Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

機械翻訳の使いどころ(文字を読むことすらできない言語で書かれた文章について、何が書かれているのか程度のことを把握する)

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今回は、前回の補足で、ネット上の日本語圏で流れている「ウクライナでは鶴は不吉」なる無根拠な説に関連しての調べものについて。

なお、調べものそのものが目的であれば、ウクライナについてのことなので、ウクライナで用いられてきた言語、特にウクライナ語やロシア語で調べるのが筋だが、当ブログはあくまでも「英語を使う」ということについてのブログなので、調べものそのものとしては内容ぺらっぺらで向こう側が透けて見えるくらいかもしれない。

また、本稿ではGoogle翻訳を使っているが、Google翻訳のようなものは、ここで見るように、個人の立場で「何が書かれているかを把握する」「自力では読めない言語で書かれているものについても少しは調べ物ができる」用途では役に立つにせよ、それ以上のものではない。機械翻訳においては細かいニュアンスや文脈、その文章の流れなどは無視されるし、内容の正確性も誰も保証していない。それを認識したうえで、「便利に使える範囲では便利に使う」と割り切って使う道具としては優れていると思うが、そこ止まりだ。繊細さ、慎重さが要求されること、自分の中に何の判断基準もないことについては使うのは難しい。今回の事例では、「鶴は不吉」という情報が、少なくとも重要視されるものとしては、書かれていない、という程度のことがわかればよいので、機械翻訳でカバーできる。

本題に入る前に、例の無根拠な「鶴は不吉」説(ガセネタ)で「ケルト神話」が言及されていたので、アイルランドでの鶴のシンボリズムについて少し見ておこう。ただし「ケルト」と言ってもめっちゃ範囲が広く、「アイルランドケルト」であっても「ケルトアイルランド」ではないということは前提としておいていただきたい。

 

ウェブ検索で "crane celts symbol" というキーワードで検索すると、「シンボル事典」というサイトのエントリが見つかった。そこには次のようにある: 

The crane was sacred to early Celts, who left behind many votive images of the bird. Manannan Mac Lir, the Irish god of the sea, who had a magical bag made from the the skin of a crane who was his lover magically transformed. The underworld god Midir owned three cranes to guard his home, and to see three cranes is an omen of death. The crane was also an emblem of envy, and Irish legend has many stories of women transformed into cranes by rivals. The crane also features in Christian legends, where transformation into a crane is a common punishment for disrespecting a saint or as penance for a variety of sins.

symboldictionary.net

これの最後の、「キリスト教の伝説にも鶴が関連するものがある」というくだりは、まったく知らなかった。アイルランドだけのことだと思うが、聖人への不敬や様々な罪についてのつぐないとして人が鶴に変えられてしまうというものがよくあったのだそうだ。

それは措いておいて、興味深いのはその前にある "The underworld god Midir owned three cranes to guard his home, and to see three cranes is an omen of death." である。地下(冥界)の神ミディールの住まいを守っていたのが3羽の鶴で、したがって「鶴を目撃することは死の予兆」と言われた、という。

これは、伝言ゲームを経たら、「ヨーロッパでは鶴は死を告げる鳥だ」という単純化した勘違いにもなりうるのではないか。

実際にはアイルランドは「ヨーロッパ」のごくごく一部でしかなく、その神話体系は広く共有されているわけではないので、そういう単純化は単に的外れなのだが。

さて、本題である。

前回のエントリで扱ったやり取りに、@kozawaさんが次のようなリプをくださった。

この3つ目のツイートで紹介されているリンク

samodelki.org

見ての通りキリル文字なので、私には残念ながら文字を読むことすらできない。

かつてなら、ここであきらめるか*1、この文字を読めて言語が読める人を手配するかする必要があったところだが、現在は幸いなことに、もうひとつ別の手段がある。そう、機械翻訳だ。

こうして、文字を読むことすらできないウェブページのURLをGoogle Translateに入力してEnterキーを押すだけで、日本語にも英語にもしてくれるのだから、ありがたいものである。それが「翻訳」と呼べるものであるかどうかは疑問だが、少なくとも、何が書いてあるのかはこうしてわかるようにはなる(どのように書いてあるのかは、これだけでは判断できない。また出力された結果がどの程度妥当なのかはそれこそケース・バイ・ケースである)。

で、最初何もせずにいたらデフォルトで日本語に「翻訳」してくれたのだが、その文面が、文法的には通っているから「支離滅裂」ではないのだが、何を言っているかわからない文になっており、結局英語で出力してもらうことにした機械翻訳は何かの言語と英語の間での翻訳が最もうまくいくようにできている(だって開発者が英語を前提にしているのだから)。

