきたところで、ダウニング・ストリートが次はどう出るかを予想した天才がいる。

イギリスの人たち、大勢が笑っているだろうけれど、誰一人として目は笑っていないに違いない。

(このあと、ツイートを貼り付ける)

 

※本文部分で3800字

 

 

 

*1:つまり、誰かがガーディアンにネタを持ち込んだ。

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