Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】無生物主語, more and more ~, those, 分詞の後置修飾,【ボキャビル】view A as B, optional, など(段階的行動制限解除が始まったベルファスト)

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このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例はTwitterから。

新型コロナウイルスの感染拡大の猛威にさらされ、市民に厳しい行動制限を課していた(ロックダウンしていた)ヨーロッパ諸国も、行動制限の甲斐あって新規感染者の増加ペースが落ちてきたことから、今週次々と制限を解除し始めている。もちろん、段階的な解除で、すべてがいきなり元通りになるわけではないし、そもそも今後はおそらく、完全に元通りのような生活は戻ってこないだろう。それでも、死者数が増えたとかいったニュースの代わりに、イタリアでカフェやレストランが(条件付きで)再開したとか、ドイツでサッカーのリーグが(無観客で)再開したといったニュースが出れば、それだけでも、仮に自分の住んでいるところでは厳しい行動制限がそのまま続けられていても、人々の気分は明るくなる。ましてや行動制限が段階的に解除され始めていたら、「気分が明るくなる」を超えて浮かれてしまうかもしれない。

というところで今回の実例。

ツイート主のブライアン・ロウアンさんは北アイルランドベルファストのジャーナリスト。北アイルランド紛争の時期に紛争について報じていた記者たちのひとりで、1998年のグッドフライデー合意(正式には「ベルファスト合意」)で紛争が終わったあとも、「ポスト紛争」の社会と武装組織の動向について、新聞やウェブサイトで書き続けている。「未完成作」のunfinished pieceのpieceを同音のpeaceに置き換えたタイトルのもとで「紛争」の当事者たちが「ポスト紛争」の社会をどう生き、どう見て、「紛争」をどうとらえているかをまとめた下記の本は、北アイルランド紛争に関心がある人には必読である。 

Unfinished Peace: Thoughts on Northern Ireland's Unanswered Past

Unfinished Peace: Thoughts on Northern Ireland's Unanswered Past

  • 作者:Rowan, Brian
  • 発売日: 2016/08/18
  • メディア: ペーパーバック
 

ちなみに北アイルランドでは、今週、行動制限の段階的解除が始まっている。まだ制限はかなりの部分で残ってはいるが、これまでの制限が厳しかった分、これくらい解除されてしまえば「事態はもう収束したのだ」という誤認も出るだろう、というくらいに制限が解除されている。

www.bbc.com

 

さて、本題に入ろう。

ツイートの第一文: 

My shopping experience earlier tells me that more and more people now view social distancing as optional.

"My experience tells me ..." という形のこの文は、日本語で同じことを書くなら「経験によって、私は…ということを知った」と、「私」という《人》を主語にするだろう。そういうところで英語では《人》ではないもの(生物ではないもの)を主語とする。これを文法用語で《無生物主語(構文)》という。

江川泰一郎『英文法解説』では、これについて、「日本語と異なる名詞の用法」というくくりで、かなりたっぷりページ数を割いて説明している (pp.25~30)。 

英文法解説

英文法解説

 

江川の解説とは少し毛色が異なるが、日本語版ウィキペディアにもそれなりにまとまった説明がある 。くどくどと解説してはいないので、ざっと見てどうものかを把握するにはうってつけだ。

ja.wikipedia.org

今回の実例の文は、その《無生物主語》に対する動詞がtellなのだが、その例文は江川のp. 30に次のようなものが出ている。

One look at her face told us that something awful had happened. 

(彼女の顔をひと目見て、何か大変なことが起こったことがわかった)

 

では、この文でtellの目的語になっているthat節の中を見ていこう。 

My shopping experience earlier tells me that more and more people now view social distancing as optional.

太字で示した《more and more ~》は「ますます多くの~」。これは自分の意見・考えを述べるタイプの英作文でよく使うことになるから、自分で使えるようにしておくのがよい。

  The college business model is in crisis as more and more students decide they don't want to return in the fall *1

  (ますます多くの学生が秋になっても戻らないと決意しており、大学のビジネスモデルは危機に瀕している)

  As more and more college athletic departments cut sports programs, the financial wreckage due to the coronavirus pandemic is becoming devastatingly clear *2

  (ますます多くの大学のスポーツ部門がスポーツ・プログラムを削減するようになっているなか、新型コロナウイルスパンデミックによる財政的打撃の深刻さが人を打ちのめすほどに明白になりつつある)

