このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、気候変動とロシアについてのAFPの記事から。
AFPはフランスの通信社で、省略せずに書けばAgence France-Presseという。フランスの通信社だが記事はフランス語だけでなく英語など多言語で配信している。日本でもAFP BBという名前で日本語に翻訳した記事を出している。
「通信社」の記事は、個別の報道機関(新聞など)が対価を払って自分のところの紙面やサイトに掲載するものだが、英語圏のメディアで、AFPの記事は、ロイターなど英語圏の記事と同じくらいよく見かける。今回のは英ガーディアン紙のサイトに掲載されていたAFPの記事である。
記事はこちら:
ロシアのプーチン政権は「人為的な原因による気候変動」という事実を認めようとしない困った政権のひとつであるが、それが今回、地球温暖化を問題であると認識したというニュースだ。ただし、「温暖化の利点」に注目しているのだという。「ああ、そっちですか……」ということで頭がくらくらするが、ともあれ、記事を見てみよう。
実例として見るのは、記事の最初のほう。
まずは、前々回とその前あたりにざっと説明した《引用符の使い方》に注意して読んでいってもらいたい。ここでは、引用符での引用が地の文に取り込まれている……というのがどういうことかというと、次のようなことだ。
例えば次のような文があるとする。
これは本当に天然に見られるあの美麗繊細極まる雪の結晶を実験室の中で人工で作る話である。零下三十度の低温室の中で、六華の雪の結晶を作って顕微鏡で覗き暮す生活は、残暑の苦熱に悩まされる人々には羨ましく思われることかも知れない。
--- 中谷宇吉郎『雪を作る話』
この文を地の文に取り込むとは、例えば次のような地の文を書くことである。引用符(カギカッコ)に注目して見ていただきたい。
中谷宇吉郎は「天然に見られるあの美麗繊細極まる雪の結晶を実験室の中で人工で作」ったときのことを、この文章で説明している。彼は「零下三十度の低温室の中」で雪の結晶を作る実験を行ったのである。
英語でもこれと同じやり方で、引用符を使って元の文(出典)から引用しながら地の文を書くということが行われる。今回の実例はそういう例だ*1。
The document, published on the government’s website on Saturday, outlines a plan of action
下線で示した部分は、コンマとコンマで挟まれた《挿入》の形になっているが、ここで挿入されているのは、過去分詞に導かれた修飾語句である。「その文書は、政府のウェブサイトに土曜日に公開されたが、行動計画の概略を示している」という文意になる。
そのあと、等位接続詞のandによる接続があって:
and acknowledges changes to the climate are having a “prominent and increasing effect” on socioeconomic development, people’s lives, health and industry.
太字にした "acknowledges" という動詞の主語は、 "The document" である。
この部分はだらだらと長くなった文だが、素直に読めば文意を取り違えることはないだろう。「気候の変動が、社会経済的発展や人々の生活、健康、産業の上に『顕著で、なおかつ増大してゆく効果』を有している、と(その文書は)認めている」という文意だ。
その次のパラグラフ:
Russia is warming 2.5 times faster than the planet as a whole, on average
太字にした部分は、《数字+ times + 比較級》の形で、文意は「ロシアは、平均して、地球全体より2.5倍速く温暖化している」。
ちょっとびっくりの事実である。
その次の部分:
..., and the two-year “first stage” plan is an indication the government officially recognises this as a problem, even though Vladimir Putin denies human activity is the cause.
太字で示した部分のように、ハイフンを使って1つにまとめた複合語(名詞)が形容詞として使われる例については、つい先日、人の年齢をいう表現としてまとめておいたので、そちらも参照されたい。
hoarding-examples.hatenablog.jp
下線で示した "even though" はeven ifと同義で、「たとえ~であっても」。
したがって文意は、「そして、『第一段階』の2か年計画は、たとえウラジミール・プーチンが人間の行動が原因であるということは否認しているとしても、政府が公式にこれを問題であると認めているということを示すものだ」。
ちなみに、モスクワはもともと雪はさほど多いほうではないというが、今年は雪がとても少なくて、新年を迎えるにあたって他所から雪を運んできたほどだったという。
Moscow brings in artificial snow for New Year in mild winter https://t.co/gCF5BqAjCr #ClimateChange #fridaysforfuture
— Clara Guarch (@cmguarch) 2020年1月6日
参考書:
*1:ただし本当には元の文は英語ではなくロシア語かもしれない。そうであるとしたら、そのロシア語の文面を英語に訳したものが引用符で引用されているということになる。