それによると、このページは日本の折り鶴の作り方についての解説ページで、その冒頭に次のような解説文がある。

The classic origami crane, made in the traditional oriental technique of paper folding without glue and scissors, is still a sacred symbol of the peoples of China and Japan today. Here, the graceful bird is practically deified, considering its paper figures as a powerful energy backup of the sacred symbol. In fact, cranes have been revered since ancient times not only in the east. In Italy, for example, this bird is considered a kind of marker of the decency of the family - where the crane settles, kind and very worthy people definitely live. And in the old Slavic traditions, a pair of large-winged kurlyk nesting in the yard foreshadowed the imminent replenishment of the family - the birds were honored and protected.

https://samodelki-org.translate.goog/origami-zhuravlik-iz-bumagi/?_x_tr_sl=auto&_x_tr_tl=en&_x_tr_hl=en-US&_x_tr_pto=wapp

ざっくりと、「鶴は中国や日本では聖なるものとして扱われており、西洋でもたとえばイタリアで子供が新たに生まれるしるしとみなされているし、鶴が住処を構えるところに住む人は親切で裕福であると言われる」といったことが書かれている(のだというのがGoogle翻訳の示していることである)。

そしてそのあと、「スラヴの古い伝統(昔話)では、大きな羽をもつkurlykのつがいが庭に営巣すれば、その家にすぐにも新しい一員が加わる予兆とされる」とあり、「この鳥は讃えられ、守られていた」とある。

コウノトリ的な意味合いがあったのかもしれない。

現代の日本でも「鶴(タンチョウヅル)といえば求愛ダンス」というイメージがTVの自然番組などを通じて定着しているが、その鶴の渡り先であるユーラシア大陸でも「繁殖」のイメージの鳥なのかもしれない。大きいから目立つし、わかりやすいのかもね。

と、話がそれたが、ここでわからないのは "large-winged kurlyk" である。「大きな羽をもつkurlyk」とあるのだが、"kurlyk" などという英単語は見たことがない。というか、たぶんない(探しても出てこない)。おそらく、英語にするすべがなくて、元のロシア語を音だけ英語のようにしたのだろう。

これがわからないと話にならないので、それを調べてみることにした。ところが、である。

こういうときは、わからない単語を検索窓に入れて、Google画像検索に投げると、Wikimediaなどいろいろな情報が文字で確認できるサイトの画像を示してくれるので、効率がよい。

今回もそうしてみたところ……は? 鳩? という図像の下に、鳩っぽくない、それでいて鶴かと言われると鶴ではなさそうなのだけど鶴っぽい鳥*2も表示されている。

とりあえず、その鳥の画像をクリックして、行きついた先が: 

https://bs.petmypet.ru/3512-crane-bird-description-features-species-lifestyle-an.html

ここ、ロシアのサイトで、URLに「.ru」があるからか、Google翻訳ではウェブページ翻訳ができなかったんだけど、私には何語かすらもわからない。

でも大丈夫。上記キャプチャ画面でハイライトした文面をGoogle翻訳にコピペして、テキスト翻訳すれば……

ボスニア語だ。うちら、「ユーゴスラビア」世代は「セルボ・クロアチア語」と呼んでいた言語に含まれているはずである。

そして文章を読んでみると、なるほど、「節回しの良い高音のkurlyk」、鳴き声だ。

そして氷解する、「なぜ鳩の画像が」という謎。くるっくー。

こうなってくるとどんどん楽しくなるのだが、本稿そろそろ5000字になるので先に行こう。

こうして、「あれ? 今、何を調べていたんだっけ」という地点までたどり着いたところで、本稿はおしまい。

いずれにせよ、スラヴ圏で「不吉な鳥だ」とする記述は見つけられていない。「不吉であり、避けるべき」であるならば、どこを見ても真っ先にそれが書かれていて当然なのだが(たとえば西洋における「黒猫」のように)。

一方で、Twitterを見れば、「不吉どころか」という情報が、Twitter日本語面のウクライナ圏から次々とツイートされているのだが。

ウクライナ日本人で、現在は日本に退避しているЕрікаさん: 

千羽鶴をわさーっと房にして送られても扱いかねるかもしれないけど、物を贈るときに折り鶴を一羽、それこそ納品書に貼りつけるみたいな感じで「平和を願います」と書き添えるなどして同封してあったら、個人間で通じるものはある、という感じかもしれないですね。無味乾燥な物資をhumaniseするというか……。

そういえばこないだ通販で猫ちゃんのプリントされた布のトートバッグを買ったんだけど、袋を留めるテープが猫ちゃん柄のマステで、納品書に肉球模様のスタンプが押してあった。それだけで「このお店でまた買い物しよう」って思えるんだよね(単純)。そういうようなつながりを、折り鶴のようなちょっとした細工ものは、ひっそりと作ってくれる可能性はあると思う。

 

 

 

 

 

 

*1:そうして「現地語は文字が読めないので」とあきらめた人が、自分で読める文字・わかる言語で書かれた文書のみをソースにして書いたものが大量に蓄積されているのがインターネットである。つまり、情報の精度というものは……わかるな?

*2:ぱっと見、「サギ」かと思った。