 

下線で示した《view A as B》は「AをBと見なす」(このviewは動詞)。optionalはoptionという名詞の派生語の形容詞で、「オプションの」……と下線部和訳でやったら減点対象になるかもしれない。それがどういう意味なのか、カタカナに頼らずに日本語にできるように練習しておこう。「オプション」とは「必須ではなく、あとから選んで、つけたければつけるもの」といった意味。例えば自動車を買うときに、カーナビなど最初からついていないものを購入者が選んでつけるものを「オプション」と言う。一方で、自動車が自動車として機能するために必須のもの(アクセルやブレーキ、エンジンのような機構的なもののほか、タイヤとかミラーとかシートとか)はオプションではない。この「オプション」が形容詞になったときにどう日本語にできるかは、各自でよく考えてみよう。

 

というわけで、このツイートの第一文は、「さっき買い物に出てわかったのだが、ますます多くの人々が、今や、ソーシャル・ディスタンシングを、やれるときはやってもいいかなくらいのものとして見ている」という意味になる。

 

次の文: 

Maybe they think the lifting of some restrictions means the threat has gone.

これは接続詞のthatが省略されているので、それを補うと: 

Maybe they think (that) the lifting of some restrictions means the threat has gone.

《have gone》は「行ってしまう」、つまり「ここから去ってしまう」の意味で、日常生活では「なくなってしまう」の意味でよく用いられる。例えば昨今、ドラッグストアの店頭からマスクが消えてしまっていることについての官僚の発言を、毎日新聞の英語版は次のように伝えている

  "We have no idea where the masks have gone," lamented a senior official at the prime minister's office in Tokyo.

  (「マスクがどこに行ってしまったのか、皆目わかりません」と東京の首相官邸の上級職員は嘆いた)

 

"the lifting of some restrictions means the threat has gone" は「一部の制限の解除は、脅威が去ってしまったことを意味する」という意味。そのように考えている人々がいるから、買い物に出ても人と人の間隔をちゃんと取らないのだろう、とブライアンさんは述べているわけだ。日本語では「気のゆるみ」と言われてしまうだろうが、「気のゆるみ」とは何かが違う。そう、ゆるめられたのは行動制限であり「気」ではないし、ゆるめたのは行政であって市井の人々ではない。こういうときに使うべき表現は、「気のゆるみ」ではなく「制限解除に伴う過剰な安心感」だろう(が、日本語では「気のゆるみ」と言われ続けることだろう)。

 

最後の部分: 

Those in politics pushing for a quicker pace out of lockdown need to wise up. Wrong message.

文頭の "those in politics" は those who are in politics のwho areが省略された形で、「政治にたずさわる人々」の意味。このthoseの用法は実際の英語では非常によく見る一方で、日本の学校教育ではあまりしっかり教えないので(下手すると、習わないことすらある)、要注意である。

太字にした "pushing" は《現在分詞》で、"pushing for a quicker pace out of lockdown" がひとまとまりとなって先行の "those in politics" を修飾している(分詞の後置修飾)。つまりここまで、「ロックダウンからより速いペースで出ることを押している政治家たちは」という意味。

英国はあれだけひどいことになっていながら、なるべく早くロックダウン解除すべきだと主張する政治家たちが政治の中枢にいて、かなり混沌としたことになっている。ボリス・ジョンソン首相自身が感染して一時は生死の境をさまようほどになったので解除推進派の声が抑えられている感はあるが、それでも、情勢を見るよりもまず「一刻も早い解除を」という「解除ありき」みたいな声が政治家たちから出ている。

それをニュースなどで聞かされる方は、「なんだ、もう行動制限は必要なくなってきているんじゃないか」と受け取る。

ブライアンさんはそれを "Wrong message." 「誤ったメッセージだ」と言っている。

 

f:id:nofrills:20200527143928p:plain

https://twitter.com/BrianPJRowan/status/1262829122017013761

 

北アイルランドは、第一次世界大戦末期の1918年5月のスペイン風邪第一波で大きな犠牲を出した。その第一波のあと、11月に第二波がより大きな犠牲を生じさせるのだが、その第二波でのアウトブレイクは、第一次世界大戦終結(1918年11月11日)でのお祝いで大勢の人々が街頭に繰り出した1週間から2週間後に確認されているという。詳細はこの3月にBBCに出ていた記事を参照のほど。

www.bbc.com

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

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