今回の実例は、報道記事から。というより、報道記事に引用されている国際NGOのステートメントから。
香港で、「逃亡犯条例改正案の完全撤回」や「普通選挙の実現」などを含む五つの目標「五大要求」を掲げた大規模なデモが始まったのは、わずか2年半前、2019年3月のことだった。このうち、「逃亡犯条例改正案の完全撤回」は実現されたが、そのあとに続いたのはこのほかの要求の実現ではなく、中国政府(北京)による徹底した抑え込みだった。
2020年春から流行が始まった新型コロナウイルスの影響もなかったわけではないが(何よりも「感染防止」がデモ・集会の禁止の口実として利用されたことなど)、2019年から20年にかけて続いた民主化デモ*1の息の根を止めてしまったのは、2020年6月に北京で成立し、7月1日に発効した「香港国家安全維持法」である。これについては、2021年6月にNHKがまとめ的な記事を出しているので、そちらを参照されたい。
最近では、香港にあった「天安門事件記念館」が中国当局によってつぶされたり、天安門事件追悼集会を組織していた人たちが逮捕・起訴され有罪判決を受けたり、香港大学に設置されている天安門事件追悼のモニュメントが撤去を命令されたりと、特に天安門事件に関して語ることを許さないという中国政府(北京)の動きを報じる記事が続いていたが、それに加えて、またひとつ、大きな動きが報じられたのが昨日のことである。
BBC News - Amnesty to close Hong Kong offices over National Security Lawhttps://t.co/wmjWZuuaFu 😥
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年10月25日
BBCのこの記事の見出しにある固有名詞、 "National Security Law" は、「香港国家安全維持法」のことである。
この法律の影響で、アムネスティ・インターナショナルが、香港が英国の統治下にあったころから開設していた香港事務所を閉鎖するという。
いずれこうなるだろうと思ってはいても、まさかこんなに早くとは思っていなかった。それだけ、状況が厳しいということである。
細かくソースをつけながら書いているのでここまで書くだけでめちゃくちゃ時間がかかっているため、この先は飛ばしていく(この先こそが当ブログの本題なんだけどね)。
記事は短いので、ぜひ全文を読んでいただきたい。英文法の実例として見るのは下記の部分:
キャプチャ画像の第1文:
The human rights group said [ the law, imposed by China, makes it "effectively impossible" for them to operate ].
朱字のカッコでくくった部分がthat節(thatは省略されているが)で、 "said" の目的語という構造。
下線で示した部分は、コンマとコンマで挟んだ《挿入》の構造になっていて、直前の "the law" を "imposed" という《過去分詞》が後ろから修飾している(後置修飾)。この "the law" がthat節内の主語で、that節内は《make + O + C》の第5文型(SVOC)で、Oが "it" でこれが《形式目的語》、Cは "effectively impossible" で、そのあとの "for them to operate" が《真目的語》であり、太字で示した "for them" は後続の "to operate" というto不定詞の《意味上の主語》になっている。
この構造は受験で出題される英文では頻出だから(というか、受験と関係なく普通に読む英語で頻出である)、完全に自分のものにしておきたい表現である。何か手近な例でいくつか短文を作ってみるとよい。例えば:
The cold weather makes it impossible for my grandmother to go out.
(寒い天候のため、私の祖母は外出することが不可能だ)
記事中で、"effectively impossible" が《引用符》でくくられているのは、それがアムネスティ・インターナショナルの声明文にある表現をそのまま引用していることを示している。
文意は、「その人権団体は、中国によって課せられているその法律が、団体が活動することを『事実上不可能に』していると述べている」となる。
なお、この文で主節が "said" と過去形で、that節内が "makes" と現在形なのは、《時制の一致の例外》である。
この記事で参照されているのはアムネスティ・インターナショナルの声明だが、せっかくなので一次資料(その声明そのもの)も読んでおくとよいだろう。ウェブ検索すればだれにでも見つけられるが(それができるということが、「自由」である)、こちら:
※2400字
補足:
Ew. https://t.co/Gs9jZKvIBR
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2021年10月26日
ツイートして安全なような気がしないので別枠で。