今回の実例は、Twitterから。
日本時間で昨日9月15日の夜、英ジョンソン政権が内閣改造(英語ではcabinet reshuffleと表す。可算名詞)を行った。
ほげ。 https://t.co/NCjXiJ47fU "Prime Minister Boris Johnson is expected to announce a cabinet reshuffle on Wednesday afternoon"
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
日本語圏で「ボリス・ジョンソンすげえ」という言説にさらされている人はきっと知らないであろう事実。保守党内の閣僚・党幹部支持率、ジョンソン首相は27人中下から7番目。孫引きだけどsource: https://t.co/5PXQBb9Y0Q ※ガーディアンの出典はConservative Home pic.twitter.com/RtheBSWlKx
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
今回の内閣改造は総選挙前のテコ入れ的なことと見られており、英国政治についてものすごく細かいことに関心を持っている人ならばガーディアンのlive blogをチェックすると空気感などもわかってよいかと思うが、内閣がどうなったのか、ポイントはどこにあるのかといったことなどさえ把握しておけば大丈夫という人なら、全部決まった後の報道だけ見ておけばよいだろう。
ざっとまとめると、「政権ナンバー2」である財務大臣をはじめ、内務大臣、国防大臣、保健大臣などは変化なしで、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各担当大臣も留任。大きなポストで変更があったのは外務大臣と教育大臣で、これらはそれぞれ前任者(ドミニク・ラアブとガヴィン・ウィリアムソン)が、仕事をしないか無能であるか、あるいはその両方で、しかも「やってる感」の演出だけは必死ということで、非常に不人気というか「ネタ扱い」されていたのだが、フタを開けてみれば、ラアブは外務ポストからは外されたものの(確かに、外務大臣という器ではなさそうな人である)司法大臣と副首相を兼務するという出世っぷりで、ウィリアムソンは教育大臣を解任されて格下のポスト(北アイルランド担当と噂されていた)をあてがわれたのを断って平議員(英国の政治用語でbackbencherと言う)になるという結果だった。
ラアブのように、不適格、無能など失墜して当然な理由で仕事から外されたにもかかわらず、地位は安泰であるどころかますます前途洋々になることを、英語で "fall upwards" と表現することを私が知ったのは、Twitterでのことだった。「上に向かって落ちる」、つまり「落ちた結果、上に行く」ということである。
Even when they get sacked they fall upwards… https://t.co/nfsIe0a6Md
— Larry the Cat (@Number10cat) 2021年9月15日
また、今回の改造で最初に判明したのは(みんなの予想通り)ウィリアムソンの解任だったのだが、解任を受けてのウィリアムソン本人のステートメントが、約束事として出される政治的な文書の読み方の実例として、非常に興味深いものだった。これは英文法とか語法とかは関係なく、文法がどんなにできても読めない人には読めない部分と言えよう。
https://t.co/4T15f2Awcq すっごい勉強になる。読むべき行間はどこにあるかということ。#英語 #実例 pic.twitter.com/0PlEal87Wi
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
"Williamson was offered an alternative post by Boris Johnson, but refused to take a demotion." https://t.co/5PXQBb9Y0Q なるほど、降格人事で内閣もしくは党幹部に留まるという打診があったが、ウィリアムソン本人がそれを蹴ってバックベンチに戻るのだと。そういうときの表現がさっき見た文面
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
とまあ、こんなニュースを追いながら、昨晩はPCの前でだらだらしていたのだが、1件、どうにも見逃せない仰天人事が出てきた。
"Nadine Dorries may be the next culture secretary, the BBC’s Laura Kuenssberg reports." https://t.co/1h5a9dApTk 😱
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
Nadine Dorries(名前はナディーン、もしくは稀にネイディーン、姓はドリス、もしくはドーリスと聞こえるが話者によっては「ドレス」に近い音になることもある。音声素材はこちらのビデオの末尾など)は保健省の閣外大臣(minister)のポストから、文化大臣への抜擢となったが、到底、「文化」など任せられそうにない感じのごりごりの宗教右派である。発音矯正を受けているようで、政治家としての彼女の口調からはうかがい知ることができないが、出身はリヴァプールで、親は労働者階級(バスの運転手)である。父親はアイリッシュ・カトリックで母親はプロテスタントで、母方の宗派で育てられているが、カトリックのバックグラウンドも含めて自分の一部というスタンスのようだ。「プロテスタント」といってもエヴァンジェリカルな方面の信仰を持っているそうで、これまで重ねて妊娠中絶や同性結婚といったトピックに関して「保守的」な見解を示してきた。一方で、自身も看護師のキャリアを持ち(その現場で妊娠中絶に接してきたことで中絶に反対していると言っている)、「女性の権利」には目ざとい感じで、テレビのリアリティ番組に出たりもしているし、何というか、「ポスト・フェミニズム」的な女性である。
以下、出典を入れ忘れてツイートしているけれどウィキペディアから:
'In May 2008, Dorries featured in the Channel 4 Dispatches documentary "In God's Name". The programme examined the growing influence of Christian evangelical movements in the UK and highlighted the Lawyers' Christian Fellowship's involvement in lobbying the British Gov't on ...
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
'... issues such as abortion, gay rights and the enforcing of laws relating to blasphemy. The programme included footage of a LCF representative meeting with Dorries to influence policy on matters where they had a common agenda.' こういう宗教右派が文化大臣。 😱
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
Twitterも活発に使っていて(今はそうでもないらしいが)、「物議をかもす発言」が多く、人々が批判的に言及することが多かった(ひところ、あんまりうるさかったのでミュートしてある)。今回の人事で、ガーディアンが改めて以前の「反リベラル」的なツイートを集めているが、例えばアメリカのドナルド・トランプ支持者の発言でよく見る単語をがんがん使って発言していることが確認できるだろう。
https://t.co/oG3AGefQ6o Nadine Dorrisが「ツイッターの発言女王」的な存在だったころの反左翼のツイート集。たった1つのスレッドでも十分におなかいっぱいになれる。
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月15日
で、こういう人が、よりによって「文化」のポストについたということで、「2012年のロンドン五輪開会式はあんなにすばらしかったのに」と遠い目になる人続出、という感じなのだが、ひとつ、文法面でものすごい笑ってしまったのが下記。
A serious country does not put Nadine Dorries in high office. The end.
— Jonathan Lis (@jonlis1) 2021年9月15日
書き出しで、「~ならば」の意味で "a ~" と始めて仮定法で受ける文(例: A Decent Man Would Never Write “No Irish Need Apply” 「まともな人ならば、『アイルランド人は応募するに及ばず』なんて掲示は出さないだろう」)かな、と予期するのだが、仮定法ですらない(笑)。普通に直説法で "does not" で断言している(笑)。
文意は「まじめな国なら、ナディーン・ドリスを要職につけたりはしない。ピリオド」。
彼女が "in high office" にいるのは、今に始まった話じゃないですけどね。 (^^;)