Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

前置詞+関係代名詞, given ~, there is/are ~構文の応用の形, など(リズ・トラス英首相、早くも辞任/付: レタスやら豆腐やらのネタ解説)

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今回は、ツイートされたてのほやほや、お刺身でもいけるくらいの新鮮なネタ。

実は、前回の続きで亡命ロシア人の手記をもう少し読んでおこうと仕込んでいたのだが、今週の英政界の急転が決定的な局面を迎えたので、仕込んでいる記事は明日に回して、英政界についてのフィードを扱うことにする。

リズ・トラス英首相が辞任を表明した。就任してわずか44日。英国/イングランドの長い歴史で、首相の在任最短記録を大幅に更新するという偉業を成し遂げた。後継となる保守党党首は来週選出される。

首相の辞意表明のお約束として、ダウニング・ストリート10番地(首相官邸)の例の黒いドアの前に演台を出して、そこで、通りの向かい側に居並ぶ報道陣を前に、退陣を表明するスピーチを行うのだが、日本時間で今日の21時半過ぎにそのスピーチが行われた。

そのスピーチからおよそ1時間後に、Twitterの本人アカウントにステートメントが投稿された。

今回の実例はその文面から。

まず、「自分の業績(と本人が見なしているもの)」を挙げ、2つ目のツイートで《接続副詞》のhoweverを用いて展開し、最後のツイートでこの先のことを端的に述べる、というスタイルのステートメントである。

最初のツイートには文法的に見るべきところは特にない。あえて言うなら《文頭のAnd》か。

2番目の第1文。カンマが多すぎという文面にならないよう、カンマが省略されて、かっちりした書き方を教わっているうちらから見れば少しイレギュラーな書き方になっているので、そこを朱字で修正すると: 

I recognise, however, that, given the situation, I cannot deliver the mandate on which I was elected by the Conservative Party.

《接続副詞》のhoweverは、このように、文の中に挿入するように使うのが正式である(文頭に置くのではなく)。こういうhoweverを見ると、「格式張った文面だなあ」という印象を受ける。

下線で示した "given" は、giveの過去分詞が前置詞化したもので、直訳すれば「~を与えられると」だが、これは「~を条件として与えられると」の意味で、つまり "given the situation" は「この状況下」という意味になる。これも格式張った印象を与える言い方で、友達との会話で使うような表現ではない。でも知ってないと困るという表現だ。

その次のバートが、この文の本体: 

I cannot deliver the mandate on which I was elected by the Conservative Party.

《前置詞+関係代名詞》の構造になっている。これもまた格式張った表現だ。

この構造がどういうことかというと: 

  I was elected by the Conservative Party on the mandate. 

   ↓ ↓

  the mandate which I was elected by the Conservative Party on

   ↓ ↓

  the mandate on which I was elected by the Conservative Party

「保守党によって信任されて(党首に)選出されたが、その信任にこたえることができない」ということを、リズ・トラスは、格式張った定型文で述べているわけである。

次の文: 

I have therefore spoken to His Majesty The King to notify him that I am resigning as Leader of the Conservative Party.

太字にした "therefore" も《接続副詞》で、このように文中に挿入して用いるのが正式(文頭ではなく)。意味は「したがって、ゆえに」。

これも格式張った語なので、例えば「甘いものが好きなので、コンビニスイーツは欠かさずチェックしています」「雨が降りそうなので、傘を持ってきました」みたいな日常的なことに用いるのはへんてこりんである。

下線部の "to notify" は《to不定詞の副詞的用法》で《目的》を表す。

「したがって、私は、保守党の党首としての職を辞するということをお伝えするために、国王陛下と話をしました」

日本での手続きとよく似ているので解説は不要かもしれないが、立憲君主制の英国では、選挙で選ばれた第一党の党首が首相として政治トップとなるが、その首相を任命するのは国王で、辞任するときも国王に伝えるという手続きがなされる。この9月、スコットランドのバルモラル城にいらしたエリザベス2世のもとを当時の保守党党首で首相のボリス・ジョンソンが訪れて辞意を表明し、続いてリズ・トラス新党首が訪れて首相に任命された。それがエリザベス2世の最後の仕事となったことは、広く伝えられた通りである。

3番目のツイート: 

There will be a leadership election to be completed in the next week.

《there is/are ~》の構文の応用の形である。

まず、動詞がisではなく、"will be" となっている。来週行われること(未来のこと)を言うためである。これは日本語にするときに「~だろう」と訳すと誤訳になりかねないwillで、「~することになっている」というように確定している予定を表す表現にしなければならない。

さらに、《there is/are ~》の「~」の部分に、さらにto不定詞がついていて、そのto不定詞が受動態の形なので、「…されるべき~がある」という意味になっている。

この文を直訳すれば、「来週、完了されるべき党首選挙があることになっている」、もっと普通の日本語にすれば「来週、党首選挙で新たな党首が選ばれます」ということだ(「完了されるべき党首選挙」とは、つまり、最終的に誰が党首になるかを選出するところまでやる、ということだから)。

その次の文。ensureという動詞の目的語であるthat節のthatが省略された形で、それをカッコに入れて補うと: 

This will ensure (that) we remain on a path to deliver our fiscal plans and maintain our country’s economic stability and national security. 

だらだらと長い文なので見かけは難しいかもしれないが、見どころは、《等位接続詞 and》の作る構造程度だろう。最初のandは、下線で示したような接続の構造、2番目のは単純で、 "economic stability" と "national security" をつないでいるだけである。

既に当ブログ規定の4000字に達しているので、先を急ぐ。最後の文: 

I will remain as Prime Minister until a successor has been chosen.

