今回の実例は、前回と同じ記事から。
と、本題に入る前に、デイヴィッド・トリンブルの訃報の伝えられ方について、ひとつ記録しておきたいものがある。
トリンブルは生まれも育ちも大学もベルファストの人だったが、そのベルファストのユニオニスト側のメディア、The News Letter紙は、訃報のあった当日、トップページがほぼすべてトリンブルで埋め尽くされたような状態だった。訃報が出て数時間後のものだが、キャプチャは下記。メインの記事はこちらで、中身はPAという通信社の配信記事であるが、トリンブルという政治家をよく知らない人でも、読んだらどういう政治家だったのかがわかるように書かれている。
さて、本題。今回見る記事はこちら。「グッドフライデー合意(ベルファスト合意)の設計者のひとり」の訃報を受けての、合意を実現させたすさまじい交渉の席にいた人々や、北アイルランドの各政党(特にユニオニズムの政党)の政治家たちの反応をまとめた記事である:
前回は書き出しで「トリンブルの死で、普段は激しく対立しているユニオニズムの各政党がひとつにまとまった」ということを描写するロリー・キャロル記者の見事な記述の部分を見たが、今回は記事の中のほうから、寄せられた反応を紹介している部分を見てみよう。
キャプチャ画像の最初のところにある「クリントン」は、当時米国大統領として北アイルランド和平交渉にあたったビル・クリントンである。日記をまとめたようになっている彼の回想録の下巻に、この和平交渉についての、断片的だではあるがクリントンが常に絶えざる関心を払っていたことを示す記述が何か所にもわたって出てくる。
この交渉に当たった米国人で最も重要な役割を果たしたのは、大統領ではなく、ジョージ・ミッチェル元上院議員であり、クリントンはそのこともちゃんと書いていて、「わたしの役目はもっぱら彼らを奮い立たせ、すべての党はがジョージ・ミッチェルの構築した枠組みに収まるよう、後押しを惜しまないことだった」と記述している(p. 485)。この点、何かと話を盛る傾向が強く、「北アイルランド和平は私がいなかったら実現しなかった」みたいなことを言って顰蹙を買った妻のヒラリー・クリントンとはかなり違うと思う。
閑話休題。
そのクリントンのコメントより:
“His faith in the democratic process allowed him to stand up to strong opposition in his own community, persuade them of the merits of compromise, and share power with his former adversaries. His legacy will endure in all who are living better lives because of him today.”
一読して「うーわ、かっこいい」と嘆息してしまうような英文だ。この人の英語は実にかっこよくて、マーティン・マクギネスの葬儀で述べた弔辞もすばらしかったのだが、「英語学習者にとってのお手本になる米大統領英語」としては、バラク・オバマと並べてもよいのではないかと思う。
文法的には、まず第1文は《無生物主語》の構文で、このまま直訳すると「彼の信念が彼に~させた」となってしまい、日本語ではおかしな感じになるから、「信念ゆえに彼は~することができた」みたいな感じで意訳しなければならない(「意訳」というのは、「何となくフィーリングでそういうことかと思ったのでそう訳す」というものではない。文構造を見て文法を踏まえて正確に「意味」を取ったうえで、日本語で自然になるようにアウトプットして訳文を作成することである)。
文中に出てくる文法項目としては、《allow + 人 + to do ~》と、《等位接続詞》のandによる接続の構造がある。つまり:
His faith in the democratic process allowed him to stand up to strong opposition in his own community, persuade them of the merits of compromise, and share power with his former adversaries.
やや長い文だが、"allow ..., persuade ..., and share ..." という構造が見て取れれば、解釈は難しくないだろう。
なお、単語がわからないのでこの文を読めないという場合は、基礎的な語彙力不足なので、単語を覚えるところから始めなければならない。「わからなかったら文脈から判断しましょう」というレベルの単語はここにはないし、この文には判断の根拠となる文脈もない。
この次の文は、単語は平易だが、少々厄介かもしれない。
His legacy will endure in all who are living better lives because of him today.
【以下、書きかけ】
The former UK prime ministers Tony Blair and John Major and the former Irish taoiseach Bertie Ahern also paid tribute, saying without Trimble’s courage there might not have been a Good Friday agreement.