Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

パレスチナ人に対し、イスラエル側からどのような言葉が投げつけられているか - 1(仮定法過去, 分詞構文, 倒置, dare (to) do ~, など)

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今回は、翻訳という作業についてのこないだの記事の続きをアップするつもりだったんだけど、自分の頭の中のことなんか書いてる場合じゃないな、っていう状態になっているので、またもや予定を変更して(お待ちくださっている方がいらしたらごめんなさい)、パレスチナからのツイートを読んでいきたい。

パレスチナで何が起きているか、というより、パレスチナの地*1イスラエルの治安当局や過激派が何をしているか、ということは、前にも書いたが(どの記事に書いたのかは忘れたし、それを探している時間ももったいないから特定する作業ははしょるけど当ブログの【中東】カテゴリの記事のどれかだ)、めったに大手の報道に乗らない。パレスチナの人々がやっているメディアや、ネットで個人で発言しているパレスチナ人(ジャーナリストや「市民ジャーナリスト」と呼ばれる人々を含む)を通じてしか、何が起きているか/何が行われているのかについての情報は入ってこないも同然である。

だが、逆に言えば、Twitterパレスチナ人のアカウントをフォローしておけば、常に現地で何が起きているか/何が行われているのかは伝えられてくる、ということになる。世界に向けて情報を発信している彼ら・彼女らはすごくきれいな英語を使っているから(封鎖されているガザ地区でもそうだが、西岸地区でも東エルサレムでも)、普通に英語が読めれば、彼ら・彼女らの伝えたいことをキャッチできる。

バレンタインデーの今日、私の見ている画面にパレスチナの地から集中的に流れてきているのは、東エルサレムでどんなことが行われているかについての実況のような報告だ。

エルサレムについては、以前書いたものがあるのでそちらをご参照いただきたい。

hoarding-examples.hatenablog.jp

hoarding-examples.hatenablog.jp

今回見る、というか読むのは、その東エルサレムで、住民のパレスチナ人たちに対して何が行われているかを伝えているモハメド・エル・カード(クルド)さんのツイート。彼は著述家として活動しており、米国のメディアThe Nationで記事を書いているほか、RIFQAという詩集出版している2021年には国連でスピーチもしている。

www.youtube.com

Rifqa

Rifqa

Amazon

ハメド・エル・カードさんが、現地で2月13日(土)の夜にツイートしたのは、その週に、彼の暮らす東エルサレムのシェイク・ジャラー地区でどんなことが起きて/行われていたかを報告するスレッドだ。

以下、英文法解説として書くけれど、心理的につらい内容になると思うので、受験生など、コロナ禍で何とか保ってきた心の平安を乱されたくない方はここで閲覧を止めることをおすすめします。受験が終わってから読みに来てください。

ツイート8件から成るスレッドだが、その最初のひとつ: 

第1文は、《仮定法過去》の文である。

If a Palestinian went into a settlement chanting “Death to J*ws,” it would be in international headlines. 

非常に基本的な仮定法過去の文だから、文法解説はなくてもよいだろう(解説してたら文字数が多くなりすぎるので割愛する)。下線で示した "chanting" は《現在分詞》で、この部分は《分詞構文》かな。「~しながら…に入っていく」というように訳すとよいだろう。見た目上はgo fishingなどの《go -ing》の形と同じだが、これは「~しに行く」の意味でとると奇妙だ。

原文の伏字*2も「もしもパレスチナ人が(イスラエル人の)入植地に行って『ユ*ヤ人に死を』と叫んだら、そのことは国際的なニュースの見出しになるだろう」。

次の文: 

Yet since Saturday, dozens of heavily-guarded Jewish settlers are roaming our streets, attacking our families, & chanting “death to Arabs,” knowing they won’t be in the news.

