今回の実例はTwitterから。
というか超手抜きで、ほぼツイートの貼り付けだけ。しかもしばらく考えてみても結論が出ていない話で、自分用のメモとして書いておく。
まずはこちら。日曜日の夜中(というか日付が月曜日に変わったころ)に見かけたツイート。ツイート主は米メディアThe AtlanticのシニアエディターでCNNでも政治分析の仕事をしている人で、つまりは文・文章を書くことのプロである。
In the NBC poll, Biden’s approval among registered voters has gone from 51% in April to 50% now even amid the chaos in Afghanistan. Yes CBS is bigger drop but it was an outlier high to start. Larger point: elections now a brutal game of inches between two entrenched coalitions.
— Ronald Brownstein (@RonBrownstein) 2021年8月22日
画面に流れてきたこれを見たとき、私は最初「おっ、ウナギ文」と思った。この箇所である。
ロナルド・ブラウンスタインさんのこのツイートは、アフガニスタンからの米軍完全撤退後のひどい状況を受けたあとでも、NBCの世論調査ではジョー・バイデン大統領の支持率 (英語ではapproval rateという。approvalは名詞で、動詞のapproveの派生語だが、「支持」と聞いて多くの人がすぐに想起するsupportとはちょっと違う概念である) は4月の数値から1ポイントしか下がっていない、ということを述べたあとで、「CBSのほうが下落の幅が大きい」という事実を参照し、それに対して「だがCBSはもともとの数値が高かった」と述べ、そこから読み取れること(読み取るべきこと)を指摘して締める、という形になっている。
この「CBSのほうが下落の幅が大きい」が、日本語のいわゆる《ウナギ文》(食堂で注文するときに「僕はうなぎを注文しよう」が「僕はうなぎだ」となることからこう呼ばれる)のスタイルで、 "CBS is (a)*1 bigger drop", 直訳すると「CBSはより大きな下落だ」になっているのでは、というのが第一印象だったのだが、よく見たら、どうやらそうではないように思えてきた。
https://t.co/sYKuW9YQo4 CBSのところが「うなぎ文」みたいに見えるけど、これは《省略》だろうな(CBS poll → CBS)。
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年8月22日
……と考えたんだけど、さらにもっと考えてみたら、"CBS poll is (a) bigger drop" としたところでやはり《うなぎ文》なのではないかなどというふうに見えてきて、「いやいや、dropには実は『下落したもの』的な意味があって(手元の辞書には載っていないけれど、辞書に載っていないことはその語義がないことを意味しない)、この場合は CBS poll = a bigger drop だから普通にSVC、ということなんじゃね」と思ったり……とぐるぐるしていて、結論が出ていない。
結論が出ていないんだけど、一応、メモ的にブログに書いておこうと思った次第。何かおわかりの方がいらしたら、ぜひご教示たまわりたく、よろしくお願いします。コメント欄をあけておきます*2。はてブも見ます。
なお、私が自分でこれを英作文するとしたら、showかseeを使っただろうなと思います。"CBS poll shows[sees] a bigger drop" とか。
ちょっとググると出てくるし。
For example, defective graphene with a larger area of rectangular nanohole shows a bigger drop in tensile strength.
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2018/ra/c8ra02415d
(学術論文)
The PWLD, oddly, shows a bigger drop in potential than in actual GDP.
Uruguay: Selected Issues Paper - International Monetary Fund - Google Books
Enrollment peaked in 2010, yet the number of institutions peaked in 2013 and then shows a bigger drop.
INLAND HOME SALES: November sees a bigger drop than usual
https://www.pe.com/2015/12/16/inland-home-sales-november-sees-a-bigger-drop-than-usual/
Unleaded 98 sees a bigger drop of 0.056 cents per litre taking the price down to 1.192 euros.
……という感じ。翻訳やってれば、たいてい、このコロケーションで頭に入ってますよね。
なお、当ブログで前回この《ウナギ文》 的なものを見たのは1か月くらい前の下記エントリ。
hoarding-examples.hatenablog.jp
※2800字
まさか「僕はウナギだ」が昭和臭立ち込める例文になるとは昔は思っていなかったんだけど(今どき、「ウナギだ」で料理を注文できるシチュエーションがあるとは思えない……「うな重」ならわからなくもないけれど、そもそも専門店じゃないとウナギって置いてないような気もするし、それ以前に今や絶滅危惧種だし)、その点をわかりやすくすると、友達とお昼食べに行ったときに店員さんに注文するのに、「私はAセット、ドリンクはアイスコーヒーで食後にお願いします」「私はBセットで、ホットコーヒーを食後で」というときの文。単独で食べに行ったときは「私は」は言わずに「Aセットで、ドリンクは……」と言うのが普通だけど。
この場合、「私はAセット」は「私が注文するものはAセット」であって、英語にすれば ”A set for me" とか "I'll have (an) A set" と表されるのであり、 "I am (an) A set" ではない、ということになる。
これを、日本人は「私はAセット」を直訳して、 "I am (an) A set" 式の英文もどきで注文しがちだが、それでは通じない……というのが、30年位前から「英会話本」などでの定番のネタだった。で、「英会話」系の人は「学校英語、受験英語は使えない」と憤るところからがお仕事の始まりだったりしてたんだけど、実は学校英語、受験英語ではこれは以前からかなりしっかり教えられていて、それを覚えてないのは単にその人が忘れているだけだったり。いろいろと闇ですな。
※「ウナギ文」について書き足したら3500字くらいになった。結局あまり手抜きにならなかったかも。
◆いただきもの◆
数日前に友人が At the start of the pandemic I had 5 aunts all in their 90's. As of yesterday, I am down to two. と書いていて、私も「ウナギ文?」とタグを付けて保存していました。Up とか down だと時々見かけますよね。Drop もその仲間かなあ。
— Eunheui (@eunheui) 2021年8月23日
(こういう文を見たときに、内容と同時に、もしくは内容以前に、あるいは内容を見たあとで形式をがっつり見るのが、うちらの仕事です。そのことで責めないでください。文法などの面を取りざたしているからといって、文に表されている事柄を軽視しているわけではありません)
ありがとうございます。これは見事なウナギ文に見えます。いきなり "I am ~" では表さないけれども、文脈があるときにはこういう表しかたもする、というあたりかもしれないですね。これはウェブでもコーパスでも検索しようがないので、見たら書き留めておくに限りますね。 https://t.co/Viaq61hVqY
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年8月23日