Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「これしかない」という意味の定冠詞のthe, 省略, 関係代名詞のthan, 動詞化したYouTubeなど(「北アイルランドといえばこの曲」というスレッド)

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今回の実例は、Twitterから。

1969年8月15日から物語が始まる映画『ベルファスト』では、この町の出身でこの町のことを歌い、当時から活躍していたヴァン・モリソンの楽曲が全体を通じて印象的な使われ方をしていたが、北アイルランドは多くの音楽家を輩出してきた土地である。

だから、下記のように、「子供の学校行事で必要になったんですが、北アイルランドの音楽といえばこれ、っていうアイディア出しをお願いします」と北アイルランド出身の人がTwitter上の北アイルランドに要請すると、とてもたくさんの回答が寄せられることになる。

このスレッド、眺めているだけでも楽しいのだが、今回はこのスレッドの中からいくつか英語表現を拾ってみよう。

なお、ツイート冒頭の "Norn Iron" は、Northern Irelandが口頭で砕けた調子になるとこういう音になるよね、っていう現地の人たちの表記。ただし、この土地のことをNorthern Irelandと呼び、"the North" とか "six counties" と呼ばないのは、1998年の和平合意(ベルファスト合意、またはグッドフライデー合意)以後の世代でなければユニオニストの人たち(俗にいう「プロテスタント系住民」)だから、この要請でこの表現が使われている時点である程度の振りわけがなされている*1。スレ主さんは北アイルランド出身で、米ワシントンDC在住。

ちなみに、概況としては、The Undertonesの例のあれと、Stiff Little Fingersの例のあれが二強で、そこにSnow PatrolやAshがからみ、そのほか綺羅星のごとく多くの名前が挙がっている、という展開ですかね。


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英語表現としては、まずこちら。

《定冠詞のthe》で「決定版」「これ以外にない」という意味を表している例。強調のため、theは全部大文字で書かれている。

ちなみに曲はこれ。超初期のベルファストでのライヴ映像。観客が当時のパンクスなんだけど、スーツにネクタイの人もいたり、ナチスを強く連想させるものをアクセサリーとして使っていたり(当時のパンクのお約束。ネオナチ界隈は別として、一般には、大人をむっとさせるための小道具という以上の意味は持っていなかった)と、いろんなことが確認できる。歌詞はネットで検索すれば読めるから各自で読んでほしい。文脈はIRAやINLAやUVFやUDAといった武装組織による爆弾攻撃が頻発し、そのために警察や英軍が一般の住民に対して抑圧的にふるまうという現実にあり、その「軍事化」された街で閉塞感にイライラを抱える若者の話である。


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次のツイート。

これは《省略》が興味深い文例。省略されているものを補うなどすると: 

I[You] can’t add much more than is already here. You[It] can’t go wrong with Snow Patrol, Undertones, SLF, Ash, Two Door Cinema Club, D*Ream, Foy Vance but could I add Ryan McMullan? If you are looking for[at] songs about NI go for Alternative Ulster, Star of Co Down, Boys from Co Armagh, Town I Love so well

最初の "Can’t add ..." は「すでに出ているもの以上に加えられるものはあまりない」という意味の文で、主語は "I" だろうが、それが省略されている(《手紙や日記の文》での文体)。あるいはこの場合は「これっていう曲は出尽くしてるな」という意味だから、「私に限らず誰だって付け加えられるものはあまりない」ということで、省略されている主語は "You" かもしれない。

"add much more than is already here" の部分で、青字で示した "than" は《関係代名詞》、と言われると難しく感じられてしまうかもしれないが、これは比較級を伴った表現でしか使われないので、さほど難しくはないだろう。

  The parcel arrived earlier than (was) expected. 