これも文法的には特に難しくはないが、こう書けるかと言われるとなかなか書けないのではないかという文だ。

"will remain" のwillは、上と同じく《単純未来》で何ということはない。「私は総理大臣として(今の職に)留まることになる」。

そのあと、 "until" の節は《時を表す副詞節》で、よって通常、この節内の動詞は(主節がwillを使って未来のことをあらわしていても)現在形を用いるのだが、ここでは現在完了形が用いられている。「後継者が選出されてしまうまでは」という《完了》の意味を強調するような言い方である。

 

※4350字

 

さて、この一連のドタバタでは、いろんな「ネタ」が流れてきた。エントリの最後にそれを補足しておこう。

ドタバタの発端は、クワシ・クワルテング(クワーテング)財務大臣の解任だった。彼がかんがえたさいきょうのミニ予算がめちゃくちゃな内容で、富裕層が優遇される一方で、すでにコロナ禍の不況とインフレと光熱費高騰でボロボロになっている人たちは住宅ローンなどでさらなる負担を強いられることになるというもので、ポンド暴落を引き起こし、広く英国の信用性を下げることになった。リズ・トラスはそのミニ予算を全面的に支持していたのだが、クワルテングがIMFの会合で国を離れてニューヨークに行っている間に更迭を決断、IMF会合から帰ってきたクワルテングは英国に到着してすぐに解任を知らされ、後任に、最終的にトラスが選ばれたこの夏の党首選でまっさきに脱落したジェレミー・ハントが就いた。

このクワルテング更迭のときに、『エコノミスト』誌が言い出したのが、「レタス」の比喩である。9月6日にエリザベス2世のもとを訪れて首相となり、8日にエリザベス2世死去で10日間の服喪期間に入り、23日に問題のミニ予算が出て大荒れ。これを、服喪期間を除外すれば、トラスは首相として権限をにぎって7日で自分の政権に引導を渡した形になるとして、「7日しかもたないって、レタスか」ということを社説(新聞でないから「社説」とは言わないかもしれない。英語ではLeader)で述べたのである。

www.economist.com

これが人々の心をがっつりつかみ、基本的に芸能とスポーツしか扱わないことが特徴のタブロイドであるにもかかわらず、ジョンソン政権以降の保守党のぐだぐだに黙っていられなくなったデイリー・スターは、「トラスとレタス、どっちが長持ちするかな」とばかりに、「レタス・ウォッチング」を開始した。これが、ウケまくった。

このレタスフィーバーに、さらに豆腐が投げ込まれることになろうとは、デイリー・スターも予想していなかっただろう。

豆腐を投げ込んだのは、スーエラ・ブラヴァマン(日本語媒体では「ブレーバーマン」と表記しているところもあるが、彼女の名字の発音は「ブラヴァマン」である)内務大臣(当時)。環境保護主義のデモに対し、環境保護を進めて人々がデモなどする必要のない世の中を作る代わりに、デモ参加者に電子タグを装着させるなどというとんでもないことを考える人物である。ちなみにリズ・トラスも石油産業関連の人脈があるが、現在の英保守党は気候変動について否認主義の立場をとる筋からのロビイングを受けていて、英国で気温が40度になるという異常気象に直面しても、特に何か見直すという方向に行きそうにはない。代わりに、デモが邪魔だからデモを規制しなければならないと考えるような人々である。到底、英国の政治家とは思えない。

ブラヴァマンは極右中の極右で、「自分たち以外は英国に居場所はない」と考えているような人物で、スーエラ(Suella)という名前をもじって「クルーエラ (Cruella)」とあだ名されている。この「ガーディアン読んでて豆腐食ってるウォーク脳ども」という発言で(「ウォーク」などという言葉を得意げに使っているのは、英語圏ではこういう人たちであることを、日本語圏の人たちはあまり知らないかもしれない)は、そんな「クルーエラ」の最新の過激発言として大いに注目されドン引きされていたが、その報道が一巡したかしないかのタイミングで、彼女が辞任を余儀なくされた。

理由は、内務大臣としての職務上の文書を私用メールで送信したことがセキュリティ上の問題につながりかねず議員の行動規定に抵触するというものだったが、その辞表の文面が、今回見たトラスの辞意表明のような事務的で形式的な文面とはかけ離れた激しいものだった。

Pretending we haven’t made mistakes, carrying on as if everyone can’t see that we have made them, and hoping that things will magically come right is not serious politics. I have made a mistake; I accept responsibility; I resign.

www.theguardian.com

どうです、この行間からあふれる「あなたとは違うんです」感。

トラスは「レタス」呼ばわりされ始めたころには既に財務大臣にジェレミー・ハントを当て、ハントがクワルテングのミニ予算をほぼ全部撤回していたが、それを受けて行われることになった国会での緊急討論において本来首相が答えてしかるべきところでも他人(ペニー・モーダント)に答弁をまかせて、自分は一応顔だけは出すという感じで少しの間フロントベンチに座っているということが起きていた。

最近の世論調査では、今選挙があったら労働党に投票するという回答が半数を超えることが常態化しており、現在余裕をもって過半数をおさえている保守党の議席数は2桁にまで落ち込むのではないかという観測すらあり、このままトラス政権の支持率がダダ下がりになれば自分は失職するのではないかという切迫感を抱いている保守党の議員は少なくない。

そういう中に、「レタス」だの「豆腐」だのが放り込まれたら、人々が食いつかないはずがないのである。

そして、スーエラ・クルーエラ・豆腐・ブラヴァマンが政権を去ったあと、リズ・レタス・トラスも辞意を表明した。お野菜最強である。

 

https://twitter.com/trussliz/status/1583089419824730112



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