今回の実例は、Twitterから。というか、「あら、こんなところに受験英文法♪」の白眉的な実例。
先ほど、Twitterの画面をぱっと見たときに目に入ったサイドバーがこうなっていた。
Girls Aloudという、2000年代の英国の芸能界を席捲したテレビのオーディション番組出身の女性ヴォーカルグループ(ガールバンド)のメンバーだったサラ・ハーディングさんが、39歳の若さで乳がんのため亡くなったという残念なニュースが大きく取り上げられているが(ちなみに彼女たちのグループ名のaloudは、同音のallowedを連想させる語で、彼女たちもまた、後続のLittle Mixなどと同様に「女の子/女性が堂々としていること」を核に据えたマーケティングが成功したグループだった)、その上の欄に、受験英語を見つけたので、悲しいニュースではなくそれを書き留めておくことにする。
Actor Mark Hamill Tweets out ‘Mark Hamill’ after someone said that him doing so would result in ‘thousands of likes’
この文を一読して、意味が取れただろうか。意味以前に、構造が取れただろうか。
まず大まかに構造を示してみよう。
Actor Mark Hamill Tweets out ‘Mark Hamill’ / after someone said that [ ( him doing so ) would result in ‘thousands of likes’]
……と、このように、まずは接続詞の "after" の前後で区切ることができ、 after" の後の節、"someone said that ..." の中にあるthat節は、主語が "him doing so", 述語動詞が "would result" という形になっている。
短い文なのだが、構造を正確に把握するのは、基礎力が十分でない人にとってはそんなに簡単ではないかもしれない。(一読してこの構造が把握できなかった人は基礎力が足りていないので、中学総復習の問題集に戻ってやり直すことをお勧めする。)
接続詞afterの前の部分はわりと単純で、"Tweets" が名詞ではなく動詞であることに気づきさえすれば簡単だ。"Actor Mark Hamill" は《同格》を使った表現で「俳優のマーク・ハミル」の意味。Prime Minister Boris Johnsonとか、Arsenal manager Mikel Artetaとか、ex-CEO Carlos Ghosnといったのと同じ形である。
TwitterのTrendsに上がっている項目に添えられている短文は、報道記事の見出しとだいたい同じルールで書かれているので、過去のことが過去形ではなく現在形で表される。だから「ツイートした」という過去のことが "Tweets" と現在形で書かれている。さらにいえば、Twitterはツイッターに関することには厳格だから、「ツイートする」という意味の動詞としては、うちら一般人のように小文字でtweetと書かずに、企業の固有名詞由来の動詞であることをはっきりさせるために大文字を使ってTweetとしている。
"Tweets out" のoutには特に意味らしい意味はない。「公然と」ということを表しているが、「ツイートする」こと自体が公然と何かを書く(述べる)ことなのだから、《強意》のニュアンスがあるかも、という程度の語だ。
というわけで、 "Actor Mark Hamill Tweets out ‘Mark Hamill’ " は「ハイユウノマーク・ハミルは、『マーク・ハミル』とツイートした」。
そのあと、"after" が導く節:
after someone said that [ ( him doing so ) would result in ‘thousands of likes’]
上述したように、この部分のキモは "said" の目的語になっているthat節である。
太字にした部分は《動名詞の意味上の主語》。私がこれをぱっと見て「あら、こんなところに受験英語♪」と思ったのは、ここである。カッコ内のフレーズで「彼がそうすることは」という意味。
述語動詞で "would" が用いられているのは、"someone said ..." の過去形と合わせた《時制の一致》である。別の言い方をすれば、この "would" は仮定法由来のwouldではなく、willの過去形だ。
"result in ~" は重要熟語で、「《主語》が~の(~という)結果に終わる」の意味。
そのあと、 "thousands of likes" が引用符(シングルクオート)でくくられているのは、それが "someone" の言った(書いた)言葉のままであることを示している。英語でのこの引用符の使い方は、日本語での引用符の使い方(わりと勝手気ままに、書き手次第で、強調したい場合とかにも使われる)とは少し異なるので、注意が必要である。ここでは別に強調しているのではなく、誰かの発言をそのまま使っているだけである。
というわけで、afterの節は、「誰かが、彼がそうすれば、『数千という単位で "いいね" がつく』という結果になるだろう、と述べたあとで」と直訳される。
では実際にどうなっているか、マーク・ハミルのツイートを見てみると:
Mark Hamill https://t.co/5OF3tfGMPx
— Mark Hamill (@HamillHimself) 2021年9月5日
……現時点で、477.8kのlikeがついている! 47万7,800件超だ。
下記の報告によると、ツイートして1分で3000件に到達していたらしい。
It took ONE MINUTE. pic.twitter.com/vrE236COUo
— Ben Dukes (@BenDukes) 2021年9月5日
さすがだ、マーク。しかしEd Ballsにはかなうまい……
というわけで、フォースの英国面に堕ちた者としては、負けじとEd Balls Dayをお祝いしたくなってくるのだが、今回はこの辺で。
っていうか、英国面ではやはり同じこと言われてて笑う。
Ed Balls did it better. https://t.co/JteI4GGVDB
— Election Maps UK (@ElectionMapsUK) 2021年9月5日
というかご本人。
You're welcome.. https://t.co/UoToXpRy6m
— Ed Balls (@edballs) 2021年9月5日
一緒にTrendsしてるのか。
What even is this? And why is it trending with Ed Balls??? pic.twitter.com/IZj0KClH98
— Dr Manabu Sakamoto (he/him) | 🦖💻 | 🇯🇵🇬🇧🇺🇸 (@drmambobob) 2021年9月6日
っていうか私いま、Ed Balls でTwitter検索したんですが、検索結果がこんなんになってて 🤣🤣🤣 pic.twitter.com/49elkZgBtC
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年9月6日
本家本元元祖, when Ed Balls Tweeted out "Ed Balls":
Ed Balls
— Ed Balls (@edballs) 2011年4月28日