文頭の "yet" は《接続詞》で「だが、それにもかかわらず」の意味。下線で示したように、この文には -ing形が4つも使われているが、全部《現在分詞》で、最初のひとつは《be + -ing》で《進行形》を作っており、残りの3つは《分詞構文》で、最後のひとつはほかの2つとは微妙に違っている。

文意は、直訳すれば「しかし、土曜日以降、厳重に警備されたイスラエル人入植者が何十人も、私たちの街路をのし歩いている。私たちの家族たち(=家族でそこに住んでいるパレスチナの人々)を攻撃し、『アラブ人に死を』と叫びながら。自分たちがニュースで取り上げられないことを知っているからだ」。

2番目のツイート。彼の意見がはっきりと示されている。

これは頭から読んでいけば読めるだろう。接続詞becauseをこういうふうに、単独の、独立した文の頭で使うことは、受験英語ではタブーというか減点の要因にもなるのだが、それは《従位接続詞》というものの使い方(主節に対する従属節を作る)がわかっているかどうかが試験では問われるからで、実際の英語(いわゆる「生きた英語」)ではbecauseがこういうふうに使われている事例もよく目にする。「~だから、…だ」の「…だ」が文脈から明らかでいうまでもない場合はこういう書き方もあり、ということだ。

この文で、そういう「習った文法とちょっと違う」箇所はもうひとつある。長く書かれている第1文の最後のほう: 

... and the license to enact it against Palestinians as if it’s a fact of nature.

"as if" ときたら、後続するのは《仮定法》で、"as if it were" とする、と教えられると思うが、実際の英語では、よほどお堅い文書なら別だが、このように《as if + 直接法》の形は珍しくない。自分で英作文するとき、カチカチに採点されることを意識しなければならない受験が終わったら、as ifの後は仮定法にしなければならない理由があるとき(非現実的なことを言っているとき)を除いては、直接法でもいいんだ、というように頭を切り替えていくとよい。

文意は、直訳すると、「なぜならば、例えば米国やドイツのようなところの主流メディアにとっては、シオニズムは常に正当化されるものだからだ――入植者は、殺人も、誘拐も、窃盗もゆるされている。制度として暴力を独占し、それが自然の事実であるかのようにして、それ(その暴力)をパレスチナ人の上に行使する許可状を独占することがゆるされているのと同様に」。(この日本語ではちょっと読みづらいが、英文を読む補助としてあえて直訳しているのでそこはお含みおきいただきたい。)

そして第2文: 

But dare a Palestinian resist.

《倒置》である。主語は "a Palestinian" で、《dare + (to) do ~》(「思い切って~する」「勇気を出して~する」)が動詞だ。

これは決まった文体で、私はこれを説明するときにシンデレラをよく使うのだが、「シンデレラのお姉さんが素敵なドレスをあつらえてほしいといえば母親は喜んで仕立て屋を手配するのに、シンデレラが同じことをしようものなら」という文の「シンデレラが同じことをしようものなら」は、 "But dare she do the same." と表せる。

エル・クルドさんのツイートのこの部分の文意は、「だが、パレスチナ人が果敢にも抵抗などしようものなら」。

 

全部で8件あるツイートのうち、最初の2つだけで当ブログ規定の4000字に達してしまった。前置きが、これでもかなり短くしてるんだけど、かなり文字数を食っているからね。続きは明日。

 

f:id:nofrills:20220326214116p:plain

https://twitter.com/m7mdkurd/status/1492965313528410114



 

*1:パレスチナの地」とう表現でさえも論争を引き起こすことは重々承知しているが、グリーン・ラインを基準として「パレスチナ自治区」と呼ぶのが一般的であるし、ここでもそれにならうことにする。

*2:ここで彼が伏字を使わなければならない理由は、仮に引用符に入れた引用であっても、仮に仮定法で書いてあってもこの言葉をパレスチナ人が書くと、大変な嫌がらせにさらされるからである。私は自分の直接の友人にそういうことが起きたのを知っている。

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