  (小包は、予想されていたよりも早く届いた)

第2文、 "Can't go wrong with Snow Patrol, ..." の文も主語が省略されているが、ここは「お子さんの学校行事に参加されるあなた」の意味の "you" かもしれないし、一般的に「人は(誰でも)」ということを言う "you" かもしれない。ひょっとしたら、漠然と《状況》を表す "it" かもしれない(it can't go wrongは成句として覚えておくと便利)。要は「~をかけておけば外さないだろう」「~なら間違いない」という意味だ。

"Snow Patrol, Undertones, SLF, Ash, Two Door Cinema Club, D*Ream, Foy Vance" はバンド名およびミュージシャン名。 "SLF" は《頭字語》で、すぐ上でも言及されているStiff Little Fingersのこと。

Two Door Cinema Clubは下記の曲をよく耳にした。今もおしゃれなショップBGMとして聞くことがある。


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”D*Ream" はほんとはD:Reamと書き、北アイルランド出身のミュージシャンが中心となりロンドン拠点で活動した90年代のポップバンドで、"Things Can Only Get Better" (直訳すれば「ものごとは、よりよくなることしかできない」)は1997年の英国の総選挙で労働党がテーマソングとして使った。MVではなぜかヒエロニムス・ボスの絵を背負っておにいさんが歌ってるのだが、楽観性しかないような曲である。スポーツニュースのBGMでもよく耳にした。ちなみにこのバンドでキーボードを弾いていたのが、現在英国のテレビで一般人にわかりやすく物理学の話をするなどしているブライアン・コックス教授(オクスフォード大学)である(若いころはミュージシャンだった。今もさほどの年ではないけれど)。


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Foy Vanceはトラッド/フォークがベースのシンガーソングライター。David Holmesと組んだ仕事がある。


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そして、ツイ主さんが「付け加えさせてもらってもいいですか」と言っているRyan McMullanもシンガーソングライター。この辺に来ると、そろそろ「小学校の行事でかける曲」ということから離れてきてるような気もしなくはない。


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そのあとの部分、 "If you are looking for[at] songs about NI" の部分は《副詞節内での主語とbe動詞の省略》と考えられる。ここでは主節が "go for ..." という命令文なので主語は "you" だ。if節でのこのタイプの省略は非常によくある。

  I'm ready to work with the armed groups if necessary

  (もし必要とあらば、武装組織と協同する用意はある)

lookは自動詞なので、"looking" のあとにはforなりatなりの前置詞があってしかるべきだが、ここでは削られている。おそらく文字数が上限ギリギリだからだろう(現状のツイートであと2文字しかない)。こういう省略は、勘所を押さえていない限りは、真似しないほうがいい。意味が通じなくなる可能性が高いからだ。

このように「北アイルランドについての曲を探しているのなら」として挙げられているのは、他にも推薦する人が多くいる定番ソングである。古いというか、「北」アイルランドが成立する前の曲もある。


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最後に一つ、英語として興味深いかもしれない例。

"YouTube" が動詞として使われている。それもここでは「YouTubeで検索する」の意味。これは学校では習わないと思う。

このツイートが「YouTubeで検索すれば、検索してよかったと思うよ」といっている「ペイズリーのラップ」はこれかしら……私は「検索してよかった」とは思わなかったけど。(イアン・ペイズリーは、映画『ベルファスト』でカトリックについて恐ろしいことを言っている牧師のモデルと思われるんですが、もう4000字超えてるので説明は省略。)

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お口直しならぬお耳直し。これも推薦している人が多いエレクトロニカのBicepの曲。小学校のイベントに向いてるかどうかはわからない。

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※4600字

 

実は手を負傷していて、タイプするのがつらかったので、先週は過去記事の再掲ばかりとなっていましたが、今週から徐々に戻したいと思います。よろしくお願いします。

 

 

 

*1:それでも、おそらくスレ主さんを直接知っている人の「ネタ」だろうが、IRAの結束促進や戦意高揚に用いられたナショナリストのお歌も推薦されてて、ああ、北アイルランドってこうよね……感が高いスレッドである。

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