このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、新型コロナウイルス感染拡大による影響とアパレル業界についての記事から。
日本語圏でも「ステイホーム」というカタカナ語、または「Stay Home」という(若干もやっとする大文字の使い方をした)英語フレーズが見られるようになっているが(一例として下記Yahoo! Japanトップページのキャプチャ画像、ピンク色の枠内参照):
世界の多くの国々では、日本よりずっと厳しい行動制限、いわゆる「ロックダウン」策をとっていて、いまだに通勤しているのは医療分野やインフラ分野、小売・流通・物流分野など社会の維持に必要不可欠な分野で働く人々に限られている。つまり「オフィスワーク」に分類されるような職種の人々は自宅から出ずにインターネットを介してリモートワークという形になっている。
そういう具合だから、アパレル業界としては、この時期売れ筋の春夏物の通勤着・オフィスワーカーの仕事着がさっぱり売れない。そもそも、店舗の営業ができない(「不要不急」ではないから)。だから売り上げという点では非常に深刻なことになっている。そんな中で急に需要が増加しているのが、日本語でいう「ルームウエア」(これは和製英語なので注意。英語ではloungewearという)。見た目より着心地・快適さを優先するユルい服装だ。家で仕事をするようになったオフィスワーカーが、仕事に着ていくスーツなどを買う代わりに、そういう服をネット通販で買っている、という。
記事はこちら:
見出しは引用符でくくられているが、これは取材に応じた弁護士のサマンサ・ヒューイットさんの発言をそのまま使っているからである。英語のルールでは、引用符は発言者の発言を一字一句たがえずに引用するときに使う。日本語の報道記事では、誰かのコメントを取ったときに、編集者や記者、ライターが自分で判断して文言を書き換えてカギカッコで記すことが常態化しているが、英語の報道記事ではそういうことは引用符を使っては行わない。引用符はあくまで、他人の発言をそのまま示すときに使う。"jogger" はジョギングで着用するようなウエア、つまり日本語でいえば「スウェット」「ジャージ」「ジョギングパンツ」のようなものだ。
この見出しは、「スーツを返品して、ジョギングウエアに100ポンドを費やしました」というヒューイットさんの言葉をそのまま使っているわけだが、なぜこれが見出しになるかというと、「100ポンド」のインパクトが強いからだろう。日本円に換算してもいいのだが、為替相場は常に変動するので換算はあまり意味はない。代わりに英国でジョギングパンツがいくらくらいで買えるのかを調べてみたほうがよい。例えば下記のサイトでは、セール価格で10ポンド~18ポンド、平価で15~25ポンドだ。一番高いのを買っても、100ポンドだと4本も買える。パンツだけでなくトップスも買ったとして、2~3セット新規で購入したのだろう。
というわけで、一種「特需」的なことが起きている。それが店舗閉鎖などによる損失を埋め合わせる規模であるかどうかは別の話だが、ぱりっとした「きれいめ」の服装を好むはずのオフィスワーカーや専門職がこぞってジャージを買っているというこの奇妙なトレンドは、コロナ禍が始まったころは想定もされていなかっただろう。
実例として見るのは、記事の少し中の方から。
キャプチャ画像内最初のパラグラフも、《挿入》など見どころはいくつかあるのだが、当ブログはそろそろそういうのは書き飽きてきているので、それらについての解説は過去記事をご参照いただきたい。
hoarding-examples.hatenablog.jp
hoarding-examples.hatenablog.jp
画像内2番目のパラグラフ:
Online fashion retailer Boohoo says that it is so popular that sales in April are higher than a year ago.
これはぱっと見、下線部の "it" が形式主語で、真主語がthat節のように見えたり、it is ~ that ...の強調構文に見えたりするかもしれないが、実際にはこの "it" は先行の名詞, loungewearを受けており、全体としては太字で示したような《so ~ that ...構文》である。「それ(=ラウンジウエア)が非常に人気が高く、4月の売り上げは1年前を上回ったと、ネット通販のBoohooは述べている」という文意だ。
これがこの記事を書いた記者による地の文で、その次にBoohoo社のコメントがそのまま、引用符で示されている。
"People aren't really buying going-out items, but they are buying homewear - hoodies, joggers, tracksuit bottoms," the firm said.
これは《not A but B》(「AではなくB」)の構文だが、ややくだけたスタイルで、この構文を意識しなくてもそのまま読むだけで意味が取れるだろう。「人々は外出用のアイテムを買っているわけではなく、家用の服を買っています。フーディ(パーカー)、ジョガーやトラックスーツ(ジャージ)のズボンなどを」というのが会社の発言の内容だ。
ちなみにhoodiesは日本でいう「パーカー」、tracksuitは日本でいう「ジャージ」。どちらも和製英語といってよいもので、そのままparker, jerseyと言っても英語圏ではまず通じないので要注意。
ファッション用語は日本でしか通じないカタカナ語が意外と多いので、いつかまとめて取り上げたい。
キャプチャ画像の最後にあるのは、オシャレ番長として知られるファッション誌VOGUEのUS版編集長が自宅で仕事中の一枚。ジャージにセーターという信じがたい服装である(が、家の中でもこのおしゃれサングラス……)。今回参照した記事にはそのことについても書かれているので、読んでみるとおもしろいんじゃないかと思う。
参考書: