Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

仮定法におけるifの省略と倒置, 現在進行形の受動態, 同格, など(本日の「ロシアのミサイルがポーランドに着弾」騒動について)

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今回の実例は、分析(解説)の文章から。

日本時間で今朝早く、びっくりするようなニュースが飛び込んできた。米国政府当局者が「ロシアのミサイルがウクライナの国境を超えてポーランドに落ちて2人を死亡させた」と述べた、というのだ。ポーランドといえばNATO北大西洋条約)加盟国であり、NATO集団的自衛権を導入している。

これに続いて、米国防総省の報道官が、まだ何もはっきりしていない段階での発言としてはかなり珍しいというかありえないことに、条約の第5条に明確に言及した

Twitter英語圏)はそりゃもう大騒ぎで、英語母語話者というより外国語として英語をばりばり使っている人々が入り乱れて、「条約の第5条」だ、「第三次世界大戦」だと大騒ぎしていた(ただしTwitterのデータの処理があまりにもcrudeすぎて、「根拠もないときに第三次世界大戦だと騒ぐな」という発言や、人気歌手のチケットが買えないことがニュースになっていて「そっちのほうが第三次世界大戦より大事なのかよ」とかいう個人的なツイートがたくさんあることで「第三次世界大戦」がTrendsに入るという、例によってお粗末な光景が展開されていたのだが)。

そんな中で、個人的にいつもチェックしている報道機関の安全保障担当記者は落ち着いていた。ガーディアンのジュリアン・ボージャー記者も、BBC Newsのフランク・ガードナー記者も(BBCはイケイケ報道をやっているが、ガードナー記者はほぼ常に冷静である。この人が手のひら返しをして言うことを変えるときは、明確な潮目の変化があったことを意味する)。

そして、実際にNATOが動くことになったのは「第5条」ではなく「第4条」だった

さらに、初報から12時間以上が経過した同日夜(日本時間)には、ポーランドで2人を死亡させたミサイルはロシア製だがロシアが撃ったものではなくウクライナの防空システムで用いられたものと思われるという発言がNATOポーランド政府から出てきて、BBCのようなイケイケのメディアでも「ウクライナの防空システム」ということが大きく報じられている。

BBC Newsアプリ版トップページ、2022年11月16日23時50分のスクリーンショット(日本時間)

では、そもそもなぜ、しょっぱなから、紛争当事国(ロシア、ウクライナ)ではなく被害の当事国(ポーランド)でもない米国政府が「ロシアがやった」という方向で発言したのか。

今回のこの件、単に一個人としては、当事国でもないところでいきなりミサイルが落ちてきて民間人が死んでしまうということが一番恐ろしいし、亡くなった方やそのご家族・ご友人を思うと実に言葉もないが、国際情勢としてみたときに一番恐ろしいのは、外野にいるはずの超大国アメリカが、なぜ無根拠な(客観的な根拠で裏付けられていない)ことを言っているのか、ということである。「それはアメリカあるある」と言ってしまえばそれまでだが。

そのニュースの一連の流れは本エントリの一番下にメモるとして、今回の実例。上で言及したBBC Newsのガードナー記者の分析から: 

www.bbc.com

最後の部分: 

https://www.bbc.com/news/live/world-asia-63593855

Much of Ukraine’s vital supplies of defensive weaponry passes through Poland. Were that to be deliberately targeted it would be a different matter.

太字にした部分は《仮定法》である。それも条件節のほうに《ifの省略》と《倒置》のある形だ。

条件節の区切りとなるコンマがなくて読みにくいかもしれないのでそれを補うと: 

Were that to be deliberately targeted, it would be a different matter.

この前半部分(条件節の部分)をifを省略しない形にしてみると: 

If that were to be deliberately targeted, it would be a different matter.

ここにある《if S were to do ~》の形の仮定法は、形としては現在のことをいう仮定法過去だが、未来についての仮定を表す(江川、p. 257)。ここではさらに、文脈(ガードナーがここまで述べてきたこと)から判断して現実味が薄いことを述べていて、「もし~するようなことがあれば」、「万が一~した場合には」のように、かなり可能性薄めの表現と解釈される。

この文の場合、ここを読み誤ると、文意が全く違ってしまうので注意が必要である。

文意は、「もしそれ(=ポーランド経由でウクライナに入ってくる防衛のための武器供給)が意図的に標的とされるようなことがあれば、事態は違ってくるだろう」。

さて、フランク・ガードナーによるこの解説文、上の方にも文法的な見どころがあるので、それもチェックしておこう。というか、全部読んでも200語足らずで、構文も難しくないし内容も明確だから、全部読んでいただくのが一番よいのだが……。頑張れば復文の練習にも使えると思う。私もやろうかな。

復文については、田中健一さんのこちらの参考書が役立つ。昔ならいざ知らず、今はネットがあって素材文を探すには困らないから、高校英語で手助けがいらないレベルの人なら、教材なしで自分ひとりでもできるけど。

文章の書き出しのところ: 

https://www.bbc.com/news/live/world-asia-63593855

最初の文: 

When Russian missiles are being fired at targets so close to Poland’s border, and when Ukraine’s air defences are being activated to intercept them, it was perhaps only a matter of time before something like this happened.

太字にした部分は《現在進行形の受動態》である。

進行形の受動態は、進行形 (be + -ing) と受動態 (be + 過去分詞) の組み合わせで、受動態のbeが進行形の-ingになるので、《be being + 過去分詞》という形になる。

進行形は、進行中の動作を表して「~している」という意味になるのが基本だが、もうひとつ、重要な意味・用法がある。「しょっちゅう~している」「~してばかりいる」という意味で、動作が恒常的に反復されていることを示す用法だ。この実例は後者で、「常態的に、ロシアのミサイルがポーランド国境に非常に近いところにある標的に向けて発射され、それらをインターセプトすべくウクライナの防空システムが作動させられているときに」というのがWhen節の意味となる。

次の文:  

The fact that a missile landed on Poland’s side of the border is of course a worrying development, not just for Poland but for all the states on Russia and Ukraine’s western borders.

太字にした "that" は《同格》のthatで、この文の主語は "The fact", 動詞は "is" である(下線)。この構造をこの文を見た瞬間に把握できなければ、英文を読解できるほどの基礎的な文法力がまだ十分ではないと言えるだろう。よくある間違いとしては、a missile ... is という構造だと読んでしまうという間違いがあるが、そういう構造ではない。次のような構造になっているのである。

The fact [ that a missile landed on Poland’s side of the border ] is of course a worrying development

(isの直後にある "of course" は《挿入》で、文構造とは関係ないので、薄いグレーで示してある)

つまり文の骨格としては「~という事実は、心配な進展である」。

その「~という事実」の中身が、「国境のポーランド側にミサイルが着弾したという事実」。

この文では、その後、《not A but B》(「AでなくB」)の構造が続いている。「ポーランドにとってだけでなく、ロシアとウクライナの西側の国境に接するすべての国にとって」という意味である。

 

さて、ここで3600字を超えているので、以下は上に述べたように、この件についてのツイートの貼り付け。

 

 

 